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[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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初 出:LOVER'S BRAIN(6)星の降る夜
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その夜、俺はSANAのステージを見ることをやめた。数十分の時をおいて、SANAと同じ空間にいたというだけでもう満足だった。受けて放つ感性の許容量は、既に飽和状態の値を超えていた。これ以上SANAを感じることがあれば、それこそ俺はどこに行ってしまうかわからない。要は、気持ちが高ぶっていたので、危険回避の道をとったということだ。
SANAを求める想いは、男として、人間としていわば当たり前のこと。SANAの波長と同じところにいると知るだけで、感覚は既に超越されたいた。放出されるエネルギーの波に満たされ、みなぎって充分にすべてを体に取り込める。
それ以上を追求すべく、さまざまな貪欲さは俺の中に存在していた。でももっと何か違う大きな流れに体が占領されていく感覚で、現に自分の中で何かが生まれてくるようだった。これ以上の刺激は、きっと本能で制御するようにできていたのかもしれない。自己のぎりぎりのところにある判断力が俺にそうさせた。そしてそれもまた、俺にとって超越という形に反映された満足だった。
あと小1時間もすれば、またあの夜と同じ空気があの店に充満するのだろう。少々の後ろ髪に引かれながら店を後にした。街頭に液晶を照らしてSANAへとメールを打った。
TELナンバーありがとう。
今夜はステージを見ないで、君を見ないで帰る。
君のくれた言葉で、救われ満たされた。
今夜は酒も歌もいらない。風にふかれて熱を覚まそう。
明日の夜、電話しよう。 砂の名と書くSANAへ
俺は、幼き頃から数えて幾晩の星降る夜を超えてきたのだろうか。親に従えずに逃げ出して走り抜けた月明かりの夜。明けることが惜しくて飽きずに費やした都会の長い夜。側にいる温もりさえも、煩わしく暑苦しく思えていた深く冷たい夜。
ビル風を受けて過去に流れていた夜をも同化させて、ただ先にある道を歩いた。
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収納場所:2001年11月15日(木)