『下妻物語-ヤンキーちゃんとロリータちゃん』(嶽本 野ばら )

このところ珍しく立て続けに映画を観にいったのですが、どの映画館でもなぜか必ず予告編が流れていたのが、先週末公開された映画『下妻物語』。

先日図書館へ行ったらちょうど貸し出し可…の状態だったので、まずは原作本を読んでみようかということに。
実は私にとって、これが初・野ばら体験!
嶽本野ばらさんといえば、「乙女派文筆家」「乙女のカリスマ」…などと言われている方。薔薇、フリル、レース…などの単語とはおよそかけ離れた生活を送っている私には、興味はあるけれどちょっと近寄りがたい存在でした。
お紅茶に薔薇の花びらを浮かべて飲むような方(ルックスからの勝手な想像。でもホントかも?)が書かれるお話です。聞いたこともないような専門用語の羅列に圧倒されるのではないか、旧仮名遣いでお上品な会話が交わされているのではないか…と超庶民派の私はろくに知りもせずにビビっていたのです。

ところが、今回映画化されたこのお話に登場するのは、田んぼだらけの茨城県下妻に住むヤンキー・イチゴと、尼崎出身のヤンキー夫婦のもとに生まれたロリータ・桃子。
これなら私でもいける!(笑)と、思いきって読み始めたのです。
ヤンキー、そしてロリータ…。女と生まれたからには、誰でも一度は憧れたことがあるのではないでしょうか? 少なくとも私は、そうでした(爆)。
そんな全く違うタイプの女子高生ふたりが、とある商売をきっかけに出会い、そこからお互いの人生が急速に動き始めます。

高校生の彼女たちにとってそれらは、かなり大きな事件です。ところがふたりは、そんな流れにホイホイ乗ることはなく、これまで自分が築いてきたものを貫く道を選びます。特にロリータ桃子のクールなモノの割り切り方は、「姐御!」と呼びたいくらいにオトコマエ。
イチゴもイチゴで、ちょっとおバカなところもあるけれど(苦笑)、自分にとって大事なモノが何かをちゃんとわかっていて、いつだってそれを最優先させることのできるピュアでアツイやつなのです。

お洋服やバイクのブランド名などが詳しく出てくるけれど、決して今の時代だけに受け入れられて流れ去ってしまうようなお話ではないと、私は思いました。
映画の予告を見ていると、仲良しヤンキーちゃんとロリータちゃんの友情物語v …っぽく思えるかもしれませんが、声高に友情や青春を謳うようなありきたりなお話ではありません。そもそも、そんな可愛げのあるキャラクターではないのです、このふたりは(笑)。
おかげで(?)、青春なんて単語を口にすることなど今さら気恥ずかしい私でさえ、読み終えて何の抵抗もなく「ああ、楽しかった〜。いいよね、こういうの!」と素直に思えたのです。

けっこう書き込まれた文章のわりに実にすんなり読めたし、ラストはカラッと気持ちいい。それでいて、何かの拍子にふとワンシーンを思い出すことがあるかも…と思える、温かみもあって。
何よりキャラクターが立ちまくっているので(笑)、映画化にはもってこい…といった印象。
ぜひとも映画版も楽しみたいです。
2004年05月30日(日)


映画『世界の中心で、愛をさけぶ』

…泣きました。
顎からぼたぼた滴り落ちるほどの涙がとめどなく流れてきたので、途中からはもう拭うことはもう諦めました(苦笑)。
まだ映画を観ていなくてネタバレがイヤだ…という方は、ここから先を読むのはお控えくださいませ。

サクの現代と過去。律子の現代と過去。重蔵さんの過去から現代へと続く恋…。
律子が恋人の過去の恋愛の軌跡を辿ってゆく…という形で物語が進むので、律子がサクに縁のある場所を訪ねるたび、変わらない町並み(主人公たちが暮らした四国の海沿いの町は、とてもステキv)と、全く変わってしまった物との対比が面白かった。
個人的にウケたのは、ANAのトレードマークのデザインの変化だったりしますが(笑)。

冒頭、律子が家電ショップへ行ってウォークマンはどこかと訊くと、CDとMDがあると言われ、カセットテープ用のものが欲しいと答えると、店員さんが怪訝な顔をする…というシーンは、サクとアキが過ごした時代と律子とサクが生きている今との十数年という時間差が、とてもわかりやすく描かれていました。

また、ひとつひとつの場面に全く無駄がないんですね。しかも、過剰な装飾がない。必要なものだけがフィルムに収められている。
良い意味で(強調!)、一度映画を観ればもう十分…というか。つまり、観終わったときに「あのシーンには、どういう意味があったの?」とか「あのセリフ、よくわかんなかったけど」などという疑問や謎が一切残らない。全てが作品の中で語り尽くされていて、それ以上の解説を必要としない。
これは、観る者にとても優しい映画だと思います。ガイドやレビューを熟読しなくては理解できなかったり、何度も観ないと謎が解けなかったりする…というのは、個人的に好きではないので。(もちろん、面白かったから何度でも観たい…という積極的な感情なら大歓迎ですが)

たとえば、校長先生のお葬式でアキが弔辞を読むシーン。キレイでクールで泣かないアキ…というキャラクター、アキを見ているサクとの距離感が見事に表れています。と同時に、まるで何かを予感させるような涙雨が降ってくるあたりは、もうたまりません。
他にも。
突然失踪した律子を、偶然テレビのニュース画面で見つけるサク。しかも律子は、赤い車に危うく轢かれそうになっていた(…だけど、助かった)。空港へ向かった律子とサク。同じように四国を直撃しそうな台風29号で東京行きの便は欠航に(…だけど、次の便に乗れた)。
…次々と重なる過去と現代。過去のサクと現代のサク、過去の律子と現代のサク。だけど、ひとつひとつの結果は昔と今では全く違っていて。
そして、別々に流れていたはずだったふたりの時間の流れを結びつけるのが、アキの遺した最後のカセットテープ…。

サクのついた嘘が、後にアキの身に本当に起こってしまったこと。アキに手伝ってもらって重蔵さんの初恋の人のお骨を掘り出したサクが、後にアキの遺灰を手にすることになること。サクとアキが無人島で見つけた、誰が撮ったかわからないフィルムに記録されていたオーストラリアの土地を、後にサクとアキが訪ねようとして(叶わず)、だけど十数年後にサクと律子が訪ねること…。

サクとアキの恋愛だけでなく、そこに実は絡んでいたと途中でわかる律子を含めた三人の関係も、とても悲しい。
だけど、観終えて席を立ってからは、どこかのシーンを思い出してまた涙がこみ上げてくるようなことはありませんでした。それは、物語が作品の中できちんとおしまいになっているからじゃないかと思います。

大切な人を永遠に喪うことは、とても悲しい。もう二度と一人では生きてゆけないんじゃないかと思うくらい、つらい。
今まさに最愛の恋人を喪わんとしているサクの「助けてくださいっ!」という悲痛な叫び…。TVCMでもおなじみのあの空港のシーンでは、泣くどころか息が止まりそうになりました。

律子を追って写真館へやってきたサクが、重蔵さんに泣きながら打ち明ける胸のうち。忘れられないアキへの想いを、一体自分はどうすればいいのか…。忘れたい、と本人が望めば、ある程度時間の経過が手助けをしてくれるかもしれない。だけどサクは、アキのことを忘れたくない。あの痛みを忘れたくない。だから、苦しむ。

サクは、灰をまいたことでアキを忘れることにしたわけではない。重蔵さんの言った「後片付け」は、そういう意味ではないと思うのです。
とてもとても大切だった人のことは、忘れられるはずがないし、そもそも忘れる必要なんてない。ただ、自分の胸の中の収めるべき場所にちゃんとしまってあげること…それが重蔵さんの言った「後片付け」じゃないかと私は思います。

原作ではラストで少しだけ語られていた、大人になってからのサク。それをここまで深みのある物語に膨らませ、それでも原作の雰囲気を全く損ねていないというのは素晴らしいです。原作ものの映画化における、理想と言ってもいいかもしれません。
プラトニックだから純愛なわけではないし、幼い恋愛だから美しいわけでもない…。それでもこの作品が多くの人に愛される理由には、個人的にとても興味があります。

キャストについては…、もう最高ですね。
アキ役の長澤まさみさんの身体のラインの美しさには、ヘンな意味でなく(笑)同性ながらうっとり見とれてしまいます。こういう言い方は失礼かもしれませんが、水着になっても全然いやらしさがないのです。
清潔感…、ただそのひと言。顔だちも、キレイとカワイイがうまい具合にミックスされているし、何たって声がいい! 
サクとアキが交換日記みたいにやりとりをしていたカセットテープを、現代のサクや恋人の律子がウォークマンで聴くシーンが何度も出てくるのですが、ちょっと甘えたようなアキの声を聴いているだけでも泣けてきそうになるくらい丸みのある優しい声です。

現代のサクを演じる大沢たかおさんと高校時代のサクを演じる森山未來くんがよく似ていることは一目瞭然ですが(笑)、高校時代の友人であるジョニーも、男性にしては高くてよく通る声の津田寛治さんに合わせたかのように高校時代のジョニーを演じる男の子も甲高い声なのが笑えました(笑)。

ワンシーンくらいだけ(…だけど、とてもいい場面に)出演されている共演者の方も、天海祐希さん、木内みどりさん、森田芳光監督(役の上でも監督さん/笑)、田中美里さん、ダンディ坂野さん…と豪華。
原作ファンの方もそうでない方にも、お楽しみいただける映画だと思います。
2004年05月23日(日)


ぶんしゅう

探しものがあって、もう何年も開けたことのない箱の中身を確かめていたら、なんと小学校高学年のときの文集が2冊も出てきました。

私の通っていた小学校では、1〜6年生までの全生徒の詩、作文、読書感想文のいずれかを1人1作ずつ担任の先生が選んで、毎年文集を作ってくれていたのです。
私は、5年生のときには詩を、そして6年生のときには作文を載せてもらっているのですが、それらを読んで愕然としてしまいました。
ひとことで言うなら…、全く可愛げがないのです(笑)。
まぁ高学年ともなれば漢字もそこそこ知っていますし、オトナぶってみたい年頃でもありますし、低学年のように無邪気なものを書いているとは思っていなかったものの、なんかもう恥かしくなってくるくらいおませなガキんちょなんです(苦笑)。

だけど、さらにショックだったのは。
拙いそれらの作品にも、今の私に通じるニオイというのかテイストというのか、そういうものが既にしっかり見えている…ということ。
成長…してないのかなぁ、私(泣)。
2004年05月21日(金)


ぷちリニューアル

サイトをほんの少しだけリニューアルしました。

サイトを持つということは、誰かに伝えずにはいられないモノが自分の中にあるということで。コミュニケーションが生まれたりお友だちができたり…というのは、その先にあるラッキーなおまけみたいなものだと思います。
顔も知らない方からのメールに励まされたり、感謝の気持ちで胸がいっぱいになることがあります。全てが通じ合えるわけではないけれど、その一瞬確かに触れ合っていると感じるのは、気のせいではないと思います。

サイトをいじりながら、そんなこんなをぼんやり考えていました。
好きなものについてアツく語るだけの日記と、限定しているわけではないのになぜか食べ物の写真しかアップされない写日記しかない当サイトですが、遊びに来てくださる皆さま、どうもありがとうございますv
2004年05月16日(日)


『千億の夜をこえて』(桑原水菜)

昨日、覚悟を決めた勢いで、『炎の蜃気楼』完結編を一気読みしました。
体内の水分を全部出しきったのではないかと思うほど泣いたので、今は空っぽのスカスカです。高耶と直江に対する感情が、過去まで遡って胸にこみ上げてきて、ちょっと大変なことになっちゃってます(苦笑)。

ネタバレになるといけないので内容には触れませんが、14年間読み続けてきて良かった…と心から思えるラストであったことが何より嬉しいです。
私は、前半は直江、後半は高耶に感情移入して読みました。この二人が「最上」を掴みとることなんて本当にできるのだろうかと、不安になったこともありました。正直なところ、ふたりが…とりわけ直江が、このような道を歩くことは最初の頃には予想できませんでした。
個人的にもこの期間は或る意味闘いの日々だったので、この作品をお守りのように思ったこともあれば、主人公たちに自分を重ねて一緒にドツボにハマったこともありました(苦笑)。
読むのがツライ時期もあったけれど、それでもついてゆきたいと思わせて最後まで引っ張ってきてくれたのは、主人公たちと同じく真っ直ぐな力を持つ桑原さんのスゴさです。あとがきで、これ以上一字一句書き足されるものはない…と断言された桑原さんの潔さが、この物語をただ悲しいだけで終わらせていないのも嬉しいです。
この物語に出会えたこと、そして主人公たちがたどり着いた結末がこうであったことを幸せに思います。全てを知った今、もう一度読み返したい気持ちが強いのですが、なんせ40巻もあるので実現できるかどうか…(汗)。

また、今この時期にこの物語がこういう終わり方をしたことについては、もしかすると桑原さんでさえ予想できなかった不思議なタイミングがあったのでは…と思わずにいられません。
『CASSHERN』を見たときにも感じたことですが、私たちが今最も考えるべきことを、伝え得る力を持った人(立場にある人)が、とてもわかりやすい形で見せてくれた…という印象を受けました。
たとえば、高耶と謙信のやりとりのような内容が、もしも現代において国際的な会議の場で行われたとすれば、何かを変えることができるのではないか、何かを動かすことができるのではないか…という期待は、決して夢みたいな話ではないと思うのです。

どんな人でも変わることができるのだということ、傷つけられてもその傷さえ我が身の一部として生きてゆけるということ…。
小説や映画から教訓めいたものを読み取ることはしたくないのですが、それは私自身が日頃から強く意識していることでもあったので、間違っていないと後押ししてもらえたようで嬉しかった。
生きてゆくことはつらいことだし、こんなに長く生きていてもその意味を誰かに問われて答えることは今もできないけれど、行き止まりに見える道にも必ず超える方法があるということを、今より強く確信しています。
2004年05月12日(水)


最終巻

ゴールデンウイーク前に買ったのに、今もまだページを開くことすらできない文庫本があります。
それは、桑原水菜さんのミラージュシリーズ最終巻。
ずっと友だちに「このお話の最後を見届けるまでは絶対死ねないわ」などと冗談のように話していましたが、とうとうその最後にたどり着こうとしている今、知りたい気持ちよりも、終わってしまう寂しさのほうが圧倒的に強いのです。

40冊にわたる物語が書き上げられるために必要とされた14年という年月…。
その間、個人的にとても大きな出来事がいくつか起こりました。
2部に入ってからは自分の状況と主人公の状況があまりにも近すぎて、しばらく読めなかったりもしました。
それでも離れてしまうことができなかったのは、自分自身が逃げたくなかったことと、物語の彼らはどうするのかこの目で確かめたかったからなのでしょう。

信じること、愛すること、生き続けること…。
人が当たり前のように行なうその行為に、意味を問う人はどうすればいいのか、どこへ向かえばいいのか。
桑原さんがふたりの行き着く先をどのように描かれたのか、これから心して見届けようと思います。
2004年05月11日(火)


母の日

いいオトナがこんなことを言うと、いつまでも親離れのできない困ったヤツだと思われてしまうかもしれませんが…(苦笑)、私は母のことが大好きです。

フツウであるということが、実はとても難しいということを教えてくれました。
コドモだからといってごまかすことをせず、世の中のキレイなこともそうでないことも見せようとしてくれました。
そして何より母の生き方そのものが、コドモのころからずっと私にとって大切なお手本なのです。

2004年05月09日(日)


「世界の中心で、愛をさけぶ」

明日から行定勲監督の映画が公開されますね。
予告映像だけでもうるうるしているので、映画館へ観にいくと大変なことになってしまうだろうなぁ…。だけど、先日オンエアされたメイキング特番を見るうちに「やっぱりスクリーンで観たい」という気持ちが強くなって、さあどうしたものかと思案中です。

片山恭一さんの小説を読んだのは映画化されることが決まる前だったので、自分なりに主人公のふたりの顔だったり表情だったりを想像していました。実際に主役を演じる役者さんふたりを観て、全く違和感がなかったのは驚きでもあり、ホッとしました。
原作本の発行部数は今日付で251万部に達し、あの『ノルウェイの森』を抜いて国内作家の小説では過去最多部数となったのだとか。
最初からドーンといったのでなく、約三年かけてじわじわと売り上げを伸ばしてきた結果がこれ…というのが、なんとも好感が持てます。

私のの場合、個人的な体験などと重なる部分もあって、この作品に対して特別な感情(共感)を持ったのですが、世の中にそういう人が250万人もいるとはとても思えません(笑)。
静かに語られる高校生の恋愛が、なぜこれほど多くの人の心を揺さぶったのかとても興味があります。
ストーカーや暴力など恋愛絡みの恐ろしいニュースが日々溢れる時代に疲れた人たちが、せめてフィクションの世界では真っすぐで清らかなものに触れたいと望んだ結果なのでしょうか。
もしもこの作品に描かれているような恋愛に憧れる人が、250万人全員とは言わなくても結構いるのだとすれば、世の中まだまだ捨てたもんじゃないな…なんて思ったりもするんですが(苦笑)。
2004年05月07日(金)


アナログ生活

ゴールデンウイークの締めくくりに、近くの温泉へ一泊で出かけました。

お部屋に入ってメールをチェックしようかと携帯を開いたら、「圏外」の表示が。
「うわわ、誰とも連絡がつかないよ〜」と一瞬焦ったものの、日頃それ無しではいられないほどどっぷりハマっているインターネットから一日くらい離れてみるのもいいものかも…と、あっさり気持ちを切り替え(笑)、その後はお部屋でテレビを見ることもせずに友だちとのんびり過ごしました。

山奥のお宿なので、チェックインした後どこかへ遊びに行く場所もありません。土地の名物をいただき、露天風呂でくつろぎ、あとはひたすら喋る、喋る…(笑)。
インターネットのおかげで遠く離れた友だちともカンタンにメールのやりとりができる今日この頃ですが、やはり顔を見て直接話をするのが一番ですね。
2004年05月05日(水)


映画『CASSHERN』

※ネタバレなしで感じたことだけを書くつもりですが、ネタバレは絶対に嫌! とおっしゃる方は、念のためご遠慮くださいませ。

何せワイドショーで初めて知った紀里谷さんの穏やかな人柄と、宇多田ヒカルちゃんの主題歌に惹かれて「観たいかも!」と突然思ったので(汗)、映画誌や公式サイトなどでの予備知識は一切ない状態でいきなり劇場へ行きました。
アニメ版の記憶もないため、登場人物も知らなければストーリーについても「たぶん大きな戦争が終わった後の話」だろう…という程度。恥を忍んでぶっちゃけますと、唯一知っている主人公のキャシャーンですら外人さんだと思っていたという…(汗)。
しかも、「好評につき」ただ今パンフレットが品切れ中…と言われてしまったので、このまま公式サイトなども見ずに感じたままを書いてゆこうと思います。

まず、映像がめちゃくちゃカッコイイです。監督のご専門分野なので当然なんですが、映像の迫力や美しさと音楽やストーリー展開がぴったり重なっていて、作り物の世界にどっぷり浸れる快感を存分に味わえたのが幸せv 
私は、CGなどを駆使して作られた実写に限りなく近いアニメ…というのがどうも苦手なのですが、逆は全然アリだな、とわかったことも自分としては嬉しい発見。生身の人間がアニメっぽい動き(ぐるぐる旋回しながら敵にぶち当たっていったり、大ジャンプを繰り返して移動するとか)をすると、フツウはどうしたってぎこちなくて不自然で、カッコイイどころか逆に笑いを誘ってしまいがちなのに、この作品に出てくるキャラクターたちはホントにカッコイイのです。
衣装だって、アニメを実写化した場合だとコスプレショーのように見えそうなのに、そんなふうには全く見えませんでした。風景の中にそのキャラクターが立っていることに違和感のない空間が完璧に作り上げられているのかも。

単色の映像も鮮やかなカラーも、うっとりするほどキレイです。また小道具がいいんですよね。SFなのに、黒電話がジリジリと騒がしい音で鳴っていたり、衣装や車がやけにクラシックなデザインだったり。
街の様子を見ていても、すごく新しいようでもあり、昭和の戦争の頃のようでもあり、はたまたアジアのどこかの国のようでもあり…と、なんとも不思議な世界でした。おそらくこの「懐かしい」と感じる部分を頼りにして、観る者はこの作品の世界にすんなり入り込めたのだと思います。どのシーンが好きとか良かったとか、絞れないほど印象的な映像の連続…。
ド素人には、「スゴイ」「カッコイイ」「キレイ」としか言いようのないそれらの映像がどうやって作られたのか、メイキングビデオが出たらぜひ観てみたいです。

この作品の映画化を決められたとき、監督に現在の世界情勢が予測できたはずはないのに、ここに描かれている主人公の苦悩や葛藤が今の自分たちにも(たとえば一年前、五年前よりも)リアルに伝わってくることが、…怖かった。
発信できる立場にあって、アピールしうるパワーを持っていて、影響力のある人がこういう作品を作るということに、大きな意味を感じます。
たくさんの血が流れ、多くの命が一瞬に奪われ、思わず眉間にしわを寄せてしまうような場面もありましたが、それでも観終えたとき胸に残る思いは絶望ではなくて。かと言って、前向きに歩き出すような希望が描かれているわけでもないのですが。
ずっとずっと長い年月、常に世界のどこかで争いは繰り返されていて。続けてゆくうちに、何のために戦うのか見失ってしまう場合も少なくないんじゃないか…。ふと、そんなことを考えました。

世界規模の争いでなく、たとえば一個人の中に起こる問題であってもそうかもしれませんが。目の前に立ちはだかる高い壁を見上げ、そこにぶつかってしまった不運を嘆いてもどうしようもない。本当にその人が不幸になるのは、そこで立ち止まってしまうことなんじゃないのかな…ということを、映画を観ながら今日あらためて強く確信しました。
私事ですが、何かに行き詰まったとき、某シンジくんの「逃げちゃダメだ」というセリフがいつも頭の中をぐるぐるします(苦笑)。
具体的な何かを積極的にやらなくてもいい。今、この場から逃げないこと。目に映るものから目をそらせないこと。…そこから、始まるのかもしれない。…そんなことも考えました。
この作品を中学生や高校生が学校の授業で観たら、一体どんな感想が出てくるのか聞いてみたい気がします。そんな観られ方を、監督は望んでいらっしゃらないかもしれませんが。

実は、途中でちょっと流れについてゆけなくなりそうになって、「ああ、やっぱりあらすじくらいは読んでおくべきだった…」と内心焦ったときがあったのですが(汗)、最後まで観るとそういった疑問点がちゃんと明かされてすっきりしました。後から振り返ると、登場人物どうしの関わり方がそれぞれにとてもデリケートなんですが、最後には観る者を「ああ、そういうこと…」とすんなり納得させてくれるという意味で、親切なつくりになっていると思います。
SFやファンタジー作品の場合、設定を把握するだけでもひと苦労…なんてこともありますが、その点では実に入りやすくて居心地のいい空間でした。
SFで、戦闘シーンが多くて、アニメ作品が原作…ということから、マニア向けの作品だろうと思って敬遠される方もあるかもしれませんが、私のように予備知識が全くない人間でもこのとおり(笑)思いっきり楽しめましたので、「ちょっと気になってはいるんだけど…」と迷ってらっしゃる方には、「ぜひ!」とおすすめしたい作品です。

アニメ版を知らないので、映画を観ていて「やられた! 参った!」と思った設定や、胸にグッときたセリフの数々がアニメ版にもあったものか、それとも紀里谷さんオリジナルなのか、そこのところを判別できないのがじれったいです。
2004年05月01日(土)

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