『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2004年02月16日(月) みそっかす

堂々と泣く権利がわたしにはないから
歯を食いしばって知らないふりをしていることにする
たくさんのたくさんの嘘をわたしはついた
わたしは、
故人、と、
呼ばれてしまうあなたをとりまく人の列にまぎれられないで
ひとまわり外側から見届けていなくてはならないものだから

たくさんの嘘をついた

あれから、あんまり、笑ってない
泣くのは、夜中に一人で
ふとんをぶっているときだけでよくて
それでも多すぎるくらいだから
そうしてなんにも考えたくないから
睡眠薬のつよいのをたくさんのんで
夜から夕方まで夢の中にいる

眠っているのは好き
ほとんど全部忘れられるから
ときどき夢の中に、忘れてるほんとうの破片が顔を出して
背中から杭を突き刺されたみたいに目を醒まして
指の先は氷みたいにつめたい
足の先もこおりみたいにつめたい
まるくなってまた眠るにはあんまりにまっくろで、わたしは
誰かの声を聞きたくなるけどそれは夜だから
ふとんから這い出してだれも出ない電話の呼び出し音だけ聞いて
さようならする
胸の奥の奥に沈殿している凝り固まった闇みたいな
重たくてくるしいものに
マグカップいっぱいのお湯でとけるんなら
それでとかして
わたしはまたおくすりを飲んで
なんにも考えないようにして

でも、ほとんど忘れられるから
眠るのは好き
ただ、目を醒まさなきゃいけないのが
いやなだけ

ひるま。

お面をつけられてよかったなあと思う
じぶんをころす訓練を
8年もやっていてよかったなあと思う
この袖をよごした血の色だけかくしていたらだれも気づかないから
毎日ふえていく傷だけど
かくしていたら誰も知らないでいいから

自分のなかのどこかに
ふかくつきささって、いろんな毎日の雑事にまぎれてしまった
たしかに「とてもかなしい」というそのきもちを
手探りでさがしだして、そうして
抱きしめてみることがとても難しいと言うことを
何度か知らされてきて
そうしてまた
知らされているみたいで

目に見えないそれをさぐりだすまでどこまでもどこまでも深いところに
わたしは降りていかないとならなくて
それを放棄しても構わないのかも知れないけど
ただ、
わたし、笑えないから
こんなに嘘つきなわたしなのに
ちっとも、笑えないから
それだから

それだけは嘘がつけなくてだからわたしは
傍からみたらばかばかしいだけかもしれないけど
ただの小娘の感傷なんだろうけれど、でも
じぶんのかなしいを、ちゃんと
かなしいって、呼んでやれるようになりたい
そうしてあなたの思い出をぜんぶかなしいで埋め尽くしてしまわないように
ちっぽけな注意だけどたくさんの思いをこめて
わたしのなかのあなたを
やさしいものにかえしてゆきたい
過去形なんていらない
ただ今までずっとあなたはとてもやさしいでいっぱいだったのだから
これからだっていつもきっとそうなのだから

かなしいをさがして
くるしいもたくさん
深いところにいて
そうしたらたぶん
やさしいが
見つかる気がする



2月16日、深夜 真火



2004年02月14日(土) 花ひとひらの雪

海辺にある町に住んでいる
生まれたときからずっとここにいる
高校生になるまでわたしはひとりでこの街を出たことがなかった
最初にひとりで電車に乗ったのは高校を卒業したときで
わたしはそれから七年間、ひとりで電車に乗っていた
そうして今
ひとりで家の外に出ることはわたしにはとてもこわい

たとえばうしろから羽交い絞めにされて
我知らぬものに轢き殺されてしまうように
くだかれて粉々になって無に帰すように

死ぬということばが巷にあふれている
わたしはそんなことばほしくない
ましてや
身近にそんなことも、もう
ほしくない

それでも近づいてくるものがあるからわたしはここに精一杯たちつくして
容赦ないそのことばの殴打に耐えられるだけのじぶんをつくりあげなければ
いけない、と思う
これから、わたしが
生きていこうとするなら

この街を出て行って、わたしは
かんたんに人に「死ね」ということばを
ぶつけるひとがいることを知った
それを冗談だと受け取れるようになるのがおとななら
わたしは一生
おとなになんてなれなくてもいいと思った

・・・・どんなに抗ってもひとはいつか
   かならずいなくなります
   ここから

悟っているわけじゃない
悟れるわけなんかない
菜の花を見ると、思い出す
れんげの花畑、うすあおい空、まぶしすぎた夕焼け、
途中でつっかえたピアノの音、
だれかの笑顔
花ひらくような笑顔、たくさんのうた
とうめいなうたごえ、
くしゃくしゃにこみあげてきて
それでも流れ出してこない、
なみだ。

そうしてティルナ・ノーグ、さんざしの花さく、永遠の二月の丘

そういったなにもかもを胸にしまって
わたしは、生きていることを、選んでいるから
叫びたいのをこらえてふとんをかぶって
涙が出なくてころげまわって
かわりに腕に突き刺した鋏の跡は
左腕のてくびにめちゃくちゃな線を描いて
でもだれもそんなこと望んではいないとわかっていても
それでも苦しかった「あたし」の
なみだのかわりに
どろどろと腕をつたってながれた血で
枕が濡れた

病気ではかたづかないじかん、薬ではやわらげられない痛み
いつかたくさんの時間がわたしの中をとおりすぎていって
やさしいものだけを後に残してくれるかもしれないけれど

何度、くりかえしても
きっと慣れることなんてないのだと
教えてもらった
くりかえし
早すぎる、さようなら

わたしはまだ、
泣くことができないで
雪の季節だけれど
この海辺の街にはその影もなくて

たとえば立ち去っていった人たちのことを思う
それでも死と生のあいだでわたしが揺れる
こんなばかなわたしでごめんなさいと思う
傷だらけの腕はそこにゆきたいから作ったのではないよ
ただ、わたしがここにいることを
自分に思い知らせるためにつくった傷だよ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


できることなら
たとえば50年後
桜の花びらが降りしきっているその下で
いつかあなたに会いたい

だれにも平等にやってくる、歩道橋にスプレーで殴り書きされた
その「死」ということばを越えた先で
過去形で語れないわたしが
ひとつきり、今こころから言えること


Happy Valentine’s Day
だいすきな、あなたへ



2月14日、深夜 真火



2004年02月12日(木) 輪舞[ロンド]

いつか、ということばが嫌いになっていったのは
いつのことからだったか、もう、忘れた

でも、わたしは、いつか、を信じていたんだと思う

「時がたてば戻れなくなる」

それはあたりまえのこと。
そうして
誰かが生まれて、泣いて、笑って、そうしていつか
「いつか」
この世界に最後のさようならを告げて去っていくのも
あたりまえのこと。

……そんなあたりまえのことがわたしには
少し多すぎるような気がして、なりません。
早すぎるさようならを告げていなくなってしまった、
あのひとも、あのひとも、あのひとも、
そうしてまた、新しく去っていってしまった、あなた。
わたしとおんなじ病気をかかえて
わたしとおんなじお洋服を愛して

天国があるのかどうかわたしは知らない
神様がいるのかどうかわたしは知らない
でも、あると信じていたい
こんなときばかりは
それにかじりついて
空を見上げて(それはもうすぐ春の訪れることを確かに知らせていて)
かみさま、というなにかに祈らずにいられません

死ぬのは、恐ろしいです
それとおなじくらい
生きてゆくのも、わたしには
おそろしいです

………そんなばかげたもののあいだで揺れるわたしには何も資格なんてない気がするけれど

ただ

誰かの、引き剥がされるような「さようなら」を
問答無用で突きつけられたあとにいつもぽっかりと空く
くうはくの、
かなしいことも怒りもなみだもごっちゃになったまっしろなところで
わたしは
生き抜かなければならない、と
痛切に、そう思って

それでも明日がくるのは恐ろしいけれど
あなたがいないことをからだに刻んで
空白をまっすぐに見据えながら
つづいていく、あした、は

おそろしいけれど


……いつかあなたのことを誰かと話してそうして
思い出のひとつをいつくしめる日まで

わたしは



2月12日、深夜 真火



2004年02月02日(月) 深夜三時

こころがぜんぶこわれたらこのくるしいことも

なんにもかんじなくなって、それで

わたしはらくになれるかな

げほげほと咳をしてひとりであたまをかかえて

きいんと痛む胸の骨を手のひらでおさえる



深夜三時。



たとえばわたしはふとんのなかでよくわからない恐怖におびえてる

さもなければ蛍光灯の下で足りない酸素をかきあつめてる

そうして窓を開けてつめたい風でからだをひやしてそうして

窓枠を乗り越える

屋根ははだしの足のうらにきっととてもつめたいから

わたしはわたしが生きているということを

痛みじゃなくて知ることができるって

そんなばかな期待をしながらそのばかな行為をこころみる

窓枠を乗り越える

そうして、つめたい風にからだをさらして

ぜんぶ、こおりついてしまえばいい、

そう思う。



風はとてもつめたかった

でも、外の温度とひとつになるのは思ったよりも大変で

手をのばして外の空気に触れたのに

ずっとずっと触れたのに

指先がやっと凍えたくらいで、頬がやっと凍えたくらいで

わたしは、自分が恒温動物のはしくれだったことをいまさら思い出して

はだしの足を見下ろして、その先に並んだ10枚のつめを見下ろして

ぼろぼろ泣いた

涙はぼとぼと流れて膝やら胸やらをぬらしていって

きりもなかった

屋根を転がり落ちることはできない

なにがかなしいのかもわからない

ただ、泣くだけ。



深夜三時。



蝶になった夢を見た

蝶になったわたしの背中には

うすい桃色のひかりを放つまっしろな羽がついていて

わたしはそれで自由に空を飛べることができるはずで

だけど、夢の中で

わたしの羽は閉じられていて

わたしはぼろぼろ泣いていた

みわたすかぎり一面焼け焦げた木々の残骸

ぶすぶすと黒く煙をあげる森のなかに

たった一本のこった白いほそいほそい木の幹の

一枚も葉のついていないその白い木の根元で

わたしはぼろぼろ泣いていた

かなしいのかもよくわからない

ただ、みんなみんな燃えてしまったくろい焼け野原のなかで

わたしがひとりでいることだけが

くっきりと刻まれたほんとうだった



ろくでもない夢。



目を醒ましたら、そこは夢の外で

わたしは、ただ、

息を吸って吐くことが、くるしかった。




2月2日、深夜3時 真火


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