私が泣くと、あいつはいつだって無理をする。
分かっているから、泣きたくないっていつも思う。
悲しい事があっても、寂しくても、どうしても会いたくても。
泣いたらだめだって思うようになって。
最近は、あまり泣かなくなったなぁ。
遠距離になったばかりの頃は、年がら年中泣いていたのに。
私とあいつが毎年行っている桜並木が。
今日の昼間の時点で八分咲きだったと、O君に聞いた。
あいつは、明日は仕事。
だから、一緒に行く事は出来ない。
一緒に見に行きたい。
って言う気持ちと。
でも、仕事があるのに無理して欲しくない。
って言う気持ちと。
半々にあって。
半々だったのに。
いつの間にか「一緒に見に行きたい」って言うほうが勝ってしまって。
仕事から上がった後、あいつからのメールで。
「桜は散ってしまうけど、来週のりりかの誕生日には必ず行くから」
と書いてあったのを見て。
「来週の誕生日なんかどうでもいい。今日、来て。今日、あの桜並木に行きたい」
と、思わず返してしまう。
あいつはすぐに電話をかけて来た。
「どうした?りりかがそんな風に言うなんて珍しい」
「だって、もう八分咲きなんだって。来週は散っちゃう。去年、来年も一緒に行こうねって約束したのにー・・・」
最後の方は、泣いてしまって、声にならなかった。
そのまま、電話は切れて。
きっと、呆れて、それで電話を切られちゃったんだ・・・。
私は泣きじゃくっていた。
10分経ったか、それくらいでまた着信。
「今、高速乗ったよ。待ってて、あと二時間くらい」
時間は夜10時を回っていた。
明日は、朝早いとあいつは言ってた。
ようやく、私はとんでもない事を言ってしまったと思う。
「だめだよ・・・ごめん、次のインターで降りて、引き返して・・・。もう平気・・・ごめん」
「平気じゃないよ。りりかがそんな風にわがまま言うのなんか、おかしい証拠だよ。大丈夫、一緒に見に行こう。それで、ゆっくり並木道を歩いたりしてさ。そっちを3時位に出れば間に合うから」
「だめだって。寝ないで仕事なんか行かないで。危ないから・・・お願い」
「りりか・・・ごめんね。毎年ずっと行こうねって約束してたのに、破るようになってしまって・・・。ごめんね」
「いいの、来ようとしてくれた事だけでも、充分嬉しいから。もう、いいから・・・」
10分くらい「行く」「来ないで」の、言い合いして。
あいつは結局、次のインターで降りて、引き返した。
私は社員会に欠席の電話をして、帰宅した。
あいつも家について電話が来て。
「あの並木道の桜じゃないけど。俺んちの方の桜は、5月くらいまで咲いてるところもあるから。そこ行こう。お互いに休みの日に」
「うん、そうだね、そうしよう」
「来週のりりかの誕生日も、もう散ってるかもしれないけど、少しは残ってるだろ。あの並木道、行ってみようね」
最近、喧嘩ばっかりだった。
喧嘩して、一日が終わる。
そんな感じばっかりだった。
なんでかなぁって、考えてみた。
きっと、二人とも余裕が無いんだね、って、あいつが言った。
一緒に暮らすことも、もう未来の話じゃなくて。
俺は仕事を頑張らなきゃ、もっと稼いで楽させたいって躍起になって。
「そして、りりかは、俺の負担になりたくないって、気持ちの中のマイナス面とかも出さなくなって。どんどん負担になっていたのは、りりかの気持ちだよ。もっともっと、会いたい、今日来て、なんて、さっきみたいに言っていいんだからね」
最近、しっくり行ってなかった気がしてた。
でも、何だかそう言うのがスーッと取れた気がした。
いつだって、あいつは私の事を思ってくれてる。
思い過ぎて喧嘩になったりする。
満開の桜並木には行けなかったけど。
でも、今年もあいつと一緒にいるのは、変わってない。
それだけでも、充分じゃない?
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