睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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「○○君は、楽器のことよく知ってるわね。」 彼女に誉められるのはとても嬉しかった。 それよりも小さなころから好きだったことを誉められるのが嬉しかったのかもしれない。 「先生〜それってひいきじゃないですか〜」 「あら?そう?でも○○君より楽器のこと詳しいひとこのクラスにいるかしら?」 「いるわけないじゃん。○○くんはおたくだからさ〜。」 「じゃあ、音楽家や科学者はおたくなのかしらねぇ?」
彼女は若く、僕らの中ではとても人気があった。 押し付けられた形でやっていたクラス委員長も彼女が赴任してきてからはうれしかった。授業の準備、学校祭の準備・・・彼女とかかわることが多かったからだ。
「僕、先生が好きです。」 「あらぁ、ありがとう。私もみんながすきよ。」
夕焼けの見える音楽室で思い切って言った言葉は彼女の心に届かなかったようだった。 やがて、彼女は抜けるように青い空の下花嫁になった。 それでも仕事をやめることはなく、僕の前にいた。
僕の淡い気持ちはくすぶることもなくやがては雪のように消えることになる。 彼女の一言で 「ごめんね、子供は興味ないの。あなたたちは勉強をしっかりおやりなさい。」
彼女との共通の時間は避けることにした。
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