恋文
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なんでもない 瞬間に ふと あなたを思う
どこにいても 再現できる
日溜りのなかの そのとき
もう 薄くなった 傷は きれいな 肉の色を している
ささくれた 皮膚を 指先で ちぎる
また 血が滲んだとしても
いま 聞こえる言葉も 見えるものも そのまま とおり過ぎて
窓に 映っているのは 窓の外から 見ている わたし
いらないけど わたしの一部だから
忘れることも できないし
しかたなく つきあってる
いつか 心中でもするか
がらんどうの 部屋には
ひかりが はいってくる
遠くの おとがきこえる
頬杖をついている ひとりで
たくさんのことを 思う
くりかえして 思う
よくないことも 思う
よいことばかりだったら いいのに
思ってしまうから しかたがない
でも 待ってるから
きっと いいことばかりになるだろう
傷を見ていたら
腕が 細かった
こんなまま
いる
髪を ほどくと わたしに なる
うなじから 肩へ と おちる その
いっぽん ごとに 感じている
手も 脚も 指の先 髪のはしまで
どこまでも わたし
夜は 始まりを 早める
木の陰が いつか こんなにも 濃くなっている
まっすぐな わけじゃない いつだって
遠回りもする 立ち止まったりもする 後戻りだってする
まだ ここにいる わたしがいる
それで いいんだよね
もう 暗い 朝も 灰色の 夕べも
風の なかにいる
ふと どこにいるのか わからない
不注意に どこかしら 怪我をする
知らない 傷がふえる
もっとたくさん あるのかも しれない
あめが ふって くらくて さむいから
ただよっている あたたかい ゆめのなか
夜に つながって
見えるのは 夢ばかり
伸ばした あしが 汗ばんでいた
夢をいくつも かさねて むかえる 朝
夢の名残りを 留めおいて
今にも 泣きだしそうなのに ずっと こらえている
いっそ 降らせてくださいな そうして そのあと 青空を見せてくださいな
葉裏から 透けてくる 光りは もう 夏のものではない
雲のきれめに のぞく空
雨をたたえた こずえから しずくが ときおり 降ってくる
自分の 足音と 息ばかりが 聞こえる
目に入る景色は みんな 灰色がかっている
ひとつ ひとつと なにを しているのか
果てもなくて
考えるのは やめてしまいたいのに
いつもの 気持のままに いたい
それが わたしなのだと
眠れないまま 思い出したり 想ったり
夢のまえで さまよっている
川面が揺れて 岸辺の木々が 輝いている
再生をつたえ 光りが ふりそそぐ
あの時 あなたの重さ あなたの温もり
まだ 残っていると 思うほどに
また 逢うことを 欲している
わたしを ばらばらにして 置いておこうね
みんな わたしだから
受け取ってね
隠れた時に 思う
あなたが 一瞬 早く 見つけてくれたら よかったのに
川にそって 歩く 小道には 緑の木陰
せせらぎと 葉ずれの 音を 聞いている
鴨が 漂っている 水面に透けて 脚がゆっくり 水を掻いている
誰か子供の 声が聞こえる
風が 通りすぎる
呼び起こしたものを どうやって とどめよう
あの夏の 暑さを いま 肌に感じるているのに
約束のときまで 待つのは 好き
ずっと 繋がった時間があって わたしは そこにいるから
約束の時間が 過ぎたら
でも、きっと まだ 待っているだろう
そこから 繋がった時間が あるに違いないから
忘れることを 嬉しいと思う
さっき わだかまっていたこと
もう 忘れてしまった
なんだったのか
知らない
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