lucky seventh
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なにもできなかった。
ただ、それだけ。
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神の試作品。 人は彼をそう呼んだ。 だけど、彼は知っている。 その影で、彼のことを出来損ないだと失敗作だと言われているのを…
白く、美しい衣服をまとった女性がゆったりと回廊を歩いていた。 歩くたびに、淡いベージュ色の細やかに結われた髪が左右にゆれる。 温かな陽光の中でそれはキラキラと光をはじき、光の尾を描いていた。 すれ違う、みながみなそんな女性の美しさに足をとめて、見愡れている。 しかし、女性はそれを気にも止めることなく、ただただった1人しか 目に入っていなかった。
「エレイソン」
女性の落ち着いた、心地よいアルトの声が聞こえた。
「エルレイン」 どうかしたのか?
呼び声に、庭園に出されて簡素な机と長椅子にこしかけて 本に目を落としていた男性が顔をあげる。 その音質に酷似したテノールの声が、女性に優しく響いて消える。 俯いて影になっていた男性に日の光がかかる、女性と同じように白を基調とした美しい騎士風の衣服がそれをうけ輝いていた。
「エルレイン…エル?」
呼んだまま、返事を返さない女性に男性は優しく、親し気に呼び返す。 それに女性は、あまり変わることのない表情を少しだけくずした。
2人の間が風をすり抜ける。 揺れる髪も気にすることなく、男性は女性を見つめる。 見つめあう2人。 遺伝的に酷似したような二つの容姿、そこには性別の差違はあるものの 見るもの不思議と同種の神々しさ感じさせた。
2人は兄妹だった。 ただしくは同じ神によって造られた神子。 しかし、先に造られた兄であるエレイソンは出来損ない、所謂失敗作で 後に造られた妹であるエルレイン、成功作であった。 神の造りし『失敗作』と『成功作』それが2人であった。
「エレイソン」
けれど、女性である妹にはそんなことは関係ない。
「エリィ、となりいいですか?」
妹は男性を、兄を心のソコから愛していた。 何よりも誰よりも、兄が自分を愛し、支えられていることを知っていたから、
「あぁ」
いつでも応えてくれたから。 兄は、兄であると同時に妹にとってもっとも最愛の人でもあったのだ。
2004年03月19日(金) |
どうしようもなく救いようのないボクに、空から天使がふってきた。 |
めずらしく、思いもがけず、ユウ・スウ・リンは考え込んでいた。 元来、ユウ・スウ・リンは物事を深く考えない性質(タチ)の人間だった。 ああだ、こうだ。と考えるよりも、 あれだ。これだ。と先に決めてしまうのが常だった。 だから、めったに考え込むことなんてなかった。 むしろ考え込む必要すらない人生を送ってきたつもりだった。 ユウ・スウ・リンには悩みなんて何一つない。 天涯孤独の身の上で、独身、友人なんてひとりもいない。 悩みの種になるような人間関係を構築せずに、孤独大好き!と 赤の他人に拳握ってのたまわれるくらいに実は社交的で、 でも、実際はやらないで一般人にさりげなく混ざってて、 クラスメイトにも、「ユウ・スウ・リン?あぁいいひとだよね。」 程度に人当たりもよく。そうとみせかけて実は、 パワフルで後ろ向きに全力疾走+思考のB型人間だ。 才能だって、日常生活に困らないほどいらないくらい無駄にある。 料理、洗濯、掃除に裁縫などの家事は普通に余裕で、 小学に通っていた頃にはすでに自分でなんでも家のことはやっていた。 自分さえいれば、ユウ・スウ・リンにはできないことなんて何一つなかった。 そんな、ユウ・スウ・リンは、この瞬間始めて考え込んでいた。
「人?」
ほんのいっとき前にした買い物で、手にはコンビニの袋を持っている。 中身はおでん、こんな寒空の中で、しかもあまり治安がおよろしくない 下位階層アウトローにに住んでいる身としては、 いつまでもいるわけにはいかない、賢明に立ち去りたい所なんだが、 ビルが密接して立ちならんでいるこんな狭い路地裏の入り口に、 ユウ・スウ・リンは突っ立っていた。 何かを見つめるように、憮然と立ちすくむ姿の その目線の先には、空から降ってきたおぼしき格好で落ちている 薄汚れた衣服を身に纏っている小柄な人影が見えた。
好奇心は猫をも殺す。 君子危うきに近寄らず。
そんな言葉が脳裏をよぎったが、いい加減考え込むのも飽きてきたので 潔く近付いてみる。 するとそこには良く見ると背に羽をつけて、目を回している妖しい人間が落ちていた。 その回りには純白の羽毛が、この人は異様ですよ〜とばかりにさくらんしている。
「捨ておくか?…掃いておくか?」
ユウ・スウ・リンはそれからさらに数時間 ほおっておけばいい。 一番無難な考えをすっかり忘れて本気で考え込んでいた。
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「酷いですぅ」 数時後、常識的な解決策を考え付いて取り合えず警察に突き出そうと 目の前の人物の薄汚れた白いスモッグもどきを掴み、 引きずろうとしたところで、あろうことか目を覚ました不審者は ユウ・スウ・リンの顔を見た瞬間に半泣きで言ってきた。
「こんなに幼気(いたいけ)な子供が傷付いて倒れているんですよ!? 普通は警察に突き出すんじゃなくて、病院でしょぉ!!」
なんだこいつは?
ユウ・スウ・リンは心の中で思った。 金色の短い巻き毛に、二つの青を秘めた極上の宝石のような対の目、 その容姿はまだ幼いが普通の人が見たならば、将来は有望だと はっきり分かるようなあからさまに整った顔だちだった。
幼気か…幼いのは分かる、が、かわいらしいかは甚だ謎だ。 まぁ、ようは単なる乳臭いガキだな。ハン。
表情にはおくびもださず、鼻で笑った。 それがユウ・スウ・リンの不審者に対する素直な感想だった。 一見したらどう見てもココ、ユウ・スウ・リンの住むアウトローに相応しくない 美貌しているのにも関わらず、第一印象があまりにもよろしくなかったようだ。 ユウ・スウ・リンには、不審者から乳臭いガキにささやかにランクがあがっただけだった。
*************
「ちょっと!!……オイ、コラ!!!…聞けや!!! ってあぁ!?スイマセン!!!!殴らないで下さいよぉ〜!! 暴力反対!ビバ☆非暴力!非服従!!!」
ほおっておけばよかったのか……。
不審者から乳臭いガキにランクアップしたソレを見て、 ユウ・スウ・リンは凶器のお玉を握りつつ、いまさら気が付いた。
「ギャッ!!?マジ反省してますから!!! 無言でお玉を振回さないで下さいよぉ〜!!」
厚かましいことこの上なく、モドキはついてきた。
「ってモドキって何ですか!!!!??何モドキですか?? え、、、ありえないしガンモドキですか?それが僕の名前なんですかぁ!?」
しかもチクワブは人の心を覗けるらしい。 プライバシーもあったもんじゃねぇな。ハン。
ユウ・スウ・リンはほんの少しやさぐれていた。 それは、お玉でチクワブの頭を容赦なくぶん殴っても晴れることはなく まるで、芽生えはじめた恋のような、淡いピンク色の殺意だった。
「ってチクワブゥ???まじでありえねぇーし!! って、あああごめんなさい!!!嘘です。羽毟んないでぇ!!! わぁ、なんて素敵で立派な名前なんでしょうかぁ!!」
チクワブの見えかくれする、面の皮の下は真っ黒だった。
きっと腹の中も真っ黒なんだろうなぁ。 ウザイなぁ…。イトコン。
そんなユウ・スウ・リンの本心は、本来なら筒抜けであるが、 羽を毟られまいと必死のガキンチョには届くことはなかった。
「ヒィ−ー−ー!!!???」
そう、届くことはなかった……。
2004年03月16日(火) |
天高くそびえたつは十字架、己のが手で振り下げられたのは銀のナイフ。 |
ナイフを両手に掴みながら、手を組んで祈った。
目の前にそびえたつのは十字架
日本ではポピュラーな宗教の一つで、
希望を見い出そうとする自分
許し乞おうとする自分
何となくきっと、すでに自分は後者を選んでいたであろうことに
その後、病院で気がつかされた。
もはや、すがりつく希望すらない。
天高くそびえたつは十字架、 己のが手で振り下げられたのは銀のナイフ。
回りへの愛情によって生かされていた。
こんなどうしようもない、救いようもない私を、 それでも愛してくれていた。 それは、娘だったからだろう。 それは、友達であったからだろう。 知れないとは言え、こんな私を好きでいてくれた。 嬉しかった。 それと同時にとても哀しかった。 私を愛してくれなければ、私は自由になれた。 愛は鎖となって、私を地に縛りつけてたのだ。
何かに帰属することがたまらなく嫌で、 それと同時に自由から遠のいていくようで恐かった。
短大一年生目、春。 来年に向けての就職準備中、何もしない私と友達の会話。
私は言った。
「働くよりも勉強がしたい。」
友達は言った。
「そう。よく考えるのよ。」
私は返す。
「考えているけど見つからない。 私は欲張りなんだ、たくさんのことを知りたい。学びたい。」
友達も返す。
「ならば、どれか選ばなければいけない。」
私は言う。 私は言えなかった。
「そうだね。」 (選びたくない。)
人は現実を見ろと言う。 私は私の現実を見た。
先のあるもの、将来があるものに
そして、知る。 私は選ぶことを恐れている。 私は選ぶことを諦めている。
行き着く先はどちら?
そして、知る。 似ているようで、全く違うニ択の行き着く先は天国か地獄。 天に逝くか、地に堕ちるか。 天に往くか、地を歩むか。
死にたいわけじゃない
だからといって、生きたいわけじゃない
この世はなんて無気力たんだろう。
生きるためのボルテージを誰かあげて! さぁ、夜明けがきたぞ!!
2004年03月05日(金) |
魔法使いは恋におちる |
黒衣の魔法使いネロ
その名を冠とするとおり、彼のずべては闇のベール包まれていた。
=魔法使いは恋におちる=
「ミレニアム!」
黒髪のスタイリッシュショートの少女が、階上にいる少女の名を 叫んだ。
「はやく、はやく!遅刻するよ!!」
その声に急かされるように、黒髪のセミロングの少女が降りてくる。 ミレニアムと呼ばれた少女の顔だちは幼かった、しかしその顔はまるで 夜の帳のような、年不相応な不思議な落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「ごめんなさい、トリニティ姉さん!!」
一方、トリニティと呼ばれた少女はミレニアムとは対照的に 朝日のような鋭く、温かな輝きを放っていた。 2人は姉妹である。 姉のトリニティ、そして今はここにはいないが彼女の双子の片割れと 妹のミレニアムの三姉妹なのだった。
この日、双子の姉たちの大学は休みだった。 毎朝スクールバスで学校に通うミレニアムに、トリニティは久し振りに 愛車で学校に送ると言ってくれた。 それは、カリキュラムやバイトで忙しく、あまり妹をかまってやれない 姉なりの心遣いであったのだろう。 少しでも、時間をとれれば妹のためにという思いがあった。
「いってきます」
ミレニアムはすでに出かけたもう1人の姉の作ったお弁当をかかえ、 姉の待つガレージに向った。 案の定トリニティはすでに愛車の運転席に乗って、妹を待っていた。 急いで、ミレニアムは定位置の後部座席に乗り込んだ。
「忘れ物ない?」
トリニティの言葉にミレニアムは頷くだけで答えた。 急いで準備をしていたせいで息も絶え絶えで声が出ないのだ。
「珍しいね、ミレニアムが朝からこんなにドタバタするの。」 何かあったの?
車を出しながら、器用にトリニティはミラー越しにミレニアムを見た。 それに対して、ミレニアムは少し困ったようにトリニティを見返す。 まるで、なんといっていいか分からないかのような仕種で、 トリニティは眉をしかめた。 流れる馴染みの風景が遅く感じられる。 その違和感に、少しだけミレニアムの今朝の理由に何か触れたカンジがした。
(落ち着かない…)
手持ちぶたさに相成って自然に手がパイポに伸びていた。 それはトリニティの癖で、よく考え事や何かを待つ時にする動作だった。 その間、数分間の間車内はずっと無言だった。
「……変なカンジするの」
ミレニアムは目を閉じて、言った。 それはどこか、自分の中から言葉を探してつなぎ合わせたような 不自然さがあった。
「それは厄介ごとかい?」
信号で停止しながら、トリニティは前を向いたまま聞いた。 ミレニアムはううん。と、目を閉じたまま首を横に振った。 その顔を思案に染まっている。
「漠然とした始まり」 それしか分からないと。
そう言うとミレニアムは閉じていた目を開いた。
「きっと、何かがかわる。 それが良いことか、悪いことかはぜんぜん分からないケド」 もう、戻れないの。
ミレニアムはぽつりと、だけどはっきりと言った。
「もう、元には戻れない。」 だから、覚悟が必要だよ。
車は何時の間にか、ミレニアムの学校前に着いていた。 トリニティはハンドルの上に力なく、顎をのせた。 ミレニアムの言葉を考えているのだろう。 理解しようというそう言う素振りだった。
「わかった」
ほんの少し時間そうした後、トリニティは頷いた。
「心に刻んでおく」
姉のその答えに、ミレニアムはほんの少し微笑んで、 ドアを開いた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
それは、まさに始まりだった。
ナナナ
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