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FILL-CREATIVE
[フィルクリエイティヴ]掌編創作物
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8月23日 君子さん、正治さんへ えみこより
ちょっとだけ真剣に二人に伝えておきたいことがあります。 まだ、結婚式の花嫁のスピーチを聞かせるには随分時間がかかりそうだから。 お父さんとお母さんに今、話しておきたくなりました。
こそばゆく、照れながらもありきたりの、きちんと娘からの感謝の気持ち。 たまには、こういうのもいいでしょ?
もっと幼いころは、お父さんの短気なところが大嫌いでした。 お母さんのいい加減なところも、すごく嫌でした。 自分の上手くいかないところは、みんなそういう親の悪い性格が 遺伝したんだなんて思って責めて、反発もしましたね。ごめんなさい。 でもね、最近になってえみこのいいとこ、親ゆずりだなんて思えてるのですよ。
正治さんの芸術的センス(?)のおかげで、私は感性豊かに育ったし。 注意:豊かすぎて、疲れるとは、言わないでね。
くんちゃんの社交的な性格が似て、人見知りもせずよい友に恵まれたし。 注意:社交的すぎて、怖いもの知らずで向こう見ずだとは言わないでね。
まんざら悪くもない家庭だったのだなって思います。 えみこは二人の子どもであったこと、良かったって感謝しています。 ありがとう、心からね。
くんちゃんは2年前の秋から、何も私たちには語りかけなくなりました。 でも、えみこはそれでもくんちゃんが好きです。 顔をいつまでも見ていられれば、嬉しいよ。
それでも、確実に私より先に天へ召される運命のくんちゃん。 それが運命であるなら、私は自然なままに受け止めていくでしょう。
あと何年この病室で、熱を帯びた夏に蒸せるのか、 秋の風を切なさで感じるか、冬の冷たさに気を揉むのか、 暖かい春に希望を抱くのか、わかりません。 未来永劫など、どこにも存在しないのだから。
それでも祈り続けていく。それが人の常として証として。 温もりのまま、どうか生き続けていてとね。
収納場所:2001年08月17日(金)
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フィル/ フロム・ジ・イノセント・ラブレター
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