手 |
私の手は父似である。 そして、母の手よりもずっと綺麗だ。 何故なら、母は、父の手が大好きで結婚したから。 手フェチな所は母譲りなのである。 父とは赤ちゃんの時、1、2年程しか一緒に暮らさなかったというのに、私のしぐさは父にそっくりらしく、母に 「遺伝子かな〜気持ちわる〜」 とよく言われる。 (いや、あくまでもしぐさが気持ち悪いんじゃなくて、一緒に暮らしてないのに、血がそうさせるって事が気持ち悪いのですよ・・・ってそれもどうかと思うが。) だが、しぐさがそっくりなのは、手足がそっくりだからなのだろう。 母は「しぐさが似ていて不気味だ」と言いながらも、父譲りの私の手が大好きで、車にいる時も、 「手、手。」 と言って後部座席にいる私の手を取って助手席でムニムニ。 一緒に歩く時も、手を取ってムニムニ。 普通に手を触るのではなく、マッサージするような、感触を楽しむような触り方をするのである。 そして、 「はー。リカの手は気持ちいいなぁ。柔こくて、ぐにゃぐにゃで、細くて、触ってるとしっとりしてくるねん。イーってなってボキって折りたくなるわ。」 と危ない事を言うのである。 私が危険を感じて手を引いて、 「でも汗手って嫌やわ。気持ち悪くない?」 というと、母はまた私の手を取ってムニムニしながら 「そんな事ない。気持ちいいもん。彼氏になる人は幸せやなぁ。ずっとこの手触れて。この手触ってたらたまらんやろなぁ。(ムニムニムニムニ)・・・イーーッ!」 母がイーッとなって指を折るしぐさをするので、また慌てて手を引いた。 母がそう言っても、少女だった私は、自分の、しかも汗手の良さなんて解るよしもなく、彼氏が出来ても、ずっとコンプレックスだった。 手をつなぐ時は、相手の手のひらと隙間を開けるように繋いだり。 実際、 「リカの手はいいなぁ」 なんて思ってくれる男なんていなかったと思う。 ダーリンと付き合うまでは。 ダーリンだって、わざわざ「リカの手は良い」なんて言った事はない。 だけど、ふと気づくと、私と手を繋いでいる時の、その繋ぎ方が、私の母そっくりなのである。 感触を楽しむようにムニムニ。 爪の先を指でなぞったり。 指を強くクリクリしたり。 指の関節をカクカクしたり。 ぐにゃぐにゃと指を曲げたり伸ばしたりしたり。 それがエスカレートしてくると、生爪剥がされそうな勢いで爪をパチパチいわされたり、指を逆の方に曲げられたりして、 「痛いよぅ!」 と手を振り払う。 すると、ダーリンはびっくりした顔で 「え?」 と言う。 「今、爪剥がれそうだったよー。もー。」 と言うと、 「え!?マジで?ごめん、ごめんちゃー。」 と、慌てて私の手を見る。 そこでハッと気づいたのだ。 この人、無意識に私の手をムニムニしてたんだと。 母もそうなのである。 私の手をムニムニしながら買い物でキョロキョロして、無意識のうちに生爪剥がしかける。 私が 「痛い!お母さん痛いやんかー」 と言うと、彼女はにこっと笑って 「あはー。無意識やったわ。だって気持ちいいんだもーん。」 と言うのである。彼女は謝りもしない。笑って誤魔化すのである。 ダーリンは、母が言ってたように、私の手の感触を楽しんではイーッとなっているのだろうか。 実家に帰った時、母は迎えの車の中で早速私の手をムニムニする。 そうやってダーリンとしばらく離れた後、彼が一番最初にするのはこの手をムニムニする事。 母の手からダーリンの手へ。 この感触が、彼の手に刻まれて行く。 ダーリンが私の手を取って、無意識にムニムニしているのを感じるたび、私はなんだか幸せな気持ちになるのである。
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2003年10月23日(木)
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