ジョージ北峰の日記
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2009年05月14日(木) オーロラの伝説ー続き

 XXVII
 これまで遺伝子工学を専攻する病理学者としてラムダ国に招待され、私が実際に経験して、理解不能に思える奇妙奇天烈な経験を、その時々に浮かんだ感想を加え紹介してきました。
 当時、私は若く野心的でありました。それにまだ経験の乏しい未熟な人間でもありました。ラムダ国の存在は色々な側面(文化的、政治的、経済的)から興味の尽きない国と観ていました。しかしその存在の本態についてほとんど何も理解していませんでした。
  振り返ってみますと、ラムダ国は地球上の生物界の進化を管理・支配・運営する異次元世界の実験国家だったのでしょうか。
私は、ノーベル賞学者で分子生物学の権威だったC博士が地球上の生物の遺伝子は宇宙から来たと書いておられたのを思い出しました。
その当時私はまだ医学生で、彼の生命の起源に関する大胆な仮説に驚き「C博士のような偉大な科学者が、なんと荒唐無稽な話をされるのか」と、常識を疑ったほどでした。
  しかし一方それまで分子生物学の領域で、彼が打ち立てた理論は驚くほど正確で、彼の予測はことごとく実験的に証明されていたのです。ただ「遺伝子が宇宙から来た」と言う荒唐無稽な話しだけは直ちには信用する気にはなれませんでしたが---。しかし「ひょっとすると本当かも?」という半身半疑な気持ちも少しはありました。

 だが私がラムダ国で実際に経験したことは、C博士の仮説とかなり一致する可能性が多かったのです。つまり異次元(私達が見ることの出来ない)の世界でラムダ国を支えているパトラの父、老博士は地球上の遺伝子を採取し、次々新しい種の動物や人間を作り出していたのです。つまり地球上の生物の遺伝子を保存する一方、進化させる実験を繰り返していたのです。

  当時人類には地球上の生物の存在を危うくする、色々な政治的、経済的、イデオロギー的問題が山積していました。
老博士は人類をこのまま放置しておくと、人のみならず地球上の生物界をも破壊してしまう恐れがあると危機意識を抱いていたのです。そんな考えから博士は、まず人類の改造計画を手始めたらしいのです。

 つまり彼はラムダ国人を地球上に送り込み、地球人の改造に真剣に取り組みだしたのです。
 パトラと私が一緒に日本社会に復帰できたのも、その一環だった可能性があります。しかし私に特別な任務が与えられた訳ではありませんでした。
私はただ科学者としてパトラと平凡な研究生活を続ければよいのでした。パトラによれば、それが私に出来る最も大切な仕事だというのでした。
  パトラは、私の両親、親族や周囲の人からは、とても「人格の優れた、やさしい女王(何時の間にか人々はそう呼んでいました)」と尊敬を集め、しかし私の妻として村に馴染む努力を始めました。

 やがて彼女は停滞しきっていた村に活力をもたらし始めたのです。
火もたえだえな村に漁業、林業、農業を蘇らせようと彼女は率先して働き始めました。ある時は船に、ある時は山に、ある時は畑に---。
 想像してみてください、本当にクレオパトラのような女性が古くから伝わる日本の仕事着を身につけ活発に働く姿を! 私でさえ焼餅を焼きたくなるほどの魅力を周囲に発散するのでした。
すると村人達にも何時の間にか活力がよみがえり、そして想像以上の力を発揮し始めたのです。
 私はラムダ国で見せた彼女のバイタリティーを知っていました、そして彼女のリーダーとしての能力も---。しかしこの村を此処までリードできる女性とは想像も出来ませんでした。 彼女は、生きるためには戦だけではなく、どんなことでもやり抜く力を秘めていたのです。

  彼女の目指していたのは小さな原始共同体を作ること---それには、山、畑、海があればよかったのです。彼女にはお金(資金)は必要ありませんでした(彼女はお金の価値を知らなかったのですから)。
 その頃の彼女の考えは「富は人間が築くもの」富に余裕が出来ればさらに他のコミュニティーに還元する---だけだったのです。
 それに彼女は皆に自分で「無から何かを作り出す」喜びを教えてようとしていました。
 しかし老人達は「私等の若い頃は、まさにこんな社会だった」と彼女の働きをいとも簡単に受け入れたのです。

 夜、パトラは私と2人になると「あなたの故郷には本当に有能な人達、神から選ばれた人達が住んでいたのね---」と喜びを語り、私が疑問「?」を呈しましても、にっこり笑うだけでした。 しかし---パトラにそう言われると私も嬉しくパトラとの愛の生活は以前にまして充実するのでした。
  パトラは老博士が言っていたことを実践していたのでしょうか---。

 つまり、彼は「人類を狂わせているのは利己主義と個人主義の区別が曖昧になりつつあること“自分さえ幸せであれば”という単純な利己主義が地球上に蔓延すると、実はそれが「地球を滅ぼす」大きな力になる。例え一握りといえども、そんな人間がリーダーになると人間社会を破滅に導く。
昔、そんな考えの人間は軽蔑され社会から淘汰されていた。
人間社会は小さな共同体だった。だから利己主義が蔓延する共同体は自然淘汰の圧力に抗し切れず破滅する運命にあったのだ。ただ文明が進み、社会が肥大化すると、個人の自由度が増し、そして反社会的な人間でさえ存在可能な状態が生まれた。それが現代の混沌とした世界を築く遠因になった」と言うのでした。

  確かにラムダ国では、誰もが社会規範を守って生活していました。国のあり方に異論を挿む人は皆無でした。社会規範はラムダ国人たちの遺伝子に刷り込まれていたのですから---。
 老博士に言わせれば「地球上の生物の中で人間だけが、この原理から外れた存在。だから生物界の頂点に立つことが許された。
しかし、一方それはもろ刃の剣、悪くすると地球を滅ぼす可能性も秘めているのだ。
現代の文明国では、どの政治、どの宗教、どの経済活動も独善的で他を省みない傾向が顕著になりつつある。それこそが悪い方向に向かっている証(あかし)だ」と言うのでした


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