ジョージ北峰の日記
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2009年03月11日(水) オーロラの伝説ー続き

 ラムダ国での私の経験談につきましては、読者の皆様にとって興味を持っていただけそうな部分ばかりをお話してきました。
私の仕事にかかわる別の裏話及び、ラムダ国の存立の基盤に関わる話題---ラムダ国創立の立役者、老博士とはどんな人物だったのか?などについては敢えて触れてきませんでした。が、しかし読者の皆様には、むしろこちらの話がもっと重要かも知れません--。

 正直に告白しますと、仕事の内容についてはあまり話したくなかったのです---しかしこれから、これ等の点についても、もう少し詳しくお話しましょう。
 私が何故この国へ招待されたのか?
 その理由は、老博士が、私を特殊な才能を獲得した人間だと認定したこと、又私は新しい遺伝子を分離していましたが、その遺伝子こそ老博士が探して求めていた遺伝子だったこと、それに私が病理学者だったことなどが挙げられるでしょう。
 ことに病理学の仕事として、老博士は一体私に何を期待していたのでしょうか?
 これからの話は、昔なら恐らくホラー映画の主題になっていたかも知れません。「人間改造に異常な執念を燃やす博士の話---」など---。

 私の仕事は、この国へ来る前から、遺伝子組み換え実験と動物に起こる様々な形態学的変化について病理学的に研究することでした。 だから遺伝子組み換え実験の過程で動物に色々な奇形が発生することは、すでに経験していました。しかし研究としては、これらの結果はネガティブな部分なので、敢えて発表することはありませんでした。

 この種の実験、つまり何が原因で(例えば薬物のような化学物質)、どんな奇形が動物にどのくらいの頻度で起こるのか?という研究は、実験病理学者が日常的によくやる研究で、この点に関しては、私にも倫理的なわだかまりはありませんでした。
 人類の為になら、動物実験を実施することも研究者として至極当たり前のことで、立派な行為と言われることがないとしても、少なくとも後ろ指を指されることはないと思ってきました。
 この国へくる前、私が分離した遺伝子が動物実験で精巣癌以外に巨大マウスを発生させた実験で、私は世界に驚きを持って迎えられましたが、しかしこれもある意味で奇形(病気)を誘発する実験だったかも知れません。
 ただ私の研究は、誰からも非難されることはありませんでした。むしろ国際的には高い評価を受けてさえいたのです。

 しかし人間を実験対象にするとなれば話は別でした。
 ラムダ国では、すでに人工胎盤を使って体外での人間発生に成功していました。このような体外発生が可能になりますと、本当に恐ろしいことですが人間を実験対象にしているという意識は薄れ、罪悪感をあまり持たなくなるのです。
 だが、私は人の材料を使う場合は、たとえそれが試験管を使った実験だとしても、やはり抵抗感がありました。
 だが病理学者としては人体実験に間接的に携わっていました。つまり、かなりの数に上る(恐らく失敗した実験例について)病理解剖を引き受けていたのです(怒らないでください)。実験で発生してくる形態異常の種類、その要因に関わる染色体・遺伝子異常の解析を進め、失敗した実験の問題点を探る研究です。
 これは巨大ネズミを発生させる実験で、私もやってきたことなのです。
 ただ動物実験なのだから、特に問題はないと私は信じていたのです(ただこの国で研究しを続けているうちに、不思議なことに思考回路が逆転したのか、動物だったら許されるの?と思うようになりましたが---)。
 この国では、受精卵を材料とした体外発生の実験で、私達の人体に見られる色々な臓器の発生異常(病気としての)、卵巣や精巣によく見られる奇形腫(つまり内臓、四肢、目、脳組織などがでたらめに形態発生して出来る組織の塊)などについて、その機構の解明を目的として研究を精力的に進めていました(そして最終的には理想的な人造人間を生産する際に必要な理論を構築する---)。
 
 最近世界で盛んに研究されている人造臓器の話とよく似ているかも知れません(私はこの研究が悪だと決めつける意図は全くありません、人類の未来を考えればやはり必要な研究かも知れないからです)。
  
 ただ私の気持ちの問題として、この手の研究には少し薄気味悪さを感じていたのです。
 この国で開発された人工胎盤を使えば、組織発生の過程を実際に目で観察しながら、外から薬物や化学合成物を添加し、人の発生過程の制御機構を調べることが可能になるです。
 つまり人工胎盤は必要なら人造臓器の作成にも利用出来るのです。
 私は興味ある実験だとは思いましたが、人間の受精卵を使って其処まで実験を進める必要があるのか? やはり私には少し抵抗感がありました(古い人間と思われるかもしれませんが)。
 こんな理由もあって、この国の進める実験に全面的に協力する気には、如何してもなれませんでした(ただ、最終的には動物を犠牲にした実験をむやみに繰り返すよりは正しいのかな?と思うようにはなりましたが---)。

 ただこの国の研究が是認されるとすれば、この研究が人間だけを対象にしていたのではなく、動植物の世界にまで及んでいたことです。しかも実験で人間と動植物の間に区別がありませんでした。人間の代わりに、動物を使った実験をすることはありませんでした。
 そして結論から先に言いますと、ラムダ国はいずれ地球に起こるかもしれない異変(?)に対して地球の動植物の遺伝子を保護する、さらに過去消えていった有用な遺伝子を蘇らせること等を目的としていたのです。いわばノアの箱舟計画を遺伝子レベルで実施していたのです。
 そして人間進化をより好ましい方向へ戻す計画をしていたことでした。(老博士に言わせると、現代の地球人は本来の方向から誤った方向へ進化しつつあるということでした。私がその真偽について述べる資格はないように思いますが---) ただ、パトラを含めラムダ国人達は、私が知る限り私達よりも色々な意味で確かに優れているように思いました。

 私の自然観は、自然をありのままに受け入れるという単純ものでしたから、あの老博士が語っていたような壮大な生物の改造計画の是非について論ずることは、私の思考範囲を完全に超えていると言った方が正しかったでしょう。ただ老博士の話を聞いていると、なんとなく「それはそれでそうなのかな?」と思うことも多かったのですが---。
 ただ此処での仕事で、思わぬ発見に驚いたこともありました。 
 例えば、ラムダ国人の病理解剖をしていた際、松果体が異常に発達していることに気付いたのです。
 松果体は人類の進化の過程で少しずつ退化してきた可能性が考えられていますが、ラムダ国人達には、その機能が復活していたのかも知れません。  
 私は、この松果体が陰に陽にラムダ人達の特殊能力を引き出しているのではないか?あるいは又私の知っているような松果体とは別の働きをする新しい器官かも知れないと思ったこともありました。 
 彼等の動物の様な敏捷な動き、私達にはない異次元の認識能力などの発現などは、彼等の異常に発達したこの器官と密接な関連があるのではないか?と思ったのです。
 ある日、老博士にこの事について尋ねてみましたが、博士は少し笑みを浮かべるだけで何も答えてくれませんでした。 
  南米に栄えたインカ人やアステカ人達も、ラムダ国人と同じようにな松果体が発達していて、私達にとっては謎に包まれた、あの不思議な文明を作り上げたのではないか?とすれば---彼等の文明の謎を解くことが出来るのではないか?と考えさせられたのです。
 そう言えば、インカ、アステカの言葉もデジタル言語のようでいまだに解読されていません。そのこともラムダ国と共通している文明のように、私には思えるのでした。
 


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