血の通わぬお前の姿なんて観たくなかった。だから棺からは目を背けた。 そうでもしないと私は、あの時その場で泣いてしまうと思った。 私は、泣いてはいけないような気がしていたのだよ。 (いとしいということはなんというつみぶかさなのだろう) まだお前にさよならを言えない。 まだ言葉にするのが恐いのだよ。恐ろしいのだよ。 その、永遠に失ったといういう事はまだ、嘘のような気がしていて。 本当はまたお前が電話をかけてくるのではないかと、思っているのだよ、愚かな俺は。 「大佐、お電話です」 中尉の言葉にぎくりとする。 心臓が止まるかと、思う。 電話があるたび、俺は期待をするんだよ。 電話がない事に気がついて、それでお前はいまどこにいて一体なにをしているのだろうかと考えて。 ふと、お前が死んだと言う事実に何度も気づかされる。 毎日毎日。 私はそれを飽きもせず繰り返しているのだよ、ヒューズ。 ヒューズ。 どれだけお前の存在が大きなものだったか、俺は今まで知らなかったよ。 たとえお前にもう血がかよっていなくなって。 ヒューズ、お前が死んでしまっただなんて信じられやしないんだよ。 さよならなんて言えないんだよヒューズ。 血の気のない顔でもいい、最後の顔を見ておけばよかったと今更になって後悔しているんだよ。 きっと見ていればこんな事にはならなかったのではないかと、思うんだよ。なぁヒューズ? 電話をしてくれないか。 なぁお願いだお願いだお願いだからヒューズ、俺に。 さよならなんて言わないから。 笑って、死んでなんかいないと言って、 そんなのは夢だと言って笑い飛ばしてくれよ。 俺はさよならなんて言えやしないから きっと俺はこの喪失感を墓までもっていくのだよヒューズ。 俺はどうしようもなくお前の事を愛していたよ。 ただひたすらに愛しかっただけなんだよ。 -- やっぱりどうしてもわたしは大佐になってヒューズに永遠の片思い(両思いはだめみたい)をしたいのです。 中尉にもちょっかいだせてヒューズに恋できる大佐が憎い。
おまえのせいだよ、と言う亜久津はどうしようもなく可哀想な子供にしか見えなくて。 とてもいつもの亜久津と同一人物には見えなくて。 俺はそれがどうしようもなく悲しかった。 「夢ン中に、出てくるんだよ。お前」 ぽつりと。独り言みたいに亜久津がそう言ったのは二週間ぐらい前の事だった。 「……亜久津の夢に?」 問いかければこくりとうなずく。 その様子からして、ヘンだった。 聞けば毎日、夢の中に俺が出てくるそうで。 詳しい内容はなにも言わないけれど、俺がそれを茶化す様に喜んだらものすごい目つきで睨まれたのを覚えている。 ** 毎日、毎日、お前を苦しめる事になるなんて思ってなかった自分の言葉。自分の行動。 走馬灯のように駆け巡ったそれが、そこまで亜久津を苦しめるだなんて考えてもいなかった。 「あくつ」 触れようとすれば拒まれ、謝罪の言葉は受け取られない。 姿を見るのが怖かった。 眼を反らす事で少しでも楽になりたいと思った。 「あくつ、あくつ、あくつ、あのね」 言葉を口に出したら何もかも壊れちゃう気がしたんだよ、と言うのはまるで言い訳じみていますか。 好きだと言ったらお前が困るだろうと思ったんだよ、だなんてただの綺麗事ですか。 おれのこときらいになって、つきはなして、やさしくしないで。 それでもおれはおまえをすきでいるけれど、それだけはゆるしてください。 「好きでいさせて欲しいだけなんだ」 ようやく言葉にしたそれは、なんだかとても小さくて薄っぺらなようで苦しかった。 けれどようやく亜久津が口を開いてくれて、おれはようやく彼を観た。 「……自分勝手すぎる」 その声音は本当に頼りなくて辛そうで。 俺は罪悪感というものを初めて知ったような気がした。 「……ごめんね」 小さく言ってキスをする。 亜久津が体を震わせたけれど眼を閉じて気づかなかったフリをした。 そのまま額から滑る様に鼻に、頬に。 唇に触れる直前にもう一度ごめんね、と言って薄目を明けた。 眼を閉じた亜久津の瞼は軽く閉じられているだけで、俺はなんだかほっとしながら眼を閉じた。 その日のキスは、本当に、触合うだけのキスでした。 -- キスの日/ラブレターの日記念。 ぼんやりしたのが書きたかったみたい…まとまらないからこのまま更新であります。
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