HIS AND HER LOG

2008年05月28日(水) ブラック・ウィスパー

「それと…このことは白蘭…ホワイトスペルには知られないように」
「…それは」
「その方が都合がいいでしょう、私達にとっても、あなた方にとっても」
「…まあ、違いありませんね」
「そちらにはテレポーターがいますか」
「は、ええ、確か何人か…ミドルレベルが」
「では彼らに手伝ってもらうといいでしょう、公共の交通機関では発覚のリスクも高く…何より遅いですから」
「は、手配します」
「私はこれからまた移動しますが…」
「何か、連絡手段が必要でしょう、こちらで使っている無線を…」
「いえ、恐らく私には彼女の到着や位置が解ると思います。戦闘の及ばない安全な場所におられるよう、伝えて下さい」
「…?は、そうおっしゃるなら」
「くれぐれも内密に…ここのオーナーは怒ると怖いみたいですから」
「はは…気をつけますよ」
「頼みますよ、電光のγ」
「は、仰せのままに、マリア」

「…私はここの後片付けをしましょう。あなたは、どうぞ行って」
「後片付け?」
「そこに、一人。スパイなのかしら」
「! お前…幻騎士…!」
「早く行って…既に情報が流れている可能性もあります」
「…!は、健闘を!」

「…幻騎士…名前は聞いています、ブラックスペル…部隊長で…六弔花の一人」
「光栄です、ブラック・マリア」
「あなたはミルフィオーレ創立に尽力した一人だそうですね、何故ですか」
「ファミリーに疑問があった訳ではありませぬ…ただ、目的を果たすために必要かと」
「目的?」
「あなた様を、このマフィア界の頂点に持ち上げることです、マリア」
「それがミルフィオーレの目的ですか」
「元は、ユニ様のお父上である先代の強い遺志です。彼は…あなたの従兄弟にあたります」
「…」
「先々代は、いずれあなたのお母上・ロンディーネ様がボンゴレを統べることを望んでおられたようですが…
 彼女が死に、その望みはあなたへと引き継がれた」
「…」
「レジーナと呼ばれたお母上よりもより優れたる戦闘能力・潜在能力・カリスマ性を秘めたあなたに
 それが望まれたのは…むしろ必然でしょう。ツグミ様」
「あなたはそれを叶えるために白蘭に仕えるのですか」
「…私の魂はユニ様のものです。しかし、白蘭の行動力とホワイトの持つ頭脳は利用すべきと考えます」
「先程の話…上に伝えますか」
「あなた様が望まないのであれば、致しませぬ。…ユニ様は逢えば解るとおっしゃったが…真実だったようです。
 これが『ブラック・マリア』と…聞きしに優るその神々しさ…この命、どうぞあなた様のものとお考えを、マリア」

「その言葉…信じましょう」
「有難き幸せ…」
「ブラックスペルの信頼出来る者たちに、侵入者迎撃中止を伝えて下さい」
「は」
「それから…ユニの身の安全の確保を」
「!…は」
「彼女を頼みますよ」
「はい、お任せを!」



2008年05月08日(木) ブラックホールと海

初めて見たときからきっともうだめだったのだ。
そうアリシアは思った。
自分の持たぬ闇の色をした髪も、瞳も、男性にしては小さなその身体も、愛おしくて仕方がなかった。
イギリスは自分のことを紳士だと言うけれど、穏やかで誰に対しても丁寧な彼の方が紳士と呼ぶに相応しいだろう。
その慎重な動作はまるでスローモーションのように映る。
握手と称して触れた手が、そのままの速度で自分の頬を撫でてくれればいいとさえ思った。

けれど慎重な彼はそれをしないだろう。
アリシアとそういった関係を持つことが、お互いの立場を悪化させることを知っているからだ。
彼は賢い男でもあった。
しかし、アリシアも馬鹿な女ではなかった。
彼女は常に、国の外部的安定には気を配っていたし、そのためにはなんでもしてきた。
それを壊すことは本意ではない。
だが、それでも。

欲しいと思った。
穏やかに流れる河水のような日本の心を、かき乱したかった。

「ア、アリシアさん…!」
「ずっと、こうしたかった」
「いけません、誰かに見られたら…」
「見られなければいいんでしょう?大丈夫…私、そういうの得意だから…」

ピクリとわずかに揺れる身体から、アリシアは日本の動揺を知った。
背中に回した腕を解き、彼女は顔を上げてじっと日本の瞳を見つめた。
闇色の瞳。
きっとブラックホールで出来ているのだわ。
アリシアはそう思った。

「知ってるでしょ、私がそういう女だって。だから、難しく考えないで」
「…」
「あなたが困ることはしないわ、ただ、抑えきれなかっただけ。あなたが…」

言いながら、目頭が熱くなるのをアリシアは感じた。
ここはクールに言い放つところなのに。
自分の醜態を恥じながらも、頬を滑る涙を止める術を彼女は持たなかった。

「あなたが、好きなだけ」

吸い込まれそうな日本の瞳から目をそらすことなく、彼女はそれを告げた。
そんなアリシアの碧い瞳を、日本は海のようだと思った。
底の知れぬ母なる海の青。
美しい海の色。
溢れる涙の一粒一粒さえも、全てすくい取りたいほど美しい。

そう、アリシアは美しい女だった。
日本はそれを出会ったその時から知っていたし、その時からきっと彼女を想っていた。
美しく、聡明なアリシア。
その薄い色の髪や雪の肌に触れたいと、何度願っただろう。

宙に浮いた日本の両手がそれを叶えるのに、そう時間は掛からなかった。


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ハチス [MAIL]

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