FILL-CREATIVE
[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
|
top
|
guide
|
creative
|
story
|
mind
|
bbs
|
mail
FILL since 2002.4.26 ME All rights reserved. This site is link free.
CREATIVEインデックスへ
CREATIVE特選品
★作者お気に入り
★
そよそよ よそ着
★
ティアーズ・ランゲージ
★
眠らない、朝の旋律
★
一緒にいよう
★
海岸線の空の向こう
★
夜行歩行
★
逃げた文鳥
★
幸福のウサギ人間
僕は待ち人
乾杯の美酒
大切なもの
夏の娘
カフェ・スト−リ−
カフェ・モカな日々
占い師と娘と女と
フォアモーメントオブムーン
初 出:LOVER'S BRAIN(9)恋歌
一括表示へ
|
次ページへ
俺が店に着いたのは、11時も過ぎた頃だった。SANAのステ−ジはもう2回目が終りに迫っていた。扉を開けて音響が耳に飛び込んできた時には、SANAはちょうど初披露するという自作の曲を歌い始めるところだった。今日のラストを飾る歌だった。
もしもあなたに出逢えるならば
闇を超えて迎えにいこう
どんなに深く霧がはばむも
途切れてもなお時をつないで
あなたの熱を感じとろう
もしもあなたと出逢えなければ
空も海も宙の彼方も
大気のくずにまぎれていても
あなたのかけらを探しにいこう
私は感じて止まずにいるから
灯火に芯をさとされるように
嵐に反旗をひるがえすように
臆することなく今を生きよう
尽きない語りを果てなく抱いて
恋人たちは 愛 ささやく
LOVER'S BRAIN
知力の全てを 恋にささげて
力のみなぎる想いを ここに
あなたに 放とう 愛を歌おう
LOVER'S BRAIN
あらゆる知能も 駆使して灯そう
力を宿して想いを ゆだね
あなたに 託そう 愛を尽くそう
SANAの響く声そのままの余韻を空間に残して曲は終わった。ピアノの伴奏は溶けだす音を静かにフロアーに落とした。SANAの瞳はフレームの中で見つめていたそれと同じに輝き、大粒の涙があふれて尽きなくSANAの頬をつたっていた。
俺はその時、SANAを感じる以外に他に何ができただろう。
最善列を陣取るどの客よりも、室内に響かせる誰の拍手の音よりも、素早くステージに駆けつけてSANAを抱き寄せた。抱き寄せてなおきつく抱きしめた。すぐにもギターリストが気をまわして、俺の肩に触れて制していなければ、涙で湿ったSANAの顔を俺はキスで拭っていたかもしれない。
興奮の冷めやらぬスポットライトの表側。仕上がったばかりの青く染まるキャンバスをピアノにたてかけ、SANAの手を引いてステージを降りた。
バンドのメンバーたちは終了を告げ、退場する歌姫を拍手で送ってくれるようにと客に促した。マスターには、SANAを連れ去る代償にこの絵をおいていくと目配せで合図した。そのまま俺たちは出口の扉へと向かった。
二人は手を握りしめあって温もりを感じあい、外気へと繋がるステップを駆け上がる。新たな協奏への風を受けて肌にからむ空気の層は、俺たちをまばゆく迎え入れていくのだった。
一括表示へ
|
次ページへ
収納場所:2001年11月12日(月)