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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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創作物:夜行歩行
深い夜を歩いて、覇気が私に蘇る。
辺りが暗くなるまで外に出なくなってから、随分が過ぎた。もう幾日も陽の光りの下を歩いていない。日中はひっそりと部屋の中で息を潜めて過ごして、夜の舞台を鼓舞してる。
おそらく、この人嫌いは遺伝だろうと思っている。江戸時代から続く旧家の三代前の当主は、大変な偏屈だったらしいから。数百年を超えて受け継ぐDNA。私は正統な後継者だと誇らしく胸を張っていることは、誰も知らない。時代錯誤な空想はいつも私を和ませる。
今年の夏は徘徊につきあう輩ができた。8歳年下のいとこ。大学生の界。今春から家に下宿している。都下にある学科に近いと言って、合格が決まってすぐに越してきた。深夜に抜け出す私の後ろを好んで着いてくる。何のことはない、ただ夜明けまで歩き回っているだけなのだけど。
「ねぇきぃちゃん。神社を廻って肝だめしをしようよ。裏山は野犬が出るって本当?」
突拍子もないコースを選んでは、私の気を引こうとする。無謀な挑戦。25年近く住んでいるこの町、目をつむったままでも歩けるというのに。
「ねぇきぃちゃん、僕たちのご先祖様が夜行性だったって知ってるでしょ?僕らはきっとその習性を引き継いでいく使命があると思わない?」
「習性ね。ただの徘徊。そんな思いつきの前に、その幼名なんとかならない?気色悪い。名前にちゃんづけ。そんな呼び方するの、今どき界だけ」
「じゃあさ、きよみ。僕と子供をつくらない?」
当たり前な天変地異。
陽だまりとなって、味噌汁の匂いでその日が始まる。そんな日々か。子供をつくるなんて言うから、連なる情景が脳裏に浮かぶ。まともさに、血筋がこの代まで続く訳を納得する。
我が血統には血の気は混ざってないらしい。この分では、誰も人を襲いそうにない。
「いいよ。じゃあ、界、あんたは働き蜂になるんだね。私と子供を食わしていかなきゃいけないからさ」
「そう、僕は夜中にきよみに癒されて、昼はせっせと働く青年。夜を受け継いでいく僕らの子供たち。輝かしい未来だ」
ここは墓地の裏だから魂が抜かれないように、もっと二人くっつこうと言って、界は私の手を繋ぐ。この先に猫の死体が見えたから、きよみは目をつむっていてと、界はキスを盗む。子作りのチャンスは、何を理由に仕掛けるのだろうか。
闇の彩るスリルが好き。
私って人嫌いだったっけと思い出し、よんどころない夜に恋をする。
血筋を絶やさぬように、私たちは今夜も歩き続ける。陽が昇るまで。それまで。
[end]
※FILL書き下ろし2002.8.20
収納場所:2002年08月20日(火)