恋文
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夕刻は まだ あかるかった
風は 少し つめたかった
たたずんでいる ひとの チュニックの襞が
やわらかな 波を えがいていた
記憶のなかに 紛れてしまう
遠い国の 春のすがたを
探っている
少しづつ すり減ってゆくのは あたりまえのこと
疲れてしまったら 休んでいよう
まんまるくなった 自分に なってしまいたい
ただ 雨のなか
濡れたまま
音もなく
いつでも 落ちてしまう
石は 遠くに
見えなくなる
始まるとともに 終わりを待つ 毎日
日は そうして 進む
目覚めたときの 夢にもどったような
あいまいな いちにちです
もう一度 目覚めましょうか
すとんと 行き止まった
壁のまえで うろうろしている
立ち止まらなければ どこに ゆこうか
雲のあいだに のぞく 空が 逆さまになった 池のように 光っている
落ちてしまいそうに
それは 主のいない 部屋で
みんな いつものまま 佇んでいて
歩み入ると そのまま いつものとおり
変わったのは
世界でしょうか
わたし自身でしょうか
変わらないものが どこにあるのでしょうか
明日 わたしは どんなになるでしょう
でも、きっと 誰も知らない
道しるべが ないとしても
だれかの 姿 だれかの 声
たどって 歩いてゆく
短い草が 鉄路のあいだに 広がっている
雲のなかから 夕日がのぞく
風が 冷たくなった
いずれ 雨も降るだろう 嵐にもなるだろう
いまは まだ 陽だまりのなか
霧の中を 歩くのにも似て
いま 目の前の 道のりを進み
目に見える 角を曲がる
倒れた木にも 芽吹く
春のひかり
過ぎてしまえば もう 怖くはない
また 一歩を すすめる
灯りの下で じぶんを 見る
ぽつんと いる
春のきざしが 好きだと 思った
冬も 好きだったのに
なんだか 浮気をしたみたい
すこし 外れていると
知っているし
だから このまま 進んでゆく
道の まんなかでは ないけれど
道に 沿っているから
わたしの いちにちが 終わります
なにが 変わったわけでも ありません
また 明日を 待つのです
あなたの ところ どんな 空なのでしょう
こちらは きょう まだ 暗いままで
雨が また 降りました
わたしは 雨のなかの ひとりです
空は つながっていて
そこに たどりつくでしょうか
濁流になって 去ってゆく
大きな枝も 流れてゆく
また 雨が やってくる
風で たわむ 木々
ざわざわと 波の音が 聞こえる
まぼろしの 海
わからない
ものごとは 過ぎていって
あとで わからなかった と
わかった
わかったことは
わからない
雪にならないうちに 地面に 沈んでいった
短い ひとすじの ひかり
雨だれの 音が 時計の 音に かさなる
暗い 朝
もう 眠りの リズムには ならない
なにも 聴いていないように おもう
明るくなった 朝に 小鳥はさえずっていたのだろうか
ひとりで 舗道をたどっている
眠っているあいだ 忘れていよう
少しの不安は 慣れてしまうだろうか
また 明日がくる
わたしは 素直では ない
眼差しは どこかに さまよっている
ふたりの わたしと また 歩いている
いくばくかの 不安と寄り添って
いちにちは そうやって 過ぎる
明日も またね
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