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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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創作物:桜道はweb坂の列車で(3)
暁と私の間には、距離に起因する以外にも溝はあった。まず第一に人物像に迫る情報量が違った。暁は仲間うち同士で楽しむサイトを持っている人。いわゆるホ−ムペ−ジ運営者というもの。まだ開設から日が浅いようだったけれどそこには少なからず、暁の内心を垣間見せる部分があった。
私は、単にそこを訪れただけの閲覧者に過ぎない。おそらく、私がふと足を取られて立ち止まらなければ、そのままWEB上を浮遊するだけに通りすぎていただろうにと思う。
そんなわけで私にはある程度、最初から暁の背景を伺い知れていた。でも私の方も同等程度の自己申告をしておけば、その差は大差ない程度だったけれど…。
新たな出会いについてくる附随品、私には不要なものでしかない。そこに存在しうる個性のセンスを見い出せたなら、その他の部分はどうでもよかった。
暁は地方都市に住み、私より2年分世の中にすれていない24歳。
実際の所、私もそれだけしか実証へと繋がる材料はサイト内では見当たらない。それでも人物像に結び付けるのは、容易い。それまでの会話に折り込まれた事実を注意深く拾い集めていれば、その姿はすぐに形となって現れてくる。
ほんの少し口調が固くなった時、姿勢正しく規律ある仕事をしていると伺えた。公園で日だまりに浸かって過したという休日を思い浮かべ、穏やかな幼少期を思った。その奥に潜む感性を感じ取るために空想に深く思いを巡らせた。
しかし、湧き出てくる想像力はいずれ枯渇状態を迎える。期待へと結び付ける糸口を探しはじめた時、イメージはそこで打ち砕かれ裏切りに舌打ちして立ち往生するのだ。
私は、本当は、暁に期待というものを抱いてはいなかったと思う。しばらくメールが途絶えてもさして気にはならなかった。それこそ私も返信すらろくに返しきれず、放っておくこともしばしばだった。暁もまたそれを不服と感じず、マイペースなやりとりを気ままに愉悦しているように思えた。
そんな近からず遠からずの距離をほどよく気に入っていられたのは、距離の幅は挑まずにいられる心地良いものだったから。向こう岸にいるままの関係でもそれ以上を望む気持ちは私にはなかった。はじめから可能性を求めていない領域に暁はいたから。私の手のすぐ届く場所にはいない人だったから。
空想の中にいる自分を私は好んだ。それはいずれ崩れるものだとわかっているから、そこには期待と裏切りは存在しない、至極の安堵といえる場所。
でも、暁はわざわざ出向くために探してきたと思えるような予定を描いたり、わざと的を外した抽象的な言い回しをして私を戸惑わせたりした。そんな時メールの便利さは私を助ける。文字の魔力は、私のポーカーフェイスは見破らせないと確信があった。
※初出2002.4.5「さと本」より「あなたと出逢った空間に」を加筆。
収納場所:2002年03月18日(月)