睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved 道標|過去へ|それから
「大丈夫かい?ゆきさん」 聞きなれた高い声、ああ、旅籠に戻ってたんだ。 「目覚められましたか?」 同じ高い声でも生真面目な声。 静かに見回す。旅籠とは違いなんだか薄暗い。 ちょっぴり土の香りがする。 そうか、ここは花の村だった。 村についてから急に具合が悪くなったことまでは覚えているのだけど・・・ 「はぁ。良かったぁ。もうびっくりさせないでくださいよぉ」 「そうですよ。ゆきさん。私がついていながらこんなことになっていると兄様方が知ったら。」 「はいはい、めそめそしない。この通り生きてるんだからさぁ」 僕を取り残して二人はしゃべり続ける。 だんだん可笑しくなってきてつい、笑ってしまった。 「ほらぁ、笑ってなさる。もう大丈夫さ。」 なんだか村に戻った花はとっても大人びた口調になった気がする。 ようやく回りを見回す余裕ができた僕はゆっくり見回す。 小さな小屋のような家だ。囲炉裏があって土間が見える。 土間にはかまどがあって・・・ 「昔話のおじいさんとおばあさんの家みたいだ・・・」 「おじいとおばあは山に行ってるよ。今年最後の山菜取りにさ。」 「雪さんが眠っている間に春が終わってしまったんです。すいません、お疲れなのにも気づかず。」 「気にしないでいいよ。なんだか気持ちのいい夢が見れたしさ。」 「そうですか?大丈夫ですか?・・・」うなづく僕を見て 「どんな夢か聞かせてもらえませんか?」笑顔でにじり寄る笙。 「眼が覚めたばかりなんだから、およしよ。」と花の声。 「なんだか、お姉さんになったみたいだね。花」 「いやだぁ。村に戻れば一番上だから、仕方ないんだよねぇ。」 花の声はなんだか、眼が覚めてよかった気にさせる。 「うちは露天はないから、五右衛門風呂だよぉ。ゆきさん」 「風呂があるなら何でもいいよ。」 「よっぽど好きなんだねぇ」 「うん、眠るのと同じくらいね」その答えに花と笙は声を上げて笑った。 「確かに」と同時に言いながら。
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