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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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創作物:僕は待ち人
僕は彼女を待っていた。
火曜の7時、時計台の下。彼女の告げた約束のために。
向かいの花屋は9時半で店終いだった。白い大きな大輪がぽつんと売れ残って夜を飾る。そのまま置き去りにするのが忍びなくて、最後の花を買って帰った。
僕は待ち人。火曜の7時。ただ待ちたかった。彼女がもう来ないと知っていたけれど。
帰りにはいつも売れ残りの花束を買った。
5週間目の晩には、花屋の娘が言った。
「きっと家でシチューを食べていけば、待たなくてもすむようになるかもしれない」
僕はその日、花屋の娘の家に泊まった。
薄紅色の花化粧が心を染める夜。淡い切なさが肌の上にすべって、とろけるように柔く花びらは落ちる。僕の体は娘の思いと重なった。暖かく深く。
翌週、僕はその場所で同じ時間から、花屋の娘を見つめることにした。いろいろなお客に、色とりどりの花を売っている娘を見るのは快かった。
店終いの時間に娘は駆け寄ってきて言った。
「待ち人は待たなければならないのね。待つ夜の切なさは、散る花の速度よりも甘いから」
さみしそうな笑顔と黄色い花を僕に渡して去る。
僕は少しだけ立ち尽くす。今夜も花瓶のない部屋に彩りができる。白いカップに飾る黄色はきっと部屋を明るくするだろう。
また翌週、僕はやはり時計台の下に立つ。ただ待ちたかった。娘に君を待っているのだと伝えるために。
※2002.5.9 FILL書下ろし
収納場所:2002年05月10日(金)