ダイエット

 近頃のにょらはちょっとかっこいい。

 膀胱炎で初めて病院へいったとき、体重は3.6キロ弱だった。そして療法食の生活になり、しばらくして量ってみると3.4キロになっており、今では3.2キロまで減ってしまった。減ったのが400グラム弱とはいえ、人間の女性でいうと5〜6キロといったところか。

 先日の尿検査の結果は良好だったし、年をとるにつれ体重も減ってくるということなので、今のところは心配ないだろう。

 11年前までのにょらは、なんと6キロもあった。狭いマンションに住んでいたため、運動不足だったのだと思う。そのあとアメリカに住むことになったのだが、出発の日、キャリーに入れたにょらとスーツケースを持って、成田空港内を歩くのがとてもつらかった思い出がある。

 アメリカではそれまでのマンションよりかなり広い3階建ての家に住んでいたので、にょらの運動不足も解消され、いつのまにか自然にやせていった。6年後の帰国のときには4キロまで落ちていた。

 昔太っていた頃のなごりが、お腹の両側に表れている。皮がたるんでいるのだ。この皮を指でぺろぺろ揺らして遊ぶのがわたしは大好きで、いつもにょらに怒られる。ぜひムササビみたいに飛べるようになってほしい。

 そんなにょらだが、立っている姿を真上から見ると、ウエストがキュッとしまって妙にかっこいい。意識せずに減量できるとは、うらやましい限りだ。ダイエットにはやはり運動と食事ね。見習おう。



2002年06月30日(日)



 ふとん乾燥機

 しばらくじめじめした天気が続いているので、きょうはふとん乾燥機にご出動願った。

 雨がしとしと降って肌寒いので、きょうもにょらは朝からベッドにもぐりこんだまま出てこない。
「ごめんね〜」とやさしい声でいいながら、にょらを無理やり引きずり出す。そして乾燥機をセットし、スイッチを入れる。いい具合にふくらみはじめた。音がするので、にょらは怖がって近づかないだろう。

 ところがわたしの予想ははずれだった。しばらくしてベッドルームを見にいくと、にょらがちゃっかり掛けぶとんの上にすわっているではないか。まんなかはふくらんでいて乗りにくいので、端のほうにきちんとおすわりし、顔をななめ上に向けて「ごくらくごくらく」といった表情だ。

 抵抗するにょらを拉致し、部屋から出てドアを閉めた。隣の部屋でパソコンをいじっていると、にょらはわたしとキーボードのあいだに割り込んで、身を寄せてくる。ちょっとじゃまだけど、にょらの背中にあごを乗せるとなかなか気持ちいい。

 そうするうちに、乾燥機が切れる音がした。にょらを抱いて連れていき、掛けぶとんの上に乗せてみると、「いいの?」と振り返ってからそこに落ち着いた。乾燥機をかけた直後のふとんの中というのはかなり熱い。でもどうするか見たくて、ふとんのすそを持ち上げてにょらをのぞかせてみた。するとしばらく考えてから中に入ったが、さすがに奥のほうは熱いらしく、ベッドの端に丸くなった。

 10分後――しっぽがはみでている。
 20分後――ベッドの端から20センチ奥へ。
 40分後――ベッドのほぼ中央へ。

 ほどよく温かい場所を求めて移動するにょらであった。



2002年06月26日(水)



 寝返り

 にょらは夜、わたしのベッドで寝る。寒いときは布団の中にもぐりこんでいたが、最近は掛け布団の上で寝るようになった。わたしはいつも横を向いて寝るのだけど、にょらのご要望で、いすにすわるような形に脚を曲げていなければならない。直角に曲げた脚のうしろにすっぽりはまって寝るのが好きらしいのだ。

 ベッドに乗ってくるとまず爪を出していない前足を、穴を掘るようにさっさっさっとすばやく動かして地ならしをし、気に入ったならし具合になったらでんと横になる。ところがわたしが脚をのばしていると、あちこち掘ってみてなかなか寝る位置が決まらないのだ。しかたなく曲げてやると、すぐに落ち着く。

 脚を直角に曲げた状態でにょらにくっつかれて寝るのは、けっこう苦痛。体には乗っていないとはいえ、最初の掘る作業で布団がひっぱられているので、意外と重い。(布団に余裕をもたせようとすると、ひざが出てしまう。)しかしそれよりも大変なのが、寝返りだ。寝相のいいわたしは、ベッドに入ったときの姿勢で朝目覚めることも多いが、どうしても寝返りを打ちたいこともある。脚を直角に曲げて右を向いて寝ている状態から左に寝返りを打つのを想像してみてほしい。しかも掛け布団の上にはにょらが乗っている。どうです、むずかしいでしょう? そのまま寝返りを打つと、まちがいなくにょらをはねとばしてしまう。にょらを起こさないようにしようと思うと、まずそーっとひざを胸に引き寄せるようにし、体育ずわりの格好になってからそのままの形で左を向き、またそーっと脚をにょらの横にすべりこませるのだ。しかも直角に。

 わたしがこんなに苦労しているのに、お姫さまはすやすやとお休みになっている。最近、朝起きたときに疲れが残っているのは、にょらのせいだったのか。



2002年06月23日(日)



 副作用

 わたしの食事のとき、にょらは先にいすにすわって待っている。しかたなくわたしはいすの前半分にすわって食べるわけだけど、にょらは人が食べるものをほしがりもせず、背後でただすわっているだけ。

 今まではそうだった。

 ところが今夜、焼き魚を食べていると、左のわきの下からにょらの顔がぬっと現れた。鼻をひくひくさせているかと思うと、そのうち何かを食べているように口をぺちゃぺちゃ動かしはじめた。(これをうちでは「おいしい口」という。)かまわず食べていると、にょらはおいしい口をしながらさらにお皿に顔を近づけ、そしてそーっと、ほんとにそーっと右手を出してきた……。

 人の食べているものに手を出すなんて、今まで一度もなかったことだ。これは療法食の副作用に違いない。最近また療法食がおいしくないことを思い出して食欲も落ちているところへ、わたしがなんだかいいにおいのするものを食べているからついほしくなったのだ。ほんのできごころだったのだろう。
「ダメよ」というとすぐ手をひっこめ、そのうち2階にあがってしまった。

 考えてみるとかわいそうだ。毎日同じものを食べ、それがおいしいならまだいいけど、そうでもないのだから。しかも一生療法食だなんて〜 (;_;)。わたしだったら耐えられないよ〜。



2002年06月20日(木)



 カキカキ

 近頃のにょらはムダ毛が多い。抜け替わりの時期はいつ終わるんだろう。さっきコロコロ(粘着テープ式のほこり取り)で取ったばかりなのに、またあちこちにムダ毛が出てきているという状態。

 ふだんはコロコロが手軽なので、この時期は日に何度もすることがあるが、念入りにムダ毛取りをしたいときは、ゴムのブラシ(ペット用)を使う。これをうちでは「カキカキ」と呼んでいるのだけど、にょらに見せて「カキカキしよ〜」というと、うれしそうにとんでくる。

 カキカキをするときは掃除前がよろしい。そしてカーペットの上が望ましい。フローリングの上だと、取れた毛のかたまりが落ちたときに、ふわふわ逃げ回ってつかまらないからだ。

 うまくにょらをカーペットのところにおびきよせたらカキカキ開始。にょらはカーペットにぴったりおなかをつけ、ぺたんこ状態になる。このカキカキというのは、おもしろいほど毛が取れる。ずっとやり続けたらどうなるだろうといつも思うけど、適当なところでやめなければならない。はじめは喜んでいるにょらも、わたしがムキになってやっているとだんだんいやになるらしく、すきを見て逃げようとする。しかしわたしはそんなにょらをつかまえ、気がすむまでやってしまう。

 先日は久しぶりだったので、ついついやりすぎてしまった。なんだか毛がうすくなってきたような気がする。体を丸めておなかをなめているときなど、肩のあたりの毛が分かれて地肌が透けて見える。

 夏だから、まあいいか。



2002年06月19日(水)



 噛み魔

 前回はにょらが「吐き魔」だと書いたが、実は「噛み魔」でもある。これはけっこうつらい。

 まだにょらが子どものころ、わたしのひざの上でウトウトするときは必ず、ちまちまとわたしの手を噛んでいた。まだお母さんのお乳が恋しいのかな、と思い甘やかしていたら、だんだん図にのってきた。うれしいときのあま噛みはまだ許そう。わたしがちょっかいを出してにょらを怒らせて噛まれるのもしかたがない。恐ろしいのは、何もしていないのに突然思いっきり噛まれることだ。どう考えてもわたしは悪くない。自分からひざにのってきて、かいてくれといわんばかりに人の手にあごをのせ、指を動かしてやると気持ちよさそうに目を閉じてゴロゴロ(わたしにはブーブーと聞こえるけど)いう。ところがしばらく続けていると、突然ガブーッとやられるのだ。それも本気で噛むからかなり痛い。血がにじむこともある。

 なでられている最中に突然いやなことを思い出して噛みつくのだと、何かの本に書いてあったように思う。迷惑な話だ。よりによってそんなときに思い出さないでほしい。

 最近は、にょらに注意しているときだと「くるぞくるぞ」というのがわかるようになってきて、噛まれる寸前に手をひっこめることができるようになった(成功率は約5割)。しかしいつもにょらに意識を集中させていられるわけではない。おかげでわたしの手には生傷が絶えない。

 それなのに、病院では痛いことをされても噛まないのはなぜだ。どうも腑に落ちない。ちと悔しいぞ。(いえ、噛まないほうがいいです〜。) 




2002年06月16日(日)



 吐き魔

 夜中、あの《深夜超高速階段往復及寝台襲撃》(6月2日「襲撃」参照)がはじまった。先生によると、これはハンティングなどのイメージトレーニングで、寝ている人間を岩や倒木に見立てているらしい。わたしはふとんを頭までかぶって襲撃にそなえた。ところがいつもは3〜4回繰り返される襲撃も、このたびはなぜか1回で終了。

 安心してまた眠りにおちかけたそのとき、今度は別の音で目がさめた。あわてて飛び起き、ティッシュの箱をつかんで走る。そう、にょらが吐きはじめたのだ。廊下、階段と移動しながら吐き続けるにょらを、片手にティッシュの箱をかかえ、片手で床をふきながら追いかける。連続8回。さいわい今回はカーペットやベッドに被害はなく、フローリングのところでのみ吐いてくれたので、後始末は楽だった。

 自分でも悪いことをしていると思ったのか、最後のほうは家具のうしろに隠れてしまい、呼んでも出てこない。しばらく様子を見ていたけどもう吐きそうにないので、わたしはベッドにもどることにした。

 昔からにょらは吐き魔で、しょっちゅう吐くけどあとはケロッとしている。一時に比べたら最近はその頻度が低くはなっているものの、病気がわかって以来、ちょっと心配。

 ふつうならにょらはあとからベッドにくるはずなのに、いくら待ってもこない。気になってさっきの部屋まで見にいってみると、別の部屋から「なにか?」と出てきた。
「もうだいじょうぶ? 気分悪くない?」などと声をかけていると、人の心配をよそに、なんとしばらく興味を示さなかったネズミのおもちゃにちょっかいを出しはじめた。
 
「やめてよ〜こんな時間に〜」
 午前3時半にネズミのおもちゃ(ゴムひもつき)を振り回すはめに。おかげできょうも寝不足だ。




2002年06月13日(木)



 忍法なりすましの術

 にょらはダイニングテーブルの上には乗らない(ことになっている)。人の食べるものに興味を持たないし、テーブルは自分のなわばりではないことを知っている(ことになっている)。

 ダイニングルームの窓の下に、幅30センチほどの台が壁から出ており、ここはにょらの「お外見物台」になっている。そしてこの台とテーブルが同じ高さで、しかもぴったりくっつけてある。いつもにょらは直接この台に飛び乗り、直接床に飛び降りるのだけど、台から降りたあといすに乗りたいとき、いったん床に降りるという動作がたま〜にめんどうになるらしい。テーブルを横切って目的のいすまで行きたい、しかし人が見ている。こういうときに使うのが《忍法なりすましの術》だ。身を低〜くし、匍匐前進のようなかっこうでゆっくりテーブルの上を移動する。こうすればテーブルと同化し、人からは見えないらしい。わたしがあきれて見ていても、目を合わせようとはしない。なぜなら目を合わせると、術の効果がなくなってしまうからだ。

 最近は術を使う回数がふえてきたような気がする。そんなにょらなので、家にだれもいないときにはなにをしているか怪しいものだ。いったん家を出たあとで忘れ物に気づき、すぐに引き返したとき、テーブルのまんなかににょらがすわっているのを2度ほど目撃したことがある。なにをするでもなく、ただきちんとおすわりしているのだ。わたしの存在に気づいても動こうとしない。鍵があく音を聞いて、あわててなりすましの術を使ったのかもしれない。おこられてはじめて「あれ? 見えてたの」という態度になるのだ。(しかしこの場合は何になりすましているんだろう……)

 どうもこの術には「身を低くする」「姿勢を正して動かない」のどちらかが有効であるらしい。術を使っているときは見えないふりをしてやるべきなのか、それともきちんとしつけるべきなのか、悩むところだ。でもあまりの「なりすまし」ぶりに、笑ってしまうことのほうが多い。



2002年06月07日(金)



 思い出した?

 先日、療法食をよく食べるようになったと書いたばかりなのに、さっそくその翌日から食べる量が減ってしまった。しかも体重も0.2キロ減っている。うんちはいつもどおり1日おきだし元気もあるので、体調が悪いということはないと思うけど、もしかして、おいしくないごはんだったと思い出したのか? 困る。それは困る。だってこの療法食でOKと思ってビッグサイズを買ったばかりなのだ。また闘いの日々がやってくるのか……ふぅ……。

 

2002年06月05日(水)



 襲撃

 にょらの不可解な行動のひとつに《深夜超高速階段往復及寝台襲撃》という恐ろしい技がある。わたしが夜ベッドに入ってウトウトしはじめ、気持ちよく意識が遠のいていく、ちょうどそのころにそれははじまる。にょらが突然ものすごいスピードで階段を駆け下り、またすぐ駆け上ってきてわたしのベッドに勢いよく飛び乗るのだ。なにが恐ろしいかというと、以前ベッドに飛び乗るときに爪でわたしの鼻をかすり、横向きで寝ているわたしの顔のすぐ前に着地したことがあったのだ。突如襲った顔の痛みに驚いて飛び起きたものの、はじめはなにが起こったのかわからなかった。かわいそうに、わたしの眉間の少し下には数日間ひっかき傷がついていた。あと数センチずれていたら目だった。あぶないあぶない。

 以来、これがはじまるとばっちり目がさめるようになった。「あ、はじまった」と思ってすぐに頭まで布団をかぶるのと同時ぐらいに襲撃にあう。わずか数秒で階段を駆け下り駆け上ってベッドに飛び乗るのだ。陸上選手もびっくりの速さである。しかもそれを3〜4回繰り返す。なにを思ってそんなことをするのか、さっぱりわからない。

 いつでもどこでもすぐに深い眠りにおちることができるという特技を持っていてよかった。でも心配なのはにょらのほうだ。あんな猛スピードでやっていたら、そのうち足をふみはずすのではないか。もうトシなんだから、そこのところわきまえてほしいものだ。

 それにしてもこの不可解な行動の謎を、だれか解明してほしい。




2002年06月02日(日)
初日 最新 目次 HOME