貴婦人

貴婦人がいた。

紛れもない貴婦人がそこにいた。

蛾のような色彩の高級そうな服をまとった貴婦人が。
ジャラジャラと宝石を身に着けた貴婦人が。
まるでアメのような指輪をつけた貴婦人が。
休日は、バルコニーでお茶をし、娘にバイオリンでも奏でさせて優雅に過ごしていそうな貴婦人が。

吉野屋にいた。

一人でモリモリと牛丼並盛を食しておられた。
自分で御新香とか出して食べてた。貴婦人が。

僕を含む小汚いオタクだらけの店内に、一際目立つ上流階級の貴婦人。
まるで皇族が東南アジア辺りの貧しい集落を視察しているような絵図だった。

あんな品の良さそうな貴婦人も、吉野家なんだなと牛鮭定食を食べながら感心した。

貴婦人が牛丼の上に山のように盛っていた紅ショウガ。
鬼のように盛っていた紅ショウガ。
あの毒々しい赤が目に焼きついて離れない。
2002年11月25日(月)

お父さん

洗剤と味噌が非常に安いというので、近所のスーパーに行きました。
20代半ばの独身男が特売日のチラシに赤丸つけて買い物するのもどうかと思いますが、安いのですから仕方ありません。

買い物カゴ片手に、スーパーを徘徊。
激安の洗剤と味噌を見事ゲット。
ついでにフルーツを買おうと、野菜コーナーに行ったところ

「おとーさーん」

と叫びながら、ハリーポッターみたいなクソガキが抱きついてきました。

「お父さん、もうどこにも行かないで」

泣きながら僕の足にしがみつくクソガキ。
何があったのか知りませんが、かなりシリアスな展開のようです。
もちろん、こんな子供作った覚えもない。
むしろ童貞だし。

それにしても、このガキ、年齢的には6,7歳くらい。
そんな年齢のガキから見て、僕がお父さん世代に見えるのでしょうか。
お父さんというよりはお兄ちゃんだと思うのだが。

いつもなら、こんな無礼なクソガキ、ぶん殴って言い聞かせるのですが
あまりに切実なクソガキ。

「お父さんお父さん、どこにも行かないで」

泣き続けるクソガキ。なんだかすごく情がわいてきました。

「大丈夫だ、お父さんはどこにも行かないぞ」

ついつい言ってしまった。なに言ってんだ僕は。もういい、今日から僕はこの子のお父さんになろう。幸せな家庭を築こう。シチューのCMに出てくるような温かい家庭を築こう。大丈夫、もうどこにも行かないよ。

「こらー、ヨシアキ!」

親子愛が芽生えたその刹那。本物のお母さんが登場し、僕らは引き離されてしまいました。

「ホントに、迷惑かけて申し訳ありません」

ヨシアキ君を引っ張りながら謝るお母さん。なかなか若くて美人。しかも巨乳ときている。

こんな女性が妻になるのなら、ヨシアキ君のお父さんになってもいいかな……。

喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込んだ。

それにしても味噌が安かった。
2002年11月24日(日)

マンガ喫茶

マンガ喫茶に行きました。
花金の夜だというのに、一人寂しくマンガ喫茶に。
ロンリーウルフでマンガ喫茶に。
何時間も何時間もずっと黙々とJOJOを読破していました。

週末ということもあって、超満員御礼のマンガ喫茶。
一人用のブースが満員ということもあり、
カップル用ブースに押し込められました。
隣を覗いたら、頭の悪そうなカップルが膝枕で接吻とかしてました。
一人で座る長いソファが妙に寂しい。

マンガの話に戻るんですけど、
JOJOは三部あたりから急速に面白くなると思う。
でもあの濃い絵をずっと読み続けるのは厳しいものがあり
43巻ぐらいまで読んだところで撃沈しました。

他に読むマンガはないものかと、
「成年コミック」棚を物色していました。
成年コミックの棚は、18歳未満が見てはいけない、いわゆるアダルト向けマンガが陳列されている棚です。

古今東西、ありとあらゆるエロマンガが並べられている。
もう、表紙だけで興奮してしまいます。

そんなアダルトコミックの棚の中で光り輝く「コボちゃん」の単行本。
エロマンガ群の中で異彩を放つファミリー四コママンガ。

アダルトの中にコボちゃんって……。

カップルだらけのマンガ喫茶で、一人ニタニタと笑ってました。
2002年11月23日(土)

ドリル

アパートで寝てたら、ギョルギョルと物凄い音で目が覚めた。
工事音で目が覚めるほど不快なものはない。

どこのバカが朝っぱらからドリル使ってやがるんだと、
怒りを顕にし、意気込んで部屋の外に出たら
水道工事の人が寒い中作業をしておられた。

実家の年老いた親父も水道工事業。
しかもこの人、ちょっと親父に似てる。

親父もこうやって泥だらけになりながら
寒い中、ドリルを使ったりして金を稼いでたのかな。

そう思うと切なくなった。

学生時代。

「教科書買う金が要るんだよ」

と嘘をついて親父に貰った3万円。
その金で裏ビデオ通販に手を出し、騙されたことを思い出してしまった。
チマチマと金を取られて、届くのは空テープばかり
あっという間に三万円が消えたなあ・・・。
親父の労働の結晶が、偽者裏ビデオに消えちまったなあ。
親父が泥だらけになって稼いだ金。ろくでもないものに使っちまったなあ

急に心が痛み始めた。

「あの時はごめんな、親父」

実家の親父に直接謝るのは照れくさいので、
親父似のその水道工事の人に謝っておいた。

今度こそ本物の裏ビデオを買うと心に誓って。
2002年11月22日(金)

Iremun2 / Ota.P

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