ジョージ北峰の日記
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2005年05月15日(日) オーロラの伝説ー続き

 いよいよショウのクライマックスがやって来ました。ステージが薄暗くなると、プロレスラーのような筋骨逞しい男性と、バレーのダンサーのように鍛え抜かれたすばらしい肉体美を誇る女性が、赤や青に交錯する光線の最中に浮かび上がりました。二人は周囲に全く気をかける風もなく現れ、まるで無声のスローモーション映画でも見ているかのような、無表情な印象を受けました。
 彼らは軟体動物のように動きはしなやかで、執拗に手足を絡ませ、二人ともが我を忘れ相手を求め合い、愛撫に没頭する姿は、所謂(いわゆる)白黒ショウ(セックスショウ)ではありましたが、それはとても言葉では言い表せないほどの興奮を呼び起こす迫力に満ちたものでした。 その動きは単調ではなく緩急、強弱がありましたが、概して男は力強く、女はあくまでアクロバチックでなめらか、そしてなまめかしくその複雑な絡み合で、最初の内まだクラシックバレーでも見ているようかの様でしたが、目まぐるしく変わる体位、時折発する女の甘い声は、如何にも切なく刺激的でありました。やがて男が女を軽々と抱き上げると、女はのけぞり、しびれたよう様に全身に震わせ始めたのです。

 やがて男がセックス本来の動作に移り、速度を増し、激しさを増すと、女の声は切迫感に満ち、最初は大きな声、そしてやがて泣くように、何かを訴えるような声に変化してゆきました。表情も最初の内、目は閉じられ、頬は少し火照ったように見えましたが、やがて口元が弛み(ゆるみ)、目許(めもと)、眉が苦しそうにゆがみ始めました。
 そう、女の表情から二人の歓喜が頂点に達しようとしているのが分かりました。
 突然、女は我を忘れたかの様に動きを止め、夢中で男にしがみつく動作を見せました。すると男も動きを弛め、女を優しく抱きしめ、切なくキスをすると、最後は止めを刺すかのように下半身が力強い動きにかわりました。
 
 女はたまらず感極まった声を発すると、一挙に動きが止まりました。
 そして、全身から力が抜けていくのが分かりました。
 
 眼前でこのようなショウを見せられたのは初めでしたので、私の劣情が、いやが上にもかき乱され、舞い上がり興奮は臨界点に達しようとしていました。

 それにしても、異常とも言えるこの興奮の最中(さなか)にあって、無表情な(いや冷静とも言える落ち着いた)男の顔、それでいて誰もが興奮を呼び起こさずにおれない刺激的な行為を苦もなくやり遂げてしまう彼に、私はすっかり驚き、ある意味尊敬したほどでした。決して彼の行為が厭らしいなどとは、その時は思いませんでした。

 と、それまで微動だにせずショウを見ていた女たちは、突然私にめがけて集まり始めたのです。私は呆気にとられて、抵抗する暇(いとま)もありませんでした。
 瞬く間に衣服が剥ぎ取られベッドの上に縛り付けられていました。
 
 それにしても、これが私の見た夢だとすれば、本当に当時の私としては、それは全く想像を絶する世界の出来事でした。


2005年05月04日(水) オーロラの伝説ー続き

 ステージでは人の声とは、とても思えない程、張り・厚みのある声で、テノール歌手がイタリア民謡を披露していました。会場は静かになり人々は美声にうっとり耳を傾けたようでした。美しい女性、美しい音楽、強いアルコール、それにこの時点では知る由もなかったが、何か向神経性薬物が盛られていたのか、その夜、私の理性は何処かに吹き飛んでいました。彼女は愛称キャシーと言いましたが、野生的な赤色の目で私を正面から射るように見つめ、「カナダへオーロラを見に行くのですか? あなたは“オーロラの伝説”を知っていますか?」と唐突な質問を投げかけてきました。「少しは。しかし本当は北極圏の自然、歴史、生物界の秘密等に子供の頃から興味があってー今回のウイルスの発見も私の北極圏に対する興味と無関係ではないと考えているのですよ。」と、私が答えますと、彼女は何気ない風に笑顔を見せ「一人旅は気をつけたほうが良いですよ!私が見張り役として、一緒に行きましょうか?」と悪戯っぽい表情を見せ、小声で囁いた。この時、彼女の頬が少し赤く染まったように見えました。その初心(うぶ)な横顔の美しさと、全身からあふれる成熟した女性の雰囲気がアンバランスで、それが又たまらない魅力で私は心底から彼女に参ってしまいました。
 「本当ですか?」、本来の私なら決して言わないそんな軽率な言葉を思わず嬉しそうに発していました。
 その夜、私は彼女と会い、踊って、話している間に、どうしたことかとても切なく、制御出来そうもない恋心が胸の奥で竜巻のようにうずき始めていました。だから、彼女の誘惑を意図したともとれる、囁き(ささやき)でさえ、私にはどれ程、優しく、素直で、心地よい響きに聞こえたか想像していただけるでしょうか。どちらかと言えば慎重な人間に部類する私が、こんなに簡単に軽率で舞い上がってしまったことは、本当に今から考えても理解出来ないことでした。
少なくともこの国では、私の研究が成功する日まで、恋心などは心の奥深くに仕舞ってっておこうと堅く決心していましたから--。
 しかしその夜の私は違っていました。何故か人が、いや異性が無性に恋しく、理性の箍(たが)がはずれ、卑しい欲情の坩堝(るつぼ)に火がつこうとしていたのです。
 その理由は、私にも分かりませんでした。単に目前の彼女が、美しく妖艶な魅力を発散させていたからかもしれません。いや、予想以上に私の研究が高く評価され、気持ちが驕(おご)り昂(たか)ぶり、舞い上がっていたからかもしれません。そして気の弛(ゆる)が自分のあるべき本来の姿を忘れかけさせていたのかも知れませんでした。
一瞬“魔がさした”と言うことだったでしょうか。

 私の心臓は高鳴り、精神の働きが鈍っているように感じていました。
久しぶりのアルコールに酔いが回って意識が朦朧としているのだと思っていました。
彼女が「外に出ましょうか?」と優しく囁いてくれた時までは記憶していました。しかしそれから後のことは、何が起こったのか今でもさっぱり記憶していません。彼女に寄り添われて歩きながら、朦朧とした意識の中で体が雲に乗って、ふわっと浮き上がったように思いました。私は不覚にも眠ってしまったのです。
その後のことは、本当に何が起こったのか、今でも説明は出来ません。
 ただ不思議な夢を見ているような気分でした。その夢とは---
 私は、古代エジプト王朝時代の宮殿のよう石作りの壁や柱に、何の恥じらいもなく生々しいとも言える男女の絡みや、勇ましい戦争の模様が彫刻され、壁や天井には色鮮やかな色彩がほどこされた王宮の一室に案内されていました。中央の玉座を示す椅子に、先程とは違って王女の風格・威厳を示すキャシーがゆったりと着座していました。私は彼女のすぐ傍の豪華な席に腰掛けていました。 周囲では、透け手見える衣装を着た召使の女や凛々しい鎧を身に着けた男が、それこそ至れり尽くせりのサービスをしてくれていたのです。
 部屋の中央には、やや高くなったステージがあり、不思議な音色にあわせて、まさにギリシャ彫刻で見るビーナスのような、均整の取れた肉体美の踊り子が、透け見える薄い衣装、日焼けした小麦色の肌も露(あらわ)に、時には緩くなまめかしく、時には激しく腰を振り、男心を揺さぶり挑発するような官能的な踊りを繰り広げていました。私は、まるで千夜一夜物語の主人公になったような気分でしたが、一方恥ずかしさも手伝ってか少し戸惑っていました。


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