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FILL-CREATIVE
[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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俺は無性に絵が描きたかった。 一時は絵の道に進むか真剣に悩んだ時もあった。学生の頃は人並みにデッサンも勉強し、いろいろな手法を使ってはさまざまな絵画にも挑戦していた。課題という強制もあったから、よく当時の溢れんばかりの激情をキャンバスに描きなぐっては情熱のままに仕上げた。そのうちのいくつかは納得のいく自分の絵っていうものも出来ていた。進路は美大と並行して専門で習ったデザインの道へ進み、CGを覚えて今はもっぱら朝から晩までコンピューターに向かうばかりの日々になった。
もう何年、筆を持って絵を描いていないのだろう。忘れ去られていた感覚は呼び起こされ、せつかせて止まなかった。
自覚したときにはもう、手入れもされず十分に揃ってもいない昔の道具を引っ張りだしていた。埃をかぶっていたスケッチブックにただがむしゃらに描き出した。構想は出来上がっていた。
深く、濃く、しかし透き通る群青の青、1羽の羽ばたく青い鳥が羽を広げて飛び立つ姿。
脳裏に焼き付いて離れないディープブルーの鮮やかな色彩。それは、朝焼けを待ち望む浅い夜空。限り無く深い底をも映し出す澄んだ海。俺の描く青。俺が表わしたいもの。表わさざるを得ないもの。形にすべきもの。描かれることを望むもの。俺の魂。そしてSANAから得た躍動だった。
瞬く間に十分でなかった画材は尽きてしまった。チューブの口すらにも残らないほど絞りだされた青い絵の具の残骸。もどかしさにせつかれながら眠気に気持ちを押し止めさせ、心を静寂へと沈めた。あと十数時間後にSANAの声を聞く。夢と現と彷徨いながら、SANAの歌を思い出しては眠りについた。
「砂名か?」
「今夜は会えるの?」
翌日、俺が電話するまでもなく、夕刻6時も回った頃にはSANAは自分から携帯に飛び込んできた。突拍子もなく現れるのはどうやらSANAの趣味らしい。8時には仕事を終わらせ、待ち合わせる約束を告げた。
しかし、その後すぐに届いたクライアントからの一通のFAXは、待ちわびたその日をまた遠のかせた。今進めているプロジェクトの急な修正依頼は、とても1~2時間で終わらせられる内容ではなかった。SANAの残念に沈む声を聞いたら踏み止まれなくなるのがわかって、メールだけでキャンセルを告げた。SANAからも了解とだけの簡単な返信だった。
仕事を片付けている間中、青い鳥の絵はより鮮明に俺の心に映し出され訴えていた。躍動がとりとめもなく心を襲う。そのもどかしさがなお、羽ばたく羽を広げさせ、空高く、青深く、遠い空間に解き放たれていく一羽の鳥。 心の葛藤はもう、SANAに会いたいのか絵を描きたいのか、わからなくもなっていた。そのどちらも切望し触れずにはいられないと欲しているのに、現実はその道を閉ざしていく。 それが運命なのだと、すべてを諦めてしまわないために人は心を研ぎすまさせていく。そして俺は絵を描くのだ。
そんな真理がみつかった頃、あたりは暁を迎えていた。久しぶりの徹夜仕事を終えて、まずは青い絵の具を買いに行くことだと思うのだった。
収納場所:2001年11月14日(水)
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フィル/ フロム・ジ・イノセント・ラブレター
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