★KINPEI★
◎ そしてどこにたどり着くのか? ◎

痛みを感じないようにしようと
決めたのはいつだっけ?



私は諦めるのは得意

兄には力でも口喧嘩でも勝てなくて
どうやっても敵わない事があるって
小さい頃から
体に叩き込まれて来てるから

八つ当たりは
黙って受け流せば
長引かない
ちょっと怖いのを我慢すれば
それ以上ひどくはならないから

その間は
心の動きを止めてる

悔しいとか
理不尽だとか
そういうの
考えない

弱くて
そういう事に立ち向かえなくて
だから心を止めて逃げる

それが諦めるという事


日向に対する色々な事が
鈍感になってきた

少しずつ慣れてきた

確かにこの方が
生きて行くには
すごく楽かも 笑

多分今なら何があっても
笑っていられる



夜 日向に会う

日向が話そうとしてくれたから
ゆっくり話を聞く

感情的にならず
日向の出した結論を聞く

それがどんな答えでも平気

前より少し変化しててくれればいいな
と思うけど
淡い期待は抱かない

最悪を想定して
話を聞く

それでも
別れない
という結論を出してくれるなら
それで十分だから



話してくれる言葉は
最初の日向の主張と変わらなかった

日向には私と会いたいという欲求はない
私と会う事は負担になる



日向にとって負担なら
私はわがままを言わない


そうしか言えない
でもせめて

負担じゃない時もあるって
言って欲しい

負担だっていう言葉だけじゃ
辛すぎるから
今は負担って
期間限定にするとか

私に救いが欲しかった
こんなにも違う感覚を持っている事が
悲しい


でも
日向は言わなかった

一緒に帰る時間は
負担じゃない時もある


それが日向の答え

マイナスではない
でも
プラスだとは言ってくれない

一緒に帰るのが
楽しい時もある

とは

言ってくれない





一緒に帰りたいと言うのは
私の我侭


レッスンや舞台の練習で
顔は合わせてる

でも二人で会話する事はほとんどない

みんなと一緒の駅までの道のりでさえ
他の人と話しながら歩いていく

日向から私に話しかけて来る事はない

日向にとって
そういう場で気遣う対象ではないから

普通の友達以上に
接点がない
と思う


だから日向を送っていく
帰りの時間だけが
日向と話せる時間

寄り道は
日向の帰宅時間が遅くなるから
できない

日向の帰り道に付き合うだけなら
時間の無い日向の負担にならないかな
と思って

でも舞台なんかの
対処しなければならない問題がある時は
その帰り道が二人の話し合いの時間で
結論が出ないと
駅のホームで
立ち話してしまう事もあったから


「一緒に帰ると
 それだけではすまない事も多いから」
と言われれば
本当にその通りで

でも
話し合いって
双方の責任じゃない?

それに
日向の地元で厭だろうから
なるべく早く切り上げていたし

揉め事が毎回あるわけでもなく
特になければ
日向の駅に着いて
反対側のホームへ来て
私が来た電車に乗って
ばいばい


送られるのが苦手だから
日向を改札で見送ってたのに
反対側のホームまで送って行くと
言い出したのは
日向なのに

そんな帰りの電車を待つ 
5分くらいの事を理由に
しないで欲しいよ

一人の時間を頂戴って
言ってくれればいいのにな


一緒に帰る事が
日向の本来あるべき時間を邪魔する

すんなり帰れないから
辞めたいって

私が日向の時間を邪魔しない
って言ったのに
邪魔してるから
ダメって言われると

本当にその通りだから
すごく辛い
逃げ場がなくて

自分は日向にとって
負担でしかなくて
辛い思いをさせていて
そんな事しかできなくて
こんな事を言わせてしまう



レッスンに集中する為に
体を休める時間が欲しい



日向がダンスや舞台に
打ち込む姿勢は好きだから
それにストイックに向き合う姿勢は
応援したいから

その結論でいいと思う
そう思えるし
そう言ってあげられる

それによって二人の時間が減る事は
痛くない
辛くない
指の先をちょっと切ったみたいに
あるけど見つめなければ
忘れちゃうくらいの痛み

初めは言ってあげられ無かったけど
今は言えるから
それで許して
ごめんね


今までこうやって生きてきたから
アルと出会うまでは
他の人間関係も
自分の好きな事をする生活に
負担になるから
断って来た

そういう自分を変えられないから
ごめんね


うん
知ってる
そういう日向だ、って

そういう日向が好きだから
それでいいよ


心の中で
好きな人が
好きな事を熱中するの
妨げるんなて
最低と思う

応援してあげられないなんて
最悪と思う

でももし
日向が外国に一年以上留学するとか言ったら
私は賛成して上げられるほど
人間が出来てないけど

いつかはそんな風になれるかな


日向は言う

私に合わせてもらうって
それで私はいいけど
それで
アルの人生はどうなんだろう

どうでもいい人ならそれでいいけど
でも
アルだから

私に合わせてもらって
アルはそれでいいのかなって思う
アルの人生は・・・って


そんな事言われても・・・ね。
私にはどうしようもないです

そう言われても


苦笑するしか出来なかった
日向に合わせて
それで別れないで居てくれるなら
私はその道を選びたいから

その道を選ぶ事が
日向にとって不満だとしても
私は私の物だし
決断は私次第のはず
それが日向にとって重荷だとしても
どうしようもない
だって受け入れて欲しいというのが
あなたの望みなのでしょう?

苦笑するしか出来なかった

今思えば
私の人生に日向が責任を感じる必要ないって
明言して欲しかったのかな

私の人生の責任を日向に取ってもらおうなんて
思ってもいなくて

お互いにお互いの人生の責任なんて
取れないんだから
決断していくのは己自身

でも計画的に
私は弱い人間でいたからな・・・。

明言して欲しかったというより
そういう苦しみを抱えている事を
知って欲しかったのかな

今思えば・・・だけど。



駅に着いて改札口で
さよならしようとした時
日向が言った


負担じゃ無い時もある


うん 笑
マイナスにはならない時もあるけど
プラスにはならないんだよね


・・・・。
私からこうしたいって
言えないから


(会いたいとか
 どこかへ遊びに行こうとか
 電話してとかメールしてとか
 言えないという意味)

うん
知ってる

最初に無理してるから



そんな様な会話を繰り返したのち

たたみ込むように日向が言った

でもアルが誤魔化してくれればいい




アルが私の気づかないうちに
方向転換してくれればいい

それならいいと思う


少し早口で
少し小さな声で
日向が言った

私はびっくりして
そして
笑顔になって

日向は言いたい事が言えて
すっきりした顔をして

それじゃ帰るね

って帰って行った




その後

最近無かった
バイバイの後の携帯メール
珍しく何通か来て

少しずつ
和らいでいく


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だった



   − 2002年06月01日(土) −             next

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