恋文
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おまえを抱いて ライラックの木の下に立ったのは その香りを教えようとしたのだった
その春の日は とても眩しくて ライラックは 輝くように香っていた
時もところも 遠く離れて 冬に戻ったような 鈍色の空の下で ライラックは咲いていた
もう抱きかかえることもない おまえは 自分の足で立っていて
わたしだけが 過去に帰ってしまった
きれいな かわいいものを おもいたかった
こころが まっくらになったような 気がしたから
なのに なんにも思い浮かばないよ
あんまり 暗かったのね にんげん の ことを考えたら
なんだか やだなぁ って 思った
だけど わたしも にんげん だから くらいものが あるんだなぁ
知っているから また いやになっちゃった
まだ暮れゆかない光は 影をはっきりと残す
人も木も建物も 街のなにもかもが 影になって そのまま 永遠に残りそうだ
薄明るい空の下に 柔らかな若葉も 咲きほこる花々も ベールに蔽われたように 濡れている
切りつけるような風も 重くのしかかるような空も 去ってしまった
遠い国を思った そこでも 雨は静かに降り注いでいるに違いない 春のこの日に
なんでもないことから ほつれていってしまう
いちど始まってしまうと まるで 終わりがみえないのだ
ばらばらになってしまったかに見える その残骸を また明日のためにとっておく きっと 繋ぎあわせられる
あぁ こんな菜の花が見たかった そこに広がっている菜の花 一面の菜の花の色
それと知ったときには もう 一面の菜の花はなかった わたしの育った町
昔は確かにあったのだと 遠くまで広がる菜の花畑を ありありと思い浮かべたのだった
それは 突然に 今 目の前にあった こんな遠くの国に
時も 場所も 超えてしまったようだ
夜の公園は わたしたちのたてる ブランコの軋む音が響いていた
どこまでも照らすわけではない 街灯の 薄暗い光の下で なくした サンダルを拾いに あなたを おぶったのだった
しっかりと感じる あなたの重さは 心地よかった
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