カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 霞、もしくは、眩み

=霞、もしくは、眩み=

夕方から明け方にかけて、目の前が霞んでる。
昼間の間は、笑いと、涙と、人々に目が眩んでる。
夜は再び全てが霞む。どこだ? どこだ? どこだ? 何が?

=その向こうに何かあるの=

扉だけがそこにある。草原の真ん中に扉だけが、ぽつんとある。扉の向こう側には草原が続いている。
道に迷った旅人は、吸い寄せられ、取っ手に手をかけ、ドアを開く。その向こうには草原。何も変わらない。当たり前。
でも、彼は幻滅する。

=保身的ナ事実ノコト=

ある女の子に告白されたときは、
「僕も君のことは好きだけど、ここで友達じゃなくなってしまうと、気まずくなったりするかもしれないから、ごめんね。でも、友達ではいてくれな」
と答えるし、彼女からふられたときは、
「君が完全に嫌いになっていないのだったら、友達として仲良くして欲しいんだ。駄目かな?」
と尋ねる。

2002年04月11日(木)



 凍えるさざ波

=凍えるさざ波=

知らない間に、誰も見ていない間に、夜の間に、冷たい夜の間に、それは降り積もる。音もなく、形もなく降り積もる。
それは積もって、震えてる。寒さに凍える、さざ波のように。

=ミドリの光と=

風が少し木の枝を揺らした。何故か僕は、何かが木の上から落ちてきそうな気がして、その下まで行き、上を見上げた。
何もない。ただ、朝の涼やかな日光が、緑の葉を透かして僕を照らしているだけ。

=碧白色=

限りなく澄み切って、限りなく冷え切った空気。青白い月光が、雲に鳥の影を照らし出す。
「僕一人の世界だ」鳥は呟いた。涙が少し伝い、落ちていった。落ちて行く途中で、氷になった。

2002年04月12日(金)



 繰り返すのは日常?

=繰り返すのは日常?=

ある日太陽が西から昇ってきた。朝になり、人が起きる。人々は気付かない。いつも通りに一日を過ごす。
繰り返す日常。また今日も、いつもと同じ。それは違う。君が気付かないだけ。

=軋む音=

全てのモノたちが、全生命を使って啼いている。昼間には決して気付かれることのない音。夜になり、作られた音が止むと、どこからか聞こえてくる。
キーンと、響く、高い音。

=ココが荒野だという証=

サボテンが生えている。生えているというよりも、ただそこに立っていた。枯れた荒野、平地、少し強めの風。
やはり、サボテンは立っている。



2002年04月13日(土)



 蒼さ、に、ワニは、眠る

=蒼さ、に、ワニは、眠る=

青いワニが大きな口を開けていて、その中をのぞき込むと、真っ暗な宇宙が広がっている。
ワニは神秘的で、青く澄んだ湖の中を独り泳いでいる。そして、湖を泳ぎ回っている「星」を捕食して生きている。様々な色に淡く光る「星」が群をなして湖の中を泳いでいる。でも、ワニはいない。他に、いない。
何年も、何年も、すごく長い、長い、時間をワニは生きている。今までにビックバーンが数回起こって、その残り滓を吐き出してきた。
いつだったか、溺れかけた牡鹿を助け出したワニは、今も湖の中で生きている。

=雲の大雪原=

赤い風船がピエロの手から離れていった。空へゆっくりと、風に揺られながら上って行く。上がって、上がって、上がって。雲を越える。雲の平原を見下ろした。白く。ふわふわと。
風船は破裂した。ぱちんと、唐突に。

2002年04月14日(日)



 でこぼこした月の道

=でこぼこした月の道=

アマガエルを踏みつけてしまいそうになったので、一応謝った。
「ついておいで」と、真夜中に誘われて、僕は裸足のまま外に出た。
少しぬめりけを持ったアマガエルの皮膚が、でこぼこした月を映し出している。
アマガエルが、少し遠くまで言って、こっちを振り向いて何かを言った。
何か、すごく大事な何かを。でも僕は、聞き取れなかった。

=眠り=

ワニがカエルにこういった。「僕は爬虫類。君は両生類。分かるかい?」「わかるとも。でも、それがどうしたと言うんだい?」やれやれ、と言う風にワニが、かぶりを振って答える。「だから、両生類の君よりも、爬虫類の僕の方が進化しているんだって」カエルが、一瞬悲しそうな顔をして、呟いた。「かわらないよ。きっと」
冬が来て、辺りは眠る。両生類も、爬虫類も、みんな全て。

2002年04月15日(月)



 もしかしたら。かもしれない。

=もしかしたらかも。しれない。=

フルーツ。フルート。仮装。大して意味ない文字が書き並べられている。机のはじっこに。まさに支離滅裂。でも、もしかしたら、何か意味があるのかもしれない。もしかしたら、だけど。

=煉化細胞=

体から滲み出る汗が、ねばねばしていると思っていたら、実は自分が溶けていた。溶けて、洋服から滲み出ているのだった。3センチくらいの厚さで、僕の体は洋服の外へ滲み出て、外気に冷やされ、また形作っている。
それをみて、気分が悪くなった。変な違和感を感じている。感覚としての、拒絶反応。むずむず、細胞が破裂している。



2002年04月16日(火)



 無関心な、白い道

=無関心な、白い道=

すべてが石灰化していて、乾いていて、生気が無くて、無関心だった。砕かれた骨が極限まで踏み固められて、白く滑らかな道になっている。
人類が始まって、死んだものたちは皆この道を通ってどこかへ向かおうとしていたのだ。死んでしまって、骸骨になってしまった自分でも、この先に待っている何かに行くのだ、と。
多分、この道はどこにも続いていないのだ。最後まで歩いていくと、道が唐突に終わっていて、そこに前の人の力尽きた骨があるのだ。無機質に、無関心に、石灰化しいて、乾き、生気の無い骨。
悪態でも、ため息でも、なんでもついて、僕らはその骨を踏み砕くのだ。少しでも、白い道を先に延ばすために。
そして、踏み固めてしまってから、そこに倒れる。自分が、次の人に踏み砕かれ、踏み固められ、白い道となって行くために。

=鳥かごの中の世界=

あの時僕は、鳥かごの中の君っ笑ったが、僕は紐につながれていた。悲しさよりも、不条理さに対する怒りが湧いてきて、紐に歯を立ててみたが、切れなかった。自分の状況に気付いて、君の姿を思い出して、どうしていつも不安そうな顔をしてるのかが分かった気がした。


2002年04月17日(水)
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