やあ、ひさしぶり 君が元気そうで良かった。それは本心から。 こちらはあんまり、まだまだ不安定なようで少し体調を崩している。 まぁそれは、たぶん自堕落な生活からくるもので褒められたものではないし君が心配するようなものじゃない。
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マレビトの会の『cryptograph』を見てきた。 相変わらず他にはない迫力なんだけど、なんだかこういったモチーフに慣れてきた感があるなぁ。 これは松田正隆の色なのかもしれないけど、猥雑さと狂気と戦争の入り混じったイメージがすごく多い。 男性と女性のひどくシンボライズされた描写も。 同じような表現が多いように思うのは僕の勘違いだろうか。 ・・・なんとなく飽きたかな。 松田正隆のセリフはけっこう詩的なものがあるので好きなんだけど、なんだかそれも、どの舞台も同じような印象になってしまうと同じ詩を何度も読んでいるようで少し疲れる。 そもそもマレビトの会の舞台は情報量がすごく多い気がする。 こう、容量がギガ単位みたいな。 何人ものセリフが重なるのは普通だし、いろいろなものを象徴する(と思われる)小物がすごく多い。 まぁその、小物だの演出だのも何か前と被ってしまうものがあるので「同じ詩を読んでる」イメージになるんだろうけど。 やっぱり最初に見た舞台のインパクトが凄かった分だけ、その後にくるものがノーマルに見えるのは仕方ないにしても、前に見た「パライゾノート」よりイメージが拡散してしまった気がする。 抽象化とでも云うのかな。 正直、次の舞台を見に行くか微妙になってきた。
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またいろいろ忙しくなってきた。 10月はホント、土日が全部埋まっててダブルブッキングも多くて、この上に更に慣れないものを入れようかとしている僕は実際バカだと思う。 まぁとりあえず、仕事では信頼されてて楽しいし、それだけでもすごく楽だ。 それだけでも幸せだと思おう。
いつまでニコニコ笑ってられるかしら。
少しずつ好きな季節が逃げていくみたいに寒くなる。 陽射しの暖かさがいとしい。 君が元気そうで良かった。 それだけは本当。 君が幸せそうで良かった。
-------痛みは少しずつ微かに -------pain, it fades away silently
くっきりと晴れた日。 夕立がありそうだ、と根拠もなく思う。 青空と白い雲のコントラストが眩しくて、熱いのにてくてく出かけてしまう。
もういないひとへの手紙を託されて途方に暮れる、結局僕は何処へも行けないのだとわかってしまって途方に暮れる。
行き暮れて道遠く、何処まで行っても辺りは他人の住処と生活の在り処。 何かを探している。 目印になるものを求めてさまよう視線。 右へゆき左へゆき北へ東へ西へ、小さく入り組んだ道を歩きながらあぁこれは一月ほど前に辿った道だと思う。(いやしかしそれは間違いなんだが)
ここにいないことを赦されたひとを想う。 復活を予言された聖者みたいに。 或いは昔むかしの八百万の神さまみたいに。 どこかにいるはずだ、と思う。 そしてどこにもいないんだ。もう愛されていないから。 そんなふうに考えて、 思考をそこで打ち切る。 神さまは神さまで人間じゃない。 ここにいる誰かではない。 きっとこんなふうに、もう愛していない人間が想うひとではない。
何処へでも、行けるって、 まだ僕は思っている。 ひとのいる遠い所へは行けなくても、まだ行けなくても、 せめてもう少し遠くへ逃げてはいけるって。
この心をさえぎるひとがいないところ、この想いがすべて向かうひとを残して遠くへ。 まだ行ける。 そう信じる。
その日この秋初めての温かな烏龍茶を買った
友人の詩人を見に行ったかえりみち どこまで行くのかな、と 車の赤いテールランプを見送り 思いの外にぎやかな深夜のコンビニへ入って 新発売のお菓子の前で 人が言った言葉を耳元に思い返す と しまった追いつかれてしまう と 足を速めてコンビニから出てきたところで ひとが触れた指先がふるえていることに 気付く
ことばは
ひつようではありません
そう言った詩人は穏やかに強い笑みで 言葉が此処にあると泣いたひとを否定してみせた 僕は黙ってそれを見ていた ひとがうちのめされるのを 僕はそれを見ていた
ひとのことばが 背後から影のように追ってくるのを 恐れて 暗い道をひたひたと歩く 空は あの幼い日に見た満天の星 絶え入るような痛みの中に降り注ぐひかり
絡めた指先が穏やかに人差し指の輪郭を何度も何度も撫でてくるのを
一皮剥けばふつふつと欲望が沸いて出るのを抑えられずにいるのに
懐かしさに匂う指先がおそらく無意識にだろう何度も何度も
もしかしたらこのまま別れてしまうのを惜しんでか何度も何度も
人差し指の爪のざらついた表面を絶え間なく撫でてゆくのを
隣に座る腹の出た因業親父が下卑た笑みで覗き込んでくるのを感じながらも
金縛りにあったように振りほどけないでいる
触れて、しまえば
離せなくなることを知っていて
あえて手に取らず口付けもしないのに
やがて待っていたかのように
陥落するこの業の深い指先が耐え切れずその指先を掬い取るのを
待っていたかのようにこの手を手放そうとしないので
その感触に戸惑いながら
目を閉じる その暗闇に何度も何度も
小さく稲妻が走るように穏やかな指先の往復が響く
君の、夢見るような遠い目の届く先
それをもう見たくはないと思っても
変わらずやわらかな美しい指先が何度も何度も
人差し指の上辺に触れている
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