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2007年05月25日(金) 新橋演舞場にて鬼平〜「大川の隠居」

新橋演舞場にて吉右衛門の鬼平を観てきた。

演舞場の花道を釣り舟が静かに滑って来ると、編み笠をかぶった鬼平が乗っている。
それはもう吉右衛門ではない、誰がなんと言おうと間違いなく鬼平なのだ。
編み笠を脱いだ次の瞬間、鬼平の存在感は現実となって観客に感動を呼び起こさせる。

ただ、編み笠を脱いだだけなのに、である。

もうそうなってくると、煙管の扱いや言葉の端々から何から立居振舞全て、それは鬼平に他ならない。
当たり役とはこういう事なのだろう。

さて、物語は「大川の隠居」。
元は泥棒だった老いた船頭と鬼平の心のふれ合いと駆け引きの人情話。
原作の短編よりも長めに書かれた脚本も後半は泣かせる。
冷たい世間を生き抜くために泥棒をせざるを得なかった老船頭を諌める鬼平。
鬼平だって不幸な生い立ちであり、決して順風満帆な人生ではなかったのだ。

人生には表と裏があり、誰でも善と悪の狭間であがいては何度となく岐路に立たされる。

人間は皆弱いものだ。だから迷う。

何が正しくて何が間違っているのか、耳を澄まし、心の目を見開いて自らを制して生きて行かねばならないのだろう。

それにしても、やっぱり江戸はいいなぁと思わせる鬼平の物語である。


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izumi [HOMEPAGE]

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