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FILL-CREATIVE
[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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俺が店に着いたのは、11時も過ぎた頃だった。SANAのステ-ジはもう2回目が終りに迫っていた。扉を開けて音響が耳に飛び込んできた時には、SANAはちょうど初披露するという自作の曲を歌い始めるところだった。今日のラストを飾る歌だった。
もしもあなたに出逢えるならば 闇を超えて迎えにいこう どんなに深く霧がはばむも 途切れてもなお時をつないで あなたの熱を感じとろう
もしもあなたと出逢えなければ 空も海も宙の彼方も 大気のくずにまぎれていても あなたのかけらを探しにいこう 私は感じて止まずにいるから
灯火に芯をさとされるように 嵐に反旗をひるがえすように 臆することなく今を生きよう
尽きない語りを果てなく抱いて 恋人たちは 愛 ささやく
LOVER'S BRAIN 知力の全てを 恋にささげて
力のみなぎる想いを ここに あなたに 放とう 愛を歌おう
LOVER'S BRAIN あらゆる知能も 駆使して灯そう
力を宿して想いを ゆだね あなたに 託そう 愛を尽くそう
SANAの響く声そのままの余韻を空間に残して曲は終わった。ピアノの伴奏は溶けだす音を静かにフロアーに落とした。SANAの瞳はフレームの中で見つめていたそれと同じに輝き、大粒の涙があふれて尽きなくSANAの頬をつたっていた。
俺はその時、SANAを感じる以外に他に何ができただろう。 最善列を陣取るどの客よりも、室内に響かせる誰の拍手の音よりも、素早くステージに駆けつけてSANAを抱き寄せた。抱き寄せてなおきつく抱きしめた。すぐにもギターリストが気をまわして、俺の肩に触れて制していなければ、涙で湿ったSANAの顔を俺はキスで拭っていたかもしれない。
興奮の冷めやらぬスポットライトの表側。仕上がったばかりの青く染まるキャンバスをピアノにたてかけ、SANAの手を引いてステージを降りた。 バンドのメンバーたちは終了を告げ、退場する歌姫を拍手で送ってくれるようにと客に促した。マスターには、SANAを連れ去る代償にこの絵をおいていくと目配せで合図した。そのまま俺たちは出口の扉へと向かった。
二人は手を握りしめあって温もりを感じあい、外気へと繋がるステップを駆け上がる。新たな協奏への風を受けて肌にからむ空気の層は、俺たちをまばゆく迎え入れていくのだった。
収納場所:2001年11月12日(月)
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フィル/ フロム・ジ・イノセント・ラブレター
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