戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2008年11月18日(火) コラージュ

行き場を失くした羽虫たちが
夕暮れにまぎれてやってきた
じりじりとむせ返る羽音で
わたしの体温を塗りこめていく
もうすぐ滅びてしまうんだろう
うすい
膜みたいな羽
図鑑に載ったって
ほんとうのいろは映らない
夕暮れに立ちはだかる
こんなおもちゃじみた明かりのしたでは
やはりなにひとつ分かりはしないけれど

ぜんまい仕掛けの
曲芸を繰り返す生き物たちが
町中を埋めていた
ショーウィンドウの前に
ぎっしりと列を為して
はりついた笑顔を撒き散らして
規則正しく仕事をこなす

とてもうまい宙返りだね
飴をあげよう
いいえ、飴を食べられる体ではないのです、
でも食べてしまった
甘い
甘くておいしくて
宙返り、宙返り、宙返りで
ぴたりと動きが止んだ
もうおしまいかい、
もうおしまいです

うすい羽の
ところどころちぎれている
写真には映らない虫たち
せめて覚えておくために
体中を放った
いっせいに埋め尽くされる皮膚
もうとっぷりと降り尽くした夜の
かすかなあかりを羽に集めて
浮かび上がるわたしの輪郭は
わたしよりも少しだけ大きく
息づいているのは
振動ばかり

気づくと
肌が
喰いちぎられている
そこかしこが小さく けれど深く破れて
ところどころバネが飛び出している
とっくに羽虫たちは旅立ってしまって
ぽっかりとお腹にあいた穴には
壊れた時計がのぞいている
ぎぎ、ぎと錆び付いた音が
何かを刻もうとして
針は進んでは戻されていっこうに
先へたどりつけない
バネは螺旋を解き放ち
せいいっぱい高く届こうとして
わたしから熱を奪っていく
ぎぎぎぎ
時計が鳴いている

そうか、ここに、あったのか、
そうか、だから、みんな、

かろうじて動く指さきで
ポケットを探り当てて
飴玉を取り出すと
口に入れる
甘くて
呼吸の仕方を
忘れてしまった
羽虫たちに
舐めさせてあげたかった
きっと飛んでいってしまうだろうけど

うすい羽
ちぎれている羽
きれぎれの
みんな
行ってしまったの
張り付いた笑顔が
ショーウィンドウに映って
おなかの底から
大声で笑った

ここに、あったのか
そうか、ここに
だから
みんな
みんな、
眠くはないの
ちっとも
こんな暗闇なのに
羽の名残だろうか
うっすらと明かりが滲み出して
ただ
振動だけが



2008年11月10日(月) dadada

わたしたち何も一緒じゃなかった
だからダンスした
ダンスして抱き合った
手足がばたばたしておさまらなくて
痙攣
心臓が跳ね上がり
きみが雄たけびを上げる
わたしは笑いころげてしまう
知りたかったのは
皮膚を超えた向こう側で何が起きているのか
きみがほんとはどこにいるのか
きみの中にある幾すじもの道を
ひたすらに進んでいく一群が抱えていた
景色がいったい何だったのか
捕まえたくて足は地面を押し返す

たくさんのちいさなわたしと
たくさんのちいさなきみが
輪になって手をつないだ
赤かったり白かったり黒かったり
みつあみだったり坊主だったりちぢれてたりするわたしが口々に
歌をうたいながら踊ってる
手を取って
ほら
きみは
まるで高いところからやってきた
だれもしらないくにの使者
読めない手紙を戸口に挿して
音も立てずに去っていくみたいに
聞いたこともない旋律で
飛び立ちそうに眼を透き通らせて
ちいさなわたしの肩と肩に手を置いた
だからわたしは
いっそう強く手あしを揺らして
空気がふるえるのを
全力で受け止めるようにした
うまれるまえの
ほんのかすかな発熱が
まだ目に見えない隙間に残っているのを
思い出したから

もうなにひとつ
説明したくないの
楽譜だとか地図だとか辞書だとかレシピだとか
ぜんぶぜんぶ放り投げたあとに
まぶたに映った景色
それだけを携えて

だだひろい空を
飛行機雲が絶え間なく横切っては消えていく
みんな
通過して行くこの一点で
ダンスする
ようやく温まってきた指先でせいいっぱい
空を切り裂きながら
だれもみたこともないけれど
だれもが一目でそれだとわかるステップで

踊ったら
こどもたちがついてきた
たくさん
たくさん
みんなとてもきらきらとして
誇らしげだ
ばらばらの手足で
ばらばらのステップで
喉の奥から覚えたこともない音楽をこぼして
ただ
触りたかったの
ちいさなわたしがからだじゅうで
きみのダンスを祝福する
輪になって
手をつないで
なんて軽やかなんだろう
一番好きなステップを踏んでね
わたしは飽きるくらいおしりを振って
こどもたちがみんなそのあとに続いて
もう飛び立たずにはいられない

飛行機雲が消え続けている
あの窓からこちらを眺める瞳が
気づかないうちに濡れているのを
なにも知らないこどもたちの
まっすぐあげた雄たけびが
飛行機を貫いた
そのぽっかりとあいた点から
見知らぬだれかのこぼしたしずくが
ひかりみたいにふってきて
わたしときみと
わたしたちときみたちと
こどもたちの頭をきらきらとさせた
なんて
軽やかなんだろう
もうどこへでも行けるから
いっそう強く足を鳴らした
きみのてのひらが肩に触れて
いとしくて
ダンスした
ダンスして抱き合った
それから強くステップを踏んで
わたしたちはどこへでもたどりつける

まぶたに映った景色
なんてまぶしいんだろう
それだけを携えて
わたしは踊りつづける


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