短いのはお好き?
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2006年03月31日(金) |
tearstained |
朝礼のあと、座り込んで泣いていた君の涙は、誰のために流したの?
きょうになって手紙をくれたけれども、全然わけわかんない。
あの涙がまさか俺のためだなんて思うほど自惚れも強くないし
おめでたくもないけれど、ほんとうにどういうことなのかわからなかった。
君が流した涙のほんとうの意味はなに?
それは、俺が生まれてこの方見たことがないほどの荘厳な眺めだった。
凄すぎて腰が抜けちゃうほどだった。
涙は、上に向かって流れていく。
どこまでも堕ちてゆく、その刹那をおれは永遠に感じていた。
いままで謎だったこと。理解できなかったこと。許せなかったこと。
そのすべてが、そのときはっきりとわかった。
そして、すべてを許せた。
コンクリートにぶち当たる直前、俺はツバサを広げて天に向かって舞い上がった。
二日間つづけて人魚が捕れたなんて、ほんとうに奇跡というほかない。
やっぱりばーちゃんの言っていた通りだった。
捕ろうとしちゃだめなんだね。そこがむずかしいところだけれど。
それにしても、きのうの人魚は綺麗だったな。
売らないでお嫁さんにしたいくらいだった。
あ!
もしかして、そういうことなのかもしれない。
人魚をお嫁さんにもらえってことなのかも。
いや、きっとそうだ。だって人魚が二日間つづけて捕れたなんて夢の出来事みたいなもんだし。
よし、明日もしまた人魚が網にかかったていたら、その人魚と結婚しよう。
俺はそう固く心に誓いながら、網の仕掛けてあるシギの群生している浅瀬へと舟を漕ぎ出した。
魚たちは、光合成によってシギの茎から発生する酸素を吸いに集まってくるのだ。
きっと人魚は、満潮時にこの支流へと入り込んでしまったのだろう。
俺はいつものように投げ縄を持ち、小舟の上で脚を広げて踏ん張るようにして立ち、網を投げる。
はじめのうちは、踏ん張って投げれば投げるほど舟は後ろへと流れ、つんのめって転げ落ちないようにするのが精一杯だったことを思い出した。
少し慣れてくると、踏ん張るのがいけないということがわかった。
そこで踏ん張らずに立って、腰で投げずに腕だけで投げた。
でも、その投げ方によって腰をやられてしまうとは思ってもみなかった。
で、結局今の投げ方をあみだしたのだ。
大樹は、護身用に常にナイフを携帯しているけれども、いつからそんなことを習慣づけたのかまったく憶えていなかった。けれど携帯しているばかりで一向に使わないこのナイフをいつの日にか使う日がくるのだろうかと、考えると怖くもあり、愉しみでもあり、ちょっと複雑な思いがした。
でも、携帯するようになったきっかけとなった出来事がきっとあったであろうはずなのに、それをまったく思い出せないのは不思議というほかなかった。
大樹は、大学を中退し看護学校に入った。別に医療方面に特に興味があったわけでもなく、ただ月謝が安かったからという理由だけで選択したようなものだった。大学は、なにもかもがくだらなく思えたから退学してしまった。
それでも大樹は、とりあえず看護学校を卒業し、大学病院の脳神経外科に看護士として務めはじめたのだけれど、オペ室担当となって九時間にも亘るオペを何度も経験するうちにノイローゼになってしまい、一年でドロップアウトした。
今となっては戻りようもないし、戻りたくもないけれども何の達成感の得られないまま、ノイローゼといえども逃げるようにして仕事を辞めてしまったのは残念なことだった。
大学も挫折し、仕事も挫折し、人生は甘くないようだった。
院内では、やりようによってはクスリを容易に手に入れられるので、ぶっ飛べるおクスリを相当量いただいて愉しんでいた。
仕事を辞めてからは、暇に飽かしてありとあらゆるドラッグを試してみたけれども、ハッパを決めたときだけが一番大樹は、ぶっ飛べた。
現実を捉えるためにハッパをきめていたのかもしれないのだが、冨樫に出逢ったのは、ハッパをやりながら現実っていったいなんだろうと考えていた頃のことだった。
出逢ったといっても、実際の冨樫に遇ったのではない。冨樫という人物は、この現実世界にはたぶん存在していない。
じょじょに、大樹は、富樫に惹かれていった。
由紀のことが、どうしようもないほど好き。
由紀と別れることなんて今は考えたくもない。 ずっとずっと由紀はあたしだけのもの。
あの可憐なスミレのような唇。 静寂を湛えた湖水のような神秘の光を放つ眸。 長いまつ毛。 スレンダーな身体。 かわいい乳房とツンと上を向いた乳首。
由紀のすべてが好き。 いとおしくて仕方ない。 由紀のためなら死んでもいいと思う。
由紀とだけ、由紀とキスするときだけは どうしても、震えてしまう。 いつの日か、別れる日がくることがわかっているから。
だから、いつもこれが最後のキスかもしれないって思って 震えてしまう。
由紀、由紀…。 別れてもずっとあたしは、あなたのことを忘れない。
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