恋文
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こんな 春の日に 翳る
いつか 雲が 厚くなる
思いもかけず 冷たくなった 手を 重ねて
遠くなり きっと また 近づく ひかり
ここには なにがあるのだろうか
目に 花の色が かすんでゆく
そこは 行きたいところかも しれない
いつか 溢れている 春の 色
流れこんでくる こんなにも 多かった 記憶
いくつもの 春を 過ぎてさえ
おさかなに なって およいでいる あなたを おもった
ひかりは ゆらゆら とおい そらから おちてくる
あなたも ゆらゆら ひかりのように ゆれている
わたしも ゆめみる おさかなの ひとり
夢うつつで 雨の 音 風の 音 を 聞いている
芽吹いたばかりの 枝が 揺れているね
咲きかけたばかりの 花が うつむいているね
こんなに つらい 春なのに
きっと あしたの 朝
光りが さしているだろう
一回とても 同じではなかった その春ごとに
風のなかに 花のなかに 木のなかに 光のなかに
また思いを 残す
いつかは そんなに 近かったのに
離れる
こんな 流れの 真っ只中で
遠くに
いつか また 近づくのか
まだ もっと 遠ざかるのか
ちいさな まんまる
まぁるく にぎって
あなたに あげる
いっしょに たべよ
たべたら ふたりで
どこに ゆこうかな
物が 壊れるように 人も 壊れる
欠け ひび割れ 色褪せる
もとの姿すら 思い出せないように さえも
わたしたちの ありようが 壊れるものだから
だからこそ 愛しい
あなたが 語りかけてくれるなら 耳をすましています
あなたが 口を閉ざしているなら わたしが語りかけましょう
語り合うわけではない たよりない そんなつながりが あってもいいのじゃないの
伝わる前に 消してしまう
いくつもの 失われた ことば
いつでも わたしと 一緒に いる
とつぜんに 花は ひらく
この日を 待っていたように
ずっと 秘めていたのね
その きもち
湿った藁の匂い 空は明るい
まっすぐ 歩けない みたい やんわりと 風が向ってくる
目が しみるから しばらく なにも見えないよ
どこに 歩いて いこうかしら
見知らない人の ひとり
知らない わたし
いつも 隣で囁いている
あなたは わたし
わたしは あなた
いつか 春の風が吹いている
仰ぐ空が ただ 青い
どうして ここにいるのだろう
ただ 風は ゆくばかり
ふいに 思い出してしまうよ
あの夜の 風の冷たさ
重ねた 肌の温もり
遠くから ずっと 聞こえている 風は 雨を連れてくる
夢の中のように 薄暗闇の そのなかに 眠っていたい
雨の音を 聴きながら
どこにも いないなぁ ふりむいても 見えない わたし
ぐるぐる かたまって わたし 繭みたい
まぁ、いいや こんなの まるく なる
わかんない そんなの
しらない
まだ 花の香りも 運んでこない 風は 湿っていて 少し 春に近づく
その名を聞き ありありと よみがえる 香り
その春の 訪れを 待つ ここでは
その花の わずかな 白さを 雪に 見る
そうして あなたのいる その場所を おもう
行って もどって 迷いながら
手探りもすれば ままよ と走る
まだ 終わらない また 夜がくる
わたしのなかの わたしは とても 意地っ張りで 拗ねると 手のつけられない わがまま
しようのない わたし でも それも わたし
誰もしらない そのときに ごめんね と いう
どうして わたしなのか わからないから
わたしは 繭に なるよ
もう 失われそうな 最後のかおり
朝から わたしと ともにあって
もう かすかに 残るだけの
思い出の ような
忘れない と 言った あなたを 忘れる
あなたが わたしを 忘れるように
あ のどに なにか ひっかかって 涙がでた
ぼんやり 大きな 日がかたむいて
雪を残した 木々が 眠りかける
凍ったままの 道を 歩く
足下で 崩れる 音を聞く
朝は いつもくるのね
おなじ朝は ないだろう けれど
この朝を 受けとめようか
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