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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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カフェ・スト−リ−
カフェ・モカな日々
占い師と娘と女と
フォアモーメントオブムーン
創作物:セブンティーンス・シンパシー
もし真美がここからいなくなったら、ほんの少しだけ困る人と悲しむ人がいる。
そのことは知っている。きっと親友のつかさも、もちろん両親だってひどく辛いだろうね。逆を考えてみれば心情くらいは想像できるよ。
だからと言って、真美がいなくなったとて、さほどそう何かが変わるわけではないでしょ?いなくなった分は、大抵のことは誰かがそのかわりになって物事は進む。
たまにね、ビルの上からぴょんと飛び下りてみようかな、なんて思う時がある。もちろん、できやしない。だって痛いもん、きっとそれ。
人並みに真美にも恋人がいる。信二との時間はとても素敵。信二とセックスした後は世の中は全部平和で、幸せに満ち足りているって、馬鹿みたいに陶酔するの。笑っちゃうけど。
でもね、時々その後、信二はお金をせびる。ゲーム代やクラブ代がなくなっちゃったんだって。すっかり興覚め。もううんざりして、わずかなおこづかいを渡す。ねぇ、そんなんで本当に満足なの?
自分が生まれてきた価値を知りたい。自分の命は何のために宿ったのかを教えて欲しい。
価値って何よ?
生きるために何かが生み出され、作り上げられ、その生産性に代償が払われる。それは生命的に、機能的に生きていく助けとなるもの。感覚的に心を動かすもの。満足を得てそれらに見合った代償物を自分の持ち物から差し出す。持ち物の多くは、代償物として生み出された金を払う。それが価値というもの。
何それ。
誰もが持っている共通の価値、それはお金ではなく時間。赤ん坊にも大人にも、金持ちにも、貧乏人にも、同じ価値で時間が存在する。誰しもに生まれながらに与えられている唯一の絶対的な価値だ。その純粋な持ち時間を、自分の持ち物として、時には労働に変えて切り売りし、金を得たり喜びを得たりしながら、皆生き長らえる。しかしそれもまた、同じ分の平等な時間を皆が持っているわけではない。寿命は各々に違うわけだから。
今、与えられている時間、今しかないもの。時間を労働で尽す以外に、自分は何を代償として差し出せるんだろう。生命自体が価値であると言い切るために、能力を測り、愛情を知り、居場所を見つけだす。それが生きること?
真美はまだ何も手にしちゃぁいない。見つけだせたら、目の前はパッと光り輝くのだろうか。
ここは寒い。ビルの下にいる人の群れは豆粒ほどにも満たない。強風で一瞬ふらつく。フェンスを握る手から汗が滲んだ。
ピロピロピロ〜。つかさからのメール。
『真美〜〜どこいるぅ?さみしいぞ〜メールくらいしろよぉ』
ピロピロピロ〜。今度は電話。1週間ぶりの信二だ。
「おまえ、暇だろ?ちょっと出てこいよ。あ、俺?労働しちゃってたのよ、1週間も。真美に金返さないと、おまえ別れるって言うだろ」
腰がくだける。生きている価値って何?答なんてわかんない。
でも思う。少なくとも今、生きている。誰かに愛されたいんじゃない。誰かを愛したいのよ。信二を愛したい。
フェンスをよじ登り内側に降りた。制服のミニスカートが風に翻すのも気にせずに雑居ビルの屋上から駆け出す。
悩むことが17歳なら、虚しさを感じるのも17歳の特権だ。まだ諦めるわけにはいかない。
SEVENTEENTH SYMPATHY
※2002.5.5 FILL書き下ろし
収納場所:2002年05月06日(月)