蘇る過去に巻き付かれていると天使の祝福を受けたかに思えるほど幸せだ。体中に埋め込まれた映像をゆっくり再生すると全ては当時に戻り、そこはとても幸せだ。幾らでも思い出せる。何度でも再生するCDのように正確に思い出せる。しかし何故だ。過去に守られてゆっくりと眠りとも死とも付かぬところに留まっていると、不意に攻撃衝動が湧き上がる。「・・・」「・・・・」言葉にならないものが湧き上がる。優しい眼差し、暖かい言葉、触れるかどうかのぎりぎりの距離。さりげなく差し出される手と、1ミリ、また1ミリ、距離を狭めさせてくれる言葉。じりじりと熱くなる胸、どうしていいかわからないほど嬉しくて踊る瞳。・・・それは全て過去の映像だ。私の中にある「今を生きる命」が夢を破る。過去を食い破る。鋭い爪のような一撃で過去を振り払って「今」を求めて暴れ出そうとして。蘇る過去をなぜ無下に振り払おうとするのか?俺は今、深くどうしようもなく浸っていたいんだ、何処にも出て行きたくないんだ。訴えても聞き入れられない。目覚めが来る。夢の続きは、夢では作れない。必ず途中で止まる。ここから先は、「今」に生きて作らないといけないらしい。あのぎりぎりの、見つめ合う二人の、先にあるものは何か。漆黒の髪、鋭く深い光を湛えて微笑む瞳。決定打を迂回してぐるぐると回る言葉。触れ合わない指。繰り返すのか。突き抜けるのか。
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