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2004年02月04日(水) 黒ヒゲのサンタクロース

「ねえ、パパ!サンタさんいつ来るの?」
「ん?明日かな?もしかしたら来ないかもしれないよ」
「えぇー!ダメだよ!ゆみはちゃんとイイ子にしてるから来るもん!」
「イイ子にしてるから来るよね!ゆみちゃん」
台所にいる妻が口を挟んだ。その後に僕の方を見て
―どうにかしなさいよ―
みたいな顔をして少し笑顔を見せた。しどろもどろする僕を見て楽しんでいる様にしか見えない。
―少しは協力して欲しいもんだけど―
何て思ったが言っても無駄なことは分かっている、タバコの煙と一緒にどこかに消えていった。
12月になると急に全てが慌しくなる。街を歩けばイルミネーションで街は彩られ、家に帰ってくればTVではクリスマスツリーが放映され、隣でゆみがサンタ、サンタとわめき、どこで覚えてきたのか玩具のCMを見ては、折り込みチラシを見ては、
「これ、サンタさんにお願いするんだ!」
何てニセモノのサンタさんの前で言う。お前はオレがサンタだって気付いたらどうなるんだろうな?

「たまらないよ、実際」
と、こぼした同僚は僕より大変で子供が3人もいる。小学校に上がったばかりの子と、幼稚園に通う子、保育園に通う子、まさにこんなイベント事には盛りなのだ。
同僚のサンタは大忙しで仕事そっちのけで子供の欲しいものをリサーチしていつ買いに行くか、どうしたら見つからないか、そんな事を考えている。それに加わっている僕も立派に仕事をサボっている。

「でもな、こういう事していると本当に父親になったんだな、子供を育てている立派な大人なんだよな、自覚が湧くよ」
確かにそうだよな、自分もちょっと前までは、ゆみと同じように騒いでサンタに玩具をオネダリしていたもんな。
「本当にサンタクロースがプレゼントしてくれたらなぁー」
何て僕が言うと、
「お前はいつまで子供のつもりだよ!」
何て言われるから、やっぱダメなのか?何て思ってしまうけど、それでもしっかりゆみの欲しいものはチェック済みだ。

自分が子供の頃も同じだった。サンタクロースの存在を信じて枕元に寝ている間にプレゼントが置かれて、起きて中身を空けてみると律儀に自分が今、一番欲しいものが手の中にある喜びは今でも忘れられない。

いつからだろう、自然と気付いてしまったのは、あの遣る瀬無さは。そうやって大人の階段を上ることはあまり良いことではないなと今にして思う。子供じゃいられないと気付く瞬間はとても悲しい事だ。それでもサンタとサヨナラしたいつかは少しだけ背伸びして、―それでいい―と思った、子供と大人の狭間で。

窓の外は満天にか輝く光が生きている。サンタがトナカイを連れて空を飛ぶ今宵はとても良すぎる天気だ。もしかしたらサンタが見られるかもしれない。

白いヒゲを生やしたサンタクロースに。

由美はいつ気付くのだろうか?黒いヒゲを生やしたサンタクロースの事を。もし、分かったとしても演技でも良いから
「サンタさんありがとう」
と言って欲しい。
―大人にはなるな、子供でいなさい―
僕はいつか由美に言いたい。大人になってからでもいいから言いたい。サンタクロースは本当にいるんだよ、と。由美が大人になって子供を持ったときも同じように教えて欲しい。全ての事を知ることは良いことではないから。
黒ヒゲのサンタクロースは皆、子供のことを愛してるから優しい顔して枕元に気付かれない様に本当にサンタクロースになった気分でプレゼントを置く。
そして、次の朝、何食わぬ顔をして
「おはよう」
と言う。
「サンタさん来てくれて良かったな、イイ子にするんだぞ!」
と頭を撫でて
「うん!」
と喜ぶ子供の顔を見るのが何よりも幸せなんだ。

いつか言ってくれ、由美
「照れ屋で黒ヒゲのサンタクロース、ありがとう」



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