「まもなく電車が発車いたします。」 とアナウンス。 当駅始発の電車の中で15分くらい並んで座っていた。 僕は見送りのため 「じゃあね」と言った。 精一杯の強がりで、手を振ることしかできない君はうつむきながら 「マタネ」と言った。 発車の合図のサイレンが響き渡る。 僕はホーム側に座る君の背中をじっと見つめていた。 震えていた・・・。 強がって別れ際に涙するまいと堪えていたのだろう。 けれどもどうしようもなくなってしまったのだろう。 肩が震えていた。 周囲の目を気にすることなく泣き出した。 それぞれの想いを乗せて電車は出発してしまった。 手を差し伸べることができなかった僕はどうしようもない気持ちになった。 悲しくなった。情けなくなった。 かぶっていたニット帽をできるだけ深くかぶって階段を駆け上がった。 なんともいえない感情はどういう言葉にしよう。 きっと涙で十分だ。
電車のトビラが夜の暗さと交わり、それが鏡代わりとなって僕を映した。 赤い目をした冴えない男が立っていた。
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