男きょうだい・1

或る朝のこと。

住宅街の広い四つ角に差しかかったとき、左手から小学生と中学生とおぼしき兄弟が連れ立ってやってきました。
最近あまり見かけなくなった学ラン姿のお兄ちゃんは、どうやらまっすぐ駅へ向かう模様。一方ランリュック(…って言うんでしたっけ?)を背負った弟くんがは、右へ曲がってゆくらしく、そこでふたりの行く道は分かれることに。
特に挨拶もなくズンズン歩き出しているお兄ちゃんに向かって弟くんが、「行ってらっしゃーい!」と、まるでドラマの子役のごとき爽やかな笑顔をよく通る声で呼びかけました。
そこで振り返る…まではゆかなくても、せめて片手を挙げるくらいのことをやればこれまたドラマのワンシーンのようでカッコイイのに、お年頃のお兄ちゃんはテレくさかったのでしょうね。まったくノーリアクションで去ってしまいました。
弟くん、ショックだろうな…と他人事ながら心配したのですが、いつものことなのか彼も既に自分の行くべき道へ向かった後でした。

たとえばこれが女きょうだいの場合、お年頃であろうが、機嫌がいいとか悪いとかにも関係なく、一応「じゃあね」「バイバイ」くらいのやりとりはあるように思うんですが、どうなんでしょう?
テレくさいという感情ひとつとっても、女子よりも男子のほうがダンゼン繊細な気がするんですよね。
2007年09月09日(日)


ハワイの香り

帰宅途中の電車の中、手すりに寄りかかって立っていると、或る駅で小学校の低学年と思しき男の子三人とその父親らしき男性が乗り込んできました。
彼らが目の前を通り過ぎた瞬間、私は「あっ…」と声を上げそうになるのを何とかこらえました。彼らから「ハワイの香り」がしたからです。
「ハワイの香り」…と言っても、それがハワイの植物や食べ物なのか、あるいはハワイで嗅いだ香水か何かなのか、具体的なことはわかりません。いったい何を何を根拠に「ハワイの香り」だと感じたのか、自分でも説明できないのです。だけどその香りを嗅いだ瞬間、過去にハワイを訪ねたときの記憶がブンッと音を立てるくらいの勢いで脳裏によみがえってきたのです。
ヤンチャ盛りの三人の男の子は、空いた席がないものだから、私とは反対側の手すりを囲むようにくっついて立ち、つつき合ったり父親にもたれかかったりしています。そうやって彼らが動くたびに、確かに私は「ハワイの香り」を感じました。
だけど身軽な彼らの格好を見れば、ハワイから帰国したばかりだとはとても思えません。また漂ってくる香りは、身体に振りかけた香水によるものではなく、染み付いたその人の体臭としか思えない深みのある香りなのです。
結局彼らはひと駅だけで降りてしまい、香りの正体を探ることはできませんでした。
なぜ彼らから「ハワイの香り」がしたのか……も不思議ですが、ハワイ旅行から十数年が経っているにもかかわらず、「ハワイの香り」を覚えていたことにも我ながら驚きます。十数年の間、ただの一度も思い出した(出せた)ことのなかった香りなのに。
思いがけない場所で偶然再会(?)したあの懐かしい香りは、果たして何の香りだったのでしょう。
2007年09月04日(火)

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