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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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創作物:桜道はweb坂の列車で(4)
恋の小さな過信は、必ず読み違いの些細な失敗を犯す。空想を崩す出来事はすぐにやってくる。それもスパイスだったなら、苦く、甘く、切ない味を舌に残すのだろう。
そもそも暁と何故にメールが続いているのか明確な理由は自分でもわかっていない。
暁へと引き寄せられる理由に思い当たる節と言えば単純にweb上にいた暁の感性が私の心に訴え、私は心のままに答えたくなった。そこにアドレスがあったからメールを送ったし、返事がきたからまた送ったに過ぎない。ただそれだけのことだった。
肌を感じる可能性が低いという理由だけでこうも容易く恋の対象者から除外して物事を考えられるのは、女である特権ゆえかもしれない。いつの時代もメスの経験とはげんきんなものなのだ。
それでも、会うための準備は着実に近付いた。計画は思いのほか順調で、もう後戻りはできない用意周到ぶりで整われていた。それもその計画の多くは私のほとんどの下調べによって出来上がったスケジュールだった。正直なところ、もの好きだなぁと自分を哀れんでいる反面もあったというのに…。
しかし、運命はおもしろいほど切り札を持って的を打ち抜く。
「ただ、君と共有する時間をもう少し持ってみたいと思っていた。
でも距離を埋める手段を闇雲に探っていただけなのかもしれない。
今、直感に従えば会わない方が良いのだと僕は思う。」
暁は私の心を透かした。ポーカーフェイスなどそれもまた偶像。
私たちの存在はもう既に、互いの期待の対象物になっていたと知った。
熱の上昇は、自分の周辺も同じ温度にいるのだと錯覚をおこさせる。好意という善意に押し上げられた熱ならばなおさら、共通項を認め合えただけで上昇はさらに進む。
すべての項目に同意したいと願ってしまう時、想いは最高峰に達し、体温すら同じ温度であろうと望む。自分を受け入れ、答えてくれるだろう可能性を期待に変えて、常に心に隠し持ちはじめるのだ。
だから、きっとカップルたちは仕草も雰囲気も顔つきさえも似通ってくるのかもしれない。そしてその裏切りに傷付くことなど顧みずに期待に応戦することを望む。それはまるで戦線さながらに。
私はその戦闘に挑む気持ちはもう萎えで芽でないと思っていたのに、またおずおずとそこに戻ってきてしまったと実感した。
今、私は期待に報わない、裏切りをひとつ犯した砲弾を受けた。
※初出2002.4.5「さと本」より「あなたと出逢った空間に」を加筆。
収納場所:2002年03月17日(日)