un capodoglio d'avorio
2003年07月03日(木) |
ある映画のワンシーン、から |
1:映画のワンシーン
前後に一つずつシートがある戦闘機が雲のなかを飛行中。 前のシートの上官が後ろの部下に「いま、何時だ!?」と訊ねる。 それで部下は自分の懐中時計を取り出すが、 なぜかその鎖に繋がれた時計が顔の前にピョコンと立ち上がる。 ?、と、部下はその時計を下に押し下げようとするけど、 何度トライしても、その時計は手を離したとたん、 部下をからかうかのように、空に向かってピョコンと立ち上がる。 部下の身振りはなかなか滑稽で笑えるシーン。 さあ、でも、なぜだろう? 種を明かせば簡単なはなしで。 この戦闘機は、雲の中を飛行していく内に、 天地が反対になっていたために、 懐中時計が「自然」に重力にひっぱられていただけのことだ。 それだけのことなんだけど、私たちは笑いながらこれを見てるんだけど。 なんで、いったいなんで、「おかしいことが目の前で起きているのか」。 考えてみると、含蓄の向こうに見える、空恐ろしい風景。
2:1996年・朝鮮
人民は飢えている、これが社会主義か? 人々は私のことを狂っていると言うだろう。 しかし私は狂っているのだろうか? 実は彼らこそが狂っていて、 私は正常なのだ・・・
いまは韓国にいる、元・北朝鮮の最高幹部ファン・ジョンヨブが、 亡命を決断するに至った心持ちを綴った手記。 「人々は私のことを狂っていると言うだろう」。 この一節にこめられた時代の狂気。 ファン氏をあらがいよう無くひっぱったのは「自然の」重力、だ。
3:1930年代・ドイツ
よく言われていることだけれども、別にヒトラーは、 超法規的な手続きで権力をにぎったわけではない。 あくまで当時の民主主義的に、手続きを踏まえてナチスは第一党になった。 ハイデガーをはじめ、主だった知識人も支持に回った、 人々の大勢については、何おか言わんやなのだ。 当時、ナチスに反対できたヒトは、ナチスからの弾圧を受ける前に、 周りから「狂っている」、そうレッテルをはられたのだろう。 不況とインフレに喘いで極端な「近視」状態の人民には、 分かりやすい変革の「力」に、敢えてたてつく理由が理解できなかった。 自然の「重力」すら見えなくなることは、かくして簡単におこりうる。
4:2003年・日本
日本共産党の最近のニュースと言えば、 議員がセクハラで辞職したという「あの」党にしては珍しいゴシップ。 でも、それよりももっともっと、ニュースにすべきことがあった。 何と言っても「あの」共産党が、自衛隊の存在を認めたのである。 この共産党史上最大の「転向」についての是非については不問にする。 でも、皮肉なことにこのニュースはこの国の、 「一億総右傾化」を最も象徴していると言わざるを得ない。
いちおく、そう、うけいか・・・
もちろんこのことをテーマにするとしても、 わざわざ上記「転向」を引き合いにだすことも無いはずで。 イラク特措法案は明日、衆院を通過する見込みらしい。 小泉純一郎が首相になってからこっち、 この国は呆気にとられるくらいのスピードで、 いままでいろいろあった「争点」のほとんどをうっちゃりながら、 どんどんある方向に進み続けている。 イージス艦を派遣したときは「戦争」の後方支援、 今度は、銃を担いだ自衛隊員がその銃を使う展開になる。 この2つだけじゃなくて、アフガン空爆のころからこっち、 彼が通してきた法案はほとんど、そんなベクトルに整列している。
なんなんだろう、この圧倒的な怒濤の流れは。 自分がおかしくなってしまったのかと思う。 依然、小泉の支持率は高水準にあるし、ううん、 もはや支持率うんぬんの話でもなく、 彼は民主主義の手続きに則って一国の首領になったのだから、 もっと大きなスパンの、もっと何か、こう、救いのない。 で、一部で小泉の次の首相待望論が盛り上がってるのが、 某都知事の石原「三国発言開き直り」慎太郎なのだから、 なおさら、もう、よくわかんないっち、 右傾化どころじゃないでしょ、彼が「力」を手に入れたなら、 真右(まみぎ?)っす。
なんで、議論が広まらないんだろう、周りのすました顔は、 エイリアンなのかしら、と電車の中、思う、怖い、怖い。 みんな、小学校や中学校で、義務教育で、 「歴史」を、日本史や世界史を学んできたのは何だったの? いま目の前に広がっている、こんなに分かりやすい、 これは「デジャビュ」でしょ? 比喩とはレトリックであり、これとこれは似てるからこうなるよ。 という言い方のほとんどは欺瞞だけれど、 でも、ここまで符合しない点がないというほどそっくりさんじゃない?
5:いつか、どこか、
・・・もはやこの国で、誰も自衛隊を「違憲」だと 言わなくなったという事実。
・・・狂っていると言われたファン氏が、 亡命後も「狂っている」と軟禁される。
・・・イラン特措法案、原案通りに可決、依然下がらない、支持率。
・・・それらはどかにとって、胸元から目の前に屹立する、懐中時計だ。
6:追伸
見過ごしそうで、歴史の教科書にも載ってないけど、銘記すべきこと。 あの映画を撮った喜劇俳優であり映画監督が、 まず最初に戦わなくてはならなかった相手は、ナチスではなく、 「民主的」な連合国サイドであったこと。 この映画を発表したときにまっ先に迫害したのは、 ヒトラーやムッソリーニではなく、 周囲のアメリカの「まっとうな」人民だったことである。
7:参考
チャールズ・チャップリン「独裁者」
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