恋文
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陽が薄れていったので 魚になって泳いでみようと思った
静まり返った町は 木も草も静かだった
遠くから響く それは 波の音のようだった
こんな夜には 魚は群れ集まるのだろう
ぼんやりと灯る光の下で 魚たちは眠りたい
わたしも 静かに泳ぎだす
雨は はたはたと降って みどりは ぼぉっとかすんでいた
舗道は 灰色にひかっていて 水溜りには しずくが飛び跳ねていた
まっすぐ 歩いていた かたわらを トラムが通りすぎて 風をおこしていった
みんな雨のなかで わたしは もうすぐ家に帰る
髪をほどく 絡まった毛先を 指で梳いてゆく
赤茶けた色に透けて 光っている それを 何度でも梳く
頬にも 首筋にも むずがゆいような感触を残し 胸に落ちる そのまま 眠りに落ちよう
ひりひりと痛い
知っているのに 傷つけてしまう から
そのまま それは わたしの痛み に なってしまう
あなたが泣いていて 泣かないで と言えないのは きっと わたしも 泣いたことがあるからだ
だから 一緒に泣いている
まだ暮れない空の 雲の境界から 光がまっすぐに降りてくる
木の枝は黒い影になって 葉っぱは柔らかな緑に透きとおっている
鳥たちは黒い影になって 囀りはどこからも聞こえてくる
洗い髪を透かしてみる わたしも黒い影になって 夜の中に帰って行きたい
今日 菜の花は 光と一緒に むせるように 香っていた
あなたの髪を括った あのビロードのリボン そのまま切り取ったような 髪の一房
それは 菜の花の匂いだった
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