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「また喧嘩か?」 「……気にすんな」 「だって珍しく何発も喰らってんじゃん……複数人か?」 立て付けの悪いロッカーの扉を、南は必死で引き、やたら大袈裟な音をたてて開く。 そして即座に聴こえた亜久津の言葉に、南は動作を止めた。 「千石」 「…………また?」 「ぁあ、しかも一方的に逆ギレしやがった」 淡々と無表情で語りながら消毒液に浸した脱脂綿を傷口に押し付ける亜久津を見ながら、南はうっかり呟いた。 「うぁ、質悪ィ」 「は、何今更言ってんだよ」 するとふと、微かに笑ったように見えた亜久津に、南は暫く黙りこみ、そして彼に背をむけて着替えはじめる。 「……でもさぁ、俺彼奴と付き合い長いけど、彼奴にそんな殴られた人間ってお前が始めてのはずだけど?」 「…………何が、言い」 鋭い視線で南を見返すと、部室のドアが勢い良く開き、除いたオレンジ頭がすこし目に痛く思えた。 「チャオー!?」 「「……千石……」」 見事に被った言葉に、3人同時に吹き出す。 程なくして始まる二人のやりとりを背にして、南はそのまま部室を出た。 声が聞こえなくなればいい、早く、早く聞こえなくなれ、と思いながら、なおかつ不自然に見えぬように、半ば感情を押し殺して扉を閉めた。 この感情につける名なんて大層なものはありはしない。 これはただの、錯覚のようなものだ。 そう、きっと。 この感情につく名なんてものはないのだ。 -- もう何がなんやら……ぐるぐる。
「亜久津、帰ろっか」 すっかり聞き慣れてしまった声に、内心溜め息をつきながら亜久津は振り返る。特徴的なオレンジ色の頭をした声の主は、へらへらとした笑顔を浮かべていた。 ……千石。 彼は亜久津にとって、どうにも苦手、というよりもペースをくずされてしまうやりづらい相手であり、自分から関わりたいとは思えなかった。しかしことあるごとに千石と顔をあわせる事が多く、必然的に関わってしまう事は多かった。 「……うぜェ」 「そんな事言わないでって。帰るのなら、一緒に帰りましょー?」 そう笑顔で言う千石の問いかけは、問いかけと言うよりも、むしろ念を押すような意味合いをもっている。特に亜久津に対して。 「……勝手にしろ」 亜久津はいつも溜め息をついて、千石の問いかけにイエスと答なければならなくなるのだ。 「えっへへー?俺もう部活ないし、今日から毎日帰れんねー」 これで亜久津が帰りがけに喧嘩する事も減るかなぁ、と呟きながら、千石は亜久津の隣へと駆け寄った。 「は、うぜぇし。…毎日なんか帰らねぇよ」 「えーなんで?どうせ暇でしょ?一緒に帰る相手もいないし?」 「誰も頼んでねぇ」 「一人で帰るのなんかつまんないよー」 「お前がいるよりマシだ」 亜久津がそう言うと、千石はオーバーリアクションをとる。 「ひっど!キヨたん泣いちゃう!」 「ひどくねぇよ。つかキモい」 ちらりと亜久津は呆れた視線を送ったが、千石は思い出したように少し先にある本屋を指差した。 「あ、そうだ亜久津、本屋寄ってくんない?」 「人の話聞けコラ!」 本屋で千石が何やら雑誌を買っている間、亜久津は暇を持て余して適当に雑誌の頁を捲る。それにも飽き始めた頃、千石が買い物を終えてやってきた。 「何みてんの?」 「わかんねぇ」 「なにそれ、帰ろ」 「ん」 正直、亜久津は繁華街を千石と歩くのは好きでは無い。 喧嘩を売られる事は少なくなるが、如何せん千石に振り回されて色々な店を散々回り、帰宅時間が大幅に遅れる。いや、本当は帰宅時間は遅くなろうが構わないのだが、千石と連れ立って歩くととにかく目立つ。自分一人でも目立つというのはわかっているが、隣にオレンジ頭の千石がいればさらに目立つ。極め付けに千石はとにかくうるさい。 「お好み焼き食べに行こう。」 「一人で行け」 道ばたで、突然思いついたように提案する千石に、亜久津は即答で同行を拒否する。途端に酷く残念そうな顔をして、千石はだだをこねはじめた。 「えー!一人じゃつまんないよ!一緒に行こーって!」 「嫌だ」 しかし亜久津はそのまま千石を置いて駅へと向かおうとしたので、千石も慌てて後を追った。 「ついて来んじゃねぇよ」 「えー!お好み焼き食べに行かないなら亜久津の家行く!」 その言葉に思わず亜久津が足を止めて振り返る。千石は半ばジャンプするように亜久津に追い付く。 「は?!ついてくんなバカ!てか離せ!」 「イ・ヤ・で・すーっだ」 千石はぎゅ、と亜久津の左腕に自分の右腕を絡め、無理矢理腕を組んだ。その力は見かけによらず強く、離れようと必至で亜久津は千石のオレンジ頭をぐいぐいと押して遠ざけようとするが、腕の力は一向に緩まる気配を見せない。 千石は千石で必至で亜久津の腕を離すまいとしながらも、引きずるように亜久津を引っ張って駅へと足を進める。 「……千石……もうわかったから離せ…」 「逃げない?」 「……逃げても追っかけてくんだろーが」 「うん、まぁそうなんだけどね」 はぁ、と亜久津が溜め息をつくと、千石は腕の力を緩め、へらっ、と笑った。 「俺、亜久津の事が好きだからどこまでもついてくよ?」 何度目か知れぬ千石のその言葉を聞き、亜久津は溜め息をついた。 「……ばからしい」 -- 没原稿。 気に入らない部分は全て没にしようと思ったら全部没になって、私の数日は一体…!と思い、微妙な部分だけのせてみた。 やばいな……うんざりしてきたよ…どうすんだよ自分……(笑)
久しぶりに部活に亜久津が出ていた日曜日。 彼の異質な雰囲気に、部員達はナイショバナシのようにこそこそと隠れて何事かを囁き、早めに部活を切り上げていった。部長の南までが、千石に鍵を押し付けて帰ってしまった。 日はまだ高いというのいん、コートには、亜久津と千石しかいなくなった。 一足先に部室に入って行った亜久津を、木陰でその姿を見ていた千石は追った。 「おっつーあっくんv……さてところで問題です。俺に足りないものってなーんだ?」 「…………てめぇに足りねぇのは常識だろ」 亜久津は嫌そうに顔を顰め、扉を閉めかけたが、千石の腕力がそれを阻止した。 「えー!!…ていうか閉めないでよドア、俺も着替えんだからさー」 「…じゃあ外で着替えろ」 「やだやだやーだー!視姦されちゃうよ!」 「されねぇよ!」 「なんでよーこの清純君はこれでも人気なのよー?生写真一枚500円なんだよ?」 やっぱ俺ってかっこいーからさーvと、首をかしげるついでに、組んだ両手を頬にあてるようにして笑う千石に、亜久津は冷たい視線を送った。そしてすぐに、鉄製のドアを閉めた。連続動作で鍵も閉めた。 「は、馬鹿らしい」 「あッ!閉めないでってば!ちょ!開けてよ!何鍵なんてしめてんの?!」 「うるせぇよ、少しは黙れ」 「むー……あ、で、さっきの続きなんだけどー…ヒントはねー……俺が、愛の狩人って事かな?どうよ?わかった?」 「知らん、ていうかお前煩すぎ」 「えーえーえーかまってよー寂しいよーあっくーーん!!」 「あっくん言うな!」 「じゃあ仁君」 「却下」 制服を着込み、溜め息混じりに亜久津が扉をあけると、鈍い音と共に千石の悲鳴が聴こえた。 「ッ痛!」 外で、痛そうに額を手のひらで覆い、頭を抱えるようにしゃがみ込んだ千石の頭を、亜久津は軽く蹴る。 「ばぁか」 「〜〜っあっくんのばかー!」 「てめぇよりは馬鹿じゃねぇ」 つきあってられない、と言いたげな視線を千石に向け、歩き出そうとしたが、すぐにズボンの袖を捕まれてしかたなしに亜久津は立ち止まった。 「あッまってよー一緒に帰ろうよーー!」 「………一分以内なら待ってやる」 「わかった!ほんとにまっててよ?!」 千石はそう言うと慌てて部室に走り込んだ。部室に、派手な音が響いたりしはじめたのを聞いて、亜久津は顳かみを抑え、コート脇のベンチに座った。 「………あと十秒……」 首をコキリと鳴らして、半ば呟くようにそう言った途端、勢い良く部室の扉が開き、千石が学ランを着込みながら走ってきた。 「わーまってまってまってーー!」 「チッ……間に合ったか」 「なーにそれ、嫌みたいじゃん」 「嫌だからな」 「あっくんのう・そ・つ・きー」 「はぁ?」 「嫌だったら待たないでしょ、フツーは。 はい、行こっか」 「つくづくマイペースだなテメェは」 「そうでもないよ、あ!」 「何だ」 「……答えわかった?さっきの。」 「……知らねぇよ」 「………ほんとに?」 「ほんとに」 「……じゃあ教えてあげる」 「教えてくれなくて結構だ」 千石はクスリと笑い、呆れ顔の亜久津の首にしがみついた。 「……真面目に聞いてよ?」 「別に言わなくて良いっつってんだよ」 「…………あのね、」 そして千石は亜久津の耳に、触れるぐらい唇を寄せて、ゆっくりと、感情込めて囁いた。 ――俺には君が、足りないんです。 暫く、亜久津の表情が固まり、動作も止まった。 徐々に赤くなり、表情を動かし始めた亜久津を見て、千石はクスクスと笑う。 「アイジョウ、も、もっと欲しいけどね」 「……………ッ!知らん!」 亜久津は忌々しげな表情で、離れろ、と千石に尻餅をつかせて歩き出したが、すぐに千石に呼び止められた。 千石はニヤリと笑みを浮かべ、煙草とライターを握った右手をひらひらとふった。 「忘れ物!……この煙草とライター、亜久津のでしょ?」 「……いつの間に……ったく手癖の悪い……」 仕方なく戻ってくる亜久津に、千石は左手を差し出し、起こせと要求した。 「まぁ、愛故になせる技ってやつヨ?」 「馬鹿ばっか言ってんな、さっさと返せ」 「はは、一緒に電車に乗ったら返してあげるよ」 そして亜久津によってぐいと引っ張られた手を、握り返す。 ――俺にとって欠けているのは、空の色でなく、君である。 -- はい。続き書き終ったのはうっかり23:30です。ヒィ! 君が足りない、ってのを書きたかっただけ…… もー何がなんやら……。
頭痛がする。 「南、先生が呼んでたよ。職員室来い、って。」 「え、あ…わかった有難う」 答えながらも、頭痛がずきずき激しくて、多分これは隠しきれてない。 階段を降りて、一階の職員室に顔を出す。 「すいません、なんか呼ばれたらしいんですけど」 「ぁあ南……お前、亜久津と……クラスも部活も一緒、だったよな?」 「…あー…そうです、けど……?」 「……これ、渡してくれないか?」 苦虫を噛んだような顔をして、彼は一枚のプリントを南に渡した。 「……なんかの課題…ですか?」 「…そうなんだが……あいつ授業に来なくて渡せなくてな……ちなみに〆きりは来週末だから…」 「はぁ…」 また、頭がズキリと痛む。 思わず顔を痛みで顰めると、教師は心配そうな面持ちで南を見た。 「…また胃か…?…大変だな若い時からそんな…」 「はは……まぁ、どうにかなりますよ」 こういう瞬間、酷くうんざりする。 -- 私が今頭痛いからなんか無理矢理書いただけ…
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