ジョージ北峰の日記
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2015年04月24日(金) 悪性新生物ーーこの化け物の正体を暴く

 いよいよ研究は専門知識が要求される領域に入ってきた。
 出来るだけ誤解のないように説明してみよう。

 今回実験に使った細胞種(株)の浸潤・増殖性(悪性細胞の最も重要な特性とされている)について、実験系を使って調べてみる。

 これには試験管内にとりだされた正常組織(器官培養という)に対する各々の細胞系の増殖・浸潤性を調べる。

 器官培養された正常組織(ハツカネズミの腹筋組織を使用)を培養瓶の底に敷きつめ、その上に調べたい細胞を培養液とともに静かに重層する。2週間混合培養した後、各々の細胞の正常組織に対する浸潤・増殖性について顕微鏡標本を作製して観察する。

  この実験では、高悪性度の「F細膨やMC細胞」と、低悪性度の「m細胞株、L細胞株やT-C3H細胞」との間に、正常組織に対する浸潤・増殖性について何らかの差がみられるかどうかを比較する。
 
 このデーターの顕微鏡写真を示すことが出来ないのが残念だが、得られた結果は極めて興味深いものだった。

低悪性度の細胞群には浸潤・増殖性に二通りのパターンが見られた。

 一つは「m及びL細胞」に見られたパターンで、正常組織(筋肉)の表面を覆う薄い筋膜上に「極性」を示すことなく10層以上の重層配列を示し増殖するか(正常細胞が重層に配列する場合、美しい規則性増殖を示すが、癌細胞の場合、醜くでたらめに重なり合い増殖する像が見られる。これを極性がないという)、又は「T-C3H」で、筋膜上に一層の単層配列しか示すことが出来ない(重層配列を示さない)が、筋膜を破り筋肉内深くに浸潤する、2種類のパターンが見られた。


 通常、正常細胞は筋肉表面に「敷石状に一層配列する」のみで、まれに重層に配列する場合でも極性のない重層配列を示したり、筋肉内に「浸潤」することは決してない。


 mおよびL細胞は「極性のない重層配列」を示すが「浸潤性」がない、一方TC3H細胞は「浸潤性」はあるが「重層配列」を示さない。

 つまり低悪性度のm、L及びT-C3Hは、増殖・浸潤性に関して正常細胞とは明らかに異なった性質を示したのである。

 一方高悪性度のF細胞、MC細胞では、筋肉表面に「極性のない重層配列」を示しながら増殖するばかりでなく筋層深くに「浸潤する像」が見られた。

 興味深いのは、これらの細胞系の示す像が人間の癌に例えると、m細胞、L細胞は「早期癌」に対応し、F細胞、MC細胞は「進行癌」に対応することである。ちなみに人間の早期癌は、細胞の形態が高悪性度の癌と変わらないが、周囲組織に浸潤出来ない癌で、一方進行癌は周囲組織に浸潤し、遠隔臓器に転移する癌である。

 今回の実験系でT-C3Hのように「重層配列」を示すことなく、「浸潤」だけを示す細胞系はこれまでのところ実験系でしか見つかっていない。


 このような細胞系を、人間の場合、如何位置づけるのか今のところ分からないが、ハツカネズミの実験系(試験管内)で見つけられた極めて興味深い細胞と言える。人間の場合でも、このような細胞は存在するのだろうが、発病しないまま治癒してしまい、気づかれることがなかったのかも知れない。
 

 以上のように「低悪性度の細胞」と「高悪性度の細胞」にある「力」の差(外部組織を破壊する力の差)は、癌が示す「悪性度(浸潤・増殖、転移)」と密接な相関があるらしいことが分かった。

 この実験で最も注目すべき点は「低悪性度」の「m細胞やL細胞」は免疫力の低い宿主に戻し移植した場合にのみ腫瘍形成が見られ、一方「外部環境に対する力」が大きいFやMC細胞は免疫力の高い宿主に戻し移植しても「腫瘍形成や転移」が見られたことで、これは癌の示す「力」が成体の免疫機構に抗して増殖する能力と密接に関係するらしいことを示している点である。


 これをこのまま理解すると、生体の防御機構として免疫細胞が癌細胞(IV期)に戦いを挑むプロセスは、例えて言うなら、砂塵を巻き上げて突進してくる戦車に対して、人間が素手で立ち向かうに等しい無謀な戦いということになる。 つまり通常の免疫反応で、組織破壊力の強い、戦車にも例えられる高悪性度の癌細胞を殲滅することは無理な相談になのだ。


  これは人間の癌の免疫療法には、前もって何らかの方法で癌細胞の抵抗力を削いでおく必要があることを示唆している。


  以上のように、癌細胞が組織圧に抗して増殖する能力は、高悪性度の細胞系に見られる浸潤・増殖及び転移能力に密接に関連している性質と言える。


ジョージ北峰 |MAIL