6/20(火) 「H」で痛い目に遭った話。
先に言っとくけど、長いですよ、今回。

この前「別の機会に」と書いた、「H」で痛い目に遭ったって話。
「H」が創刊された1994年にはまだネットなんて普及してなくてさ、
女友達が、いや、あわよくば彼女が欲しい、当時彼女いない歴三年だったオレは、
この「H」の出会い系のページに的をしぼったわけよ。
前にも書いたけど、やっぱ「H」を読んでるってだけでフィルターがかかってるわけでしょ。
さぞかしオシャレでサブカル好きなかわいこちゃんなんだろうなと。
そりゃ「ガロ」に投稿してる女とは質が違うんだろうなと(笑)。
ちなみに当時の「H」はこんな感じ。ね、12年前にしちゃオシャレでしょ。

その中にこんな投稿があったのね。

「BMX BanditsとChameleonsが好きです。友達になってください」(大阪府・女・24歳)

苦手だったChameleonsはともかく、
BMX Banditsが大好きだったオレは気がつきゃペンを握ってたね。
大阪にこんなに趣味が合う子がいるのか!と。BMX Banditsだけで(笑)。
で、まずは「H」の編集部宛てに手紙を送って、
そこからその子に転送されるシステムだったんだけど、
手紙を送ってから数週間後、なんと返事が届きましたよ!
そこにはオレからの手紙がうれしかったって文章とともに、
実は心の病にかかってるってことが書かれててさ。
それって今でいう躁鬱なんだけど、当時は鬱なんて言葉は一般的じゃなかったのよ。
その子自身も鬱なんて言葉は使ってなかったし。「心に障害を持ってる」みたいな言い回しで。
オレも鬱に関して何の知識もなくてさ。へー、病気なんだ、程度で。
そのころ、世間では大塚寧々がもてはやされてたのよな。
ほら、あの人って細くて色白で病弱っぽいイメージがあったじゃん。
だから「オシャレで病気」ってそれだけで、
オレの中でこの子のイメージは大塚寧々に固まっちゃって。

それからは一週間に一通ペースで手紙のやりとりをしてね、
一ヶ月ほど経つと電話までしあうようになって。
じゃ、そろそろ会おうか、となるのも必然な話。

ついに梅田で待ち合わせをすることになった日曜日の朝。
とうとう大塚寧々と会えるってんで、オレは待ち合わせの一時間前に到着(バカ)。
期待に胸躍らせながら、そして過度の緊張で手を震わせながらも待つこと一時間。
待ち合わせ時間が来ても、そこからさらに一時間待っても彼女は現れなくて。
これがすっぽかされたんなら話は早いんだけど、彼女も今日を楽しみにしてたし、
こりゃ事故にでも巻き込まれたんじゃないかと心配になってきちゃってさ。
当時は携帯なんて当然なくて、電話といえば家の電話。
電話をかけると10回ほど呼び出し音が鳴るも、案の定誰も出なくて。
あきらめて切ろうかとしたそのとき、受話器があがって彼女の声が。
「・・・・・も・・・しもし・・・」
もう明らかに寝起きの声なのよな。正直ガッカリですよ。
でも今日が初対面だしさ、ここで怒鳴るわけにいかないっしょ。何しろ向こうは大塚寧々だから(笑)。
「ありゃー、寝てたんだ。セザキだけど・・・」
そこまで言ったとき、いきなり彼女の言ったことが凄かった。

「・・・セザキくん !? ごめん、本当にごめん!気絶してた!」

いやいやいやいや!ありえないでしょ、その言い訳は!
今までで聞いたことある !? 遅刻して「気絶してた」なんて言い訳!
どうやら朝あわてて身支度をしてたら、階段を踏み外したと。
で、階段から落ちてそのまま今まで気絶してて、電話のベルで起こされたと。
「私、よく気絶するから・・・」
もう無茶苦茶だよ・・・。
オレはこのとき思ったのね。なるほど、心の病には虚言癖も含まれるのかと。
そしてもうひとつ思ったこと。虚言癖のある大塚寧々・・・・・アリだなと。

「あわててタクシーに乗ってかけつける!」ってんで、そこから待つこと数十分。
タバコを吸ってたら後ろから「セザキくん?」って声がすんのね。
大塚寧々をイメージして振り返ったその瞬間・・・。

「どうも、セザ・・・!」

固まるってのはこういうことを言うんでしょうな。
それと同時に、点と点が繋がった感じ。
心の病も気絶も、なるほど、すべて本当だろうなと。
オレ×3はあろうかという特大サイズの体、メガネの奥の焦点の合ってない目、
ホストのような黒いパンツスーツ(なんで?)、尋常じゃないほどの汗が滴る顔・・・。
こりゃ何だって起こりえるぞと。
そりゃね、勝手に大塚寧々をイメージして興奮してたのはオレだよ。
でも、でもさ、ここまで凄いやつをキャスティングしなくていいだろうよ、神様よ!

さすがにさ、いきなり「帰ろうか」なんてことは言えんでしょ。
そこまで失礼なことはさすがに出来ないしね。
だからその日は楽しいフリをして夜まで一緒に遊んだんだけど、
あんなの初めてですよ。みんなが振り返ってオレらを見ていくの。
だってさ、ルックスだけでも相当強烈なインパクトがあるのに、
それに加えてこの日は躁だったようで、テンションの高いことったら。
場所を問わず身振り手振りを加えて機関銃のようにしゃべるまくんの。
この日のオレの疲労ったら半端なかったですよ、マジで。

で、最後は居酒屋に行ったんだけど、
一日話して(一方的に話されて)、その子の境遇もいろいろ聞いたのね。
じゃあ母親が自殺しただの、昔彼氏がいたころはよく殴られただの、
今の病気に至る悲惨なバックボーンが目白押しなわけよ。
で、今日の街中で味わったじろじろ見られるって反応でしょ。
こいつは街中で、毎日こんな目で見られてんのかと。
一日付き合って少し親近感も湧いて、同情もしちゃうわな。
そこにアルコールも入ってさ、つい言っちゃったのよ。
「これからも電話したり遊んだりしようや」
出た! オレのいい人ぶる偽善者癖!
本心ではもう今すぐにでも帰りたいと思ってるくせに!
これを言ったのが運の尽きですよ。いよいよ話は佳境に。

それからも何度か電話で話したのよな。
一度うちの家にも遊びに来たっけ。
そのうち、こいつに彼氏が出来たのよ、驚いたことに。
蓼食う虫も好き好きだから別にそれはいいんだけど、
彼氏が出来たことによって、オレとは少し疎遠になっていったのね。
それはオレにとっては全然痛くもかゆくもない、むしろ好都合なことなんだけど。

で、そこから数ヶ月後の午前二時。
いきなり家の電話が鳴ってさ、出るとそいつ。
話し始めた瞬間にわかったけど、もう躁状態なのよ。
だから今が何時でマナーがどうこうなんて関係ないのよな。
オレの「何時だと思ってんだ」なんてことには耳も貸さないで、
一方的に自分の伝えたいことばかりをまくしたてるわけ。
はじめのうちは近況報告だったりしたんだけど、
そのうち話は彼氏の自慢&愚痴になってきてさ。
「でねー、ケンジくん(彼氏の名前)がこんなことしてさー、
私が嫌だって言ってるのにケンジくんったら我を通す人でねー」
こんな中身ゼロなことを夜中に数十分ノンストップで話し続けるわけですよ。
そりゃ相当鬱陶しいでしょ、正直。
もうオレも疲れてきて、話に相づちを打つことも止めて、
受話器は耳に挟んでるものの、途中からは完全に無視してたのね。
それでも向こうは一方的に話し続けてて、
オレも内容なんてほとんど聞いてなかったんだけど、
そのうち、いきなりピタリと話の流れが止まったのな。

「でねー、こないだなんてさー、・・・・・・・あれ? もしもし?
ねぇ、聞いてる? ケンジくん、聞いてる? ねぇ、ケンジくん?」

・・・! もうすでに誰と電話してるかすらわからなくなってる!

・・・・・いや、待てよ。考えすぎかもしれないけど・・・。
さっきから話してるケンジくんってのは本当に実在する人物なのか?
もしもすべてが彼女の作り出した妄想だったとしたら?
そしてそのケンジくんというのが・・・オレをモチーフにしてるとしたら?

ギャ〜〜〜! まさしくホラーですよ、ホラー!
恐怖のあまり、何も言わずに電話を切ったオレを誰が非難出来ようか!
時刻は深夜三時。本当に背筋がゾーッとした瞬間でした。

それを最後に彼女とは連絡を取ってないんだけど、
あれから十年ほど。今どこで何してるんだろうか。知りたくもないけど。


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written by オレ 

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