ジョージ北峰の日記
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2008年07月05日(土) オーロラの伝説ー続き

 それから、間もなく私には全く想像も出来ない出来事が宇宙空間に起こり始めていました。
 それは、女王達の勝負がついたと思った瞬間から始まりました。
青い光を放って揺れていた海上のUFOが音もなく上昇し海面を去り始めたのです。するとそれ迄、遥か上空で星が形成したと思っていたチューブ状の構造物が螺旋を描きながら、まるでヘビの様に降下し始めたのです。そして海上から上昇して来るUFOを、掃除機がまるで埃か塵でも吸い込むかの様に音もなく、どんどん吸い込んでいくのです。
 勿論読者の皆様も、お気付きのことと思いますが、天上の星は本来太陽を凌ぐほど巨大なもので、常識的に考えればそれが集まってチューブを形成するなんてことは馬鹿馬鹿しくて想像さえ出来ないと思います。しかしその時、私はその出来事が不思議なことともなんとも思わなかったのです。ただただ唖然として驚くべきドラマの進行を眺めていたのでした。
 一方地上では、ラムダ国の戦士たちが体全体で喜びを表しながら、続々とパトラの周囲に集まり始めていました。
 ベンは満面の笑みを浮かべ、無言のまま身振りで私に「行こう」と誘いました。

 新月の真暗闇、海岸線を背景に赤い光を放つ甲冑で身を固めた戦士たちが集まって来る様は、日本のお祭りでよく見られる提灯行列を遠くから眺めているような錯覚に陥ったほどでした。

 パトラは倒れた相手の女王の前に跪(ひざまず)いていました。祈りを捧げているようにも見えました。
 ベンが厳かな表情で左手を挙げて戦士たちに合図を送ると戦士たちは一斉にパトラを取り囲むように跪きました。小学校の校庭で運動会の様な状況を想像してください。
 パトラの周囲に運動会の競技場の様なスペースがあり周囲に戦士たちが取り囲んでいました。すると星雲の壮大な運動の最中を通り抜けるように、今度は金色に輝くUFOが音もなく海面に着水してきました。そして円盤状の扉が開くと、ローマ帝国時代を想起させるような白いローブを身に着けた数人の白髪の元老達が降り立ちました。
 そしてパトラの跪(ひざまず)いている場所に向かって粛粛と進み始めました。一方パトラは何も言わず、先程の状態まま、倒れた女王の前で一心に祈りを捧げているように見えました。
 で!、さらに私が驚いたのは、近づいてきた元老達の中心に、あの博士と呼んでいた老人がいたことでした。私が老人に初めて会ったときから何となく想像していたことですが、彼こそが元老たちの中心人物だったのです。
 彼等がパトラに近づくにつれて、後ろからやはり数人の戦士たちが、厳かな意匠を凝らした金の椅子や祭壇、そして何か大きな金で縁取られた衣装箱のような荷物をUFOから運び出してきました。そして瞬く間に祭壇を築き上げていきました。

 それから老博士が此方に向かって手を挙げますと、ベンは表情を崩すことなく、数名の将軍たちに合図を送り、彼等と一緒に祭壇に向かって移動し始めました。私はどうしたらよいか分からず、困惑した表情で立っていますと、あの老博士が私のほうを見て一緒に来るように合図するではありませんか。私にとって、あの状況下ではそれは想像もできない出来事でした。

 しかし、その時初めて私は老博士と一体感を得たと言うか、言葉では表現できない充実感が内から湧き上がってくるのを感じました。
勿論彼が何か言葉を発した訳ではありません。しかし彼の意図が私の胸にジンジン伝わって来るのです。それは不思議な経験でした。
 一方倒れた相手の女王は、戦士達によって金の棺(ひつぎ)に丁重に納められ、UFOに運び去られて行きました。その間もパトラはじっと跪いて手を合わせたままでした。

 やがて祭壇の前にあの老博士が立ち、背後に白いローブを着た白髪の元老達がローマ法王の就任式のように整然と一列に並んでいました。一方戦士側では、やっと立ち上がったばかりのパトラが中央に、ベンや将軍達を周囲に従えて並びました。
そして、一層驚いたことだったのですが、ベンが振り向いて、後にいた私にパトラの傍に立つように指示したのです。
 私が躊躇って(ためらって)いると、老博士が私のほうに振り向き「そうだ」という風に頷いたように思いました。周囲の将軍達をも、特に異を唱える様子はありませんでした。

 眼前では、厳かな儀式が始まろうとしていました。
 その中心に、私も参加していたのです。

私は、何がなんだか状況が把握出来ないまま、とても晴れがましい役回りを演ずる立場にあるようでした。夢ではないかと思って顔をつねってみた程でした。






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