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■チャリが来た。
2016年11月24日(木)
とある土曜日。

嫁から

「R(中一の娘)の新しい自転車を取りに行って欲しいの」

と頼まれた。

そういえばRも中学生だから、いつまでもちびっ子用のチャリではなく新しいのを買ってやらなければな、と話していたけどそれっきりだったのを反省した。

話が右から左への僕とは違い、嫁はRと自転車屋に行って品定めをし、Rが気に入った自転車を取り寄せてもらった。それが今日届いているのだという。

「わたし、今日仕事だからRと取りに行って」

「うん、分かった」

「ついでにお金も払ってね」

「ンゴオオオオオオ!」

なにがついでに、だ。そっちが本日のメインイベントじゃないか。

「おいくら万円?」

恐る恐る聞いてみたら僕が半年前に西友で買ったママチャリの軽く5台ぶんの値段だったので腰が抜けた。思わぬ出費が。Rも西友で買えばよかったのに…迷わずに〜Say You〜ってチャゲアスか。

嫁が仕事に出かけ、自転車屋が開いた頃、

「R、じゃ、行くか」

腹をくくって行こうとすると

「うん」

Rはそっけなく答えた。

「どんな色かな?」

「紺」

Rはまたもそっけなく。中一になったRはお年頃。ちょっと前まではパパパパとなついていたくせにここ最近は絶賛思春期中でツンツンである。悲しいけれどそれも成長の証、仕方がないね、とRが寝静まった後、涙の数だけ水割りを飲るのである。

微妙な距離感を保ちつつお互いチャリで自転車屋に向かう。

「この自転車はどうするの?」

Rが今までのお子様自転車に乗りながら言う。

「たぶん、自転車屋さんが引き取ってくれるんじゃないかな」

そんなことを話しながら自転車屋に到着。Rの自転車を見せてもらったところ、中学生女子が好きそうなわりと垢抜けたモノ。Rは小さいのでサドルの調節をめいっぱい低めにしてもらい、

「どうだい?」

「うん」

ちょうどいいっぽいのであとは防犯登録とか盗難保険とかお会計とかを僕と店員さんで。

「今日、乗って来られた古い自転車はどういたしますか?引き取りましょうか?」

と店員さんが言ってくれたので

「お願いします」

そうすることにした。

手続きが全て終わり、Rは新しいチャリに乗って家に帰る。ピカピカの自転車を颯爽と走らせるR。なんだか大人びた感じだなあ…と、追いかける僕に

「きゃははは!乗り心地いいよー!」

普段はツンツンのRもこの時ばかりはさすがにご機嫌。そんなRを眺めつつもふと自転車屋を振り返ると、引き取ってもらった古い自転車がちょうど店員さんの手で店の奥に運ばれていくところであった。

あの自転車こそがいつもパパパパと甘えていた時代のRが乗り回していたもの。あの頃のRとはもう二度と会えなく、お別れなのだ…というのを具現化したような光景であった。

もうあの頃は二度と戻って来ないんだなあ…と寂しくなってしまったが、今は今のRでよいのだ。10のうち9.5はツンツンしていていて、たまに0.5ぐらいデレデレ甘えてくる。それが成長した娘なのだ。これでいいのだ。

あとは僕の財布が自転車操業なのが困ったことなんである。

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■髪を切った息子に、違う人みたいと(言ってはいけない)
2016年11月14日(月)
息子・タク(11才)を

「床屋に連れてってあげて」

と嫁に言われた。いつも連れて行っているので毎度のことである。ただし嫁から釘を刺されたことがある。

「髪を切ってもらった後に『もうちょっと切ってもらった方がいいんじゃない』とか言わないでね」

このことであった。タクにはタクの美意識があり、短い髪型が嫌いなのである。カリアゲが嫌いだしおでこを出すのも嫌い。

「たっくんって耳が大きいんだね」

とクラスメイトに言われたことがあるのがコンプレックスになっているようで耳を出すのも嫌い。さすがにタクの言うがままだとロン毛のヒッピーみたいになってしまうので、よく床屋に連れて行った時に

「いやー、もうちょっと切ってもらった方がいいんじゃないの〜?」

と、つい言ってしまうのである。するとタクは

「これがいい!なんでそんなこと言うの!」

途端に不機嫌になってしまう。今日のタクも

「いつもそういうことを言うから本当はパパとじゃなくてママと行きたいんだ。でもママは忙しいから仕方なくパパと行くんだ」

ひどい言いよう。どーせヒマだよ。

そんなわけでテンションが上がらないまま床屋へ。理容師さんに

「カリアゲにならないくらいに短めに」

という微妙なリクエストをしてしばし待つ。どうでもいいがこの床屋、リニューアルして綺麗になったのはいいけれども、備え付けの本棚とドラゴンボール全巻がなくなってしまったのでヒマである。せめてフリーザとの対決が終わるまでは読みたかった。

「お父さーん、いかがですか〜」

しばらくして理容師さんから呼ばれ、仕上がり具合を確認する。

「息子さん、えりあしにクセっ毛がありまして、もう少し整えたいんですがそうするとどうしてもカリアゲになってしまうんですよねー」

と言われる。確かにえりあしにピローンと残る後ろ髪があり、僕でも切りたくてウズウズするのだが、それを聞いたタクの顔が引きつっていたので

「いや、このままでいいですよ」

と答えるとホーっとした顔になった。「もう少し切った方がいい」は禁句だからなあ…。

そんなわけで無事散髪は終わり、家に帰ると

「あら、たっくん、もうちょっとえりあし切ってもらった方がよかったんじゃない?」

と嫁。お前、ついさっき散々僕に釘を刺していたことを…。

「それ言っちゃダメって言ったじゃないかー!」

僕とタクから総ツッコミ受け、

「あっゴメン…」

タクはまたいじけてしまったのであった。いちいちこんなことで振り回されるのもいい加減ウザいので、床屋だけにほっとこーや、なんちて。というわけにもいかず。

僕にも言われ、嫁にも言われ、次はどっちが連れて行くことになるのだろうか。どちらもイヤだからひとりで行くようになっちゃったりして。そういや僕がタクぐらいの年はお金だけもらって自分で行ってたなあ。

髪の切れ目が縁の切れ目。なんちて。

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■ゆーかーり、おーいし♪
2016年11月01日(火)
とある夜、子供達が寝ようとしていた頃。

息子・タク(11才)が学校給食の献立表を見ていた。

「えーと、明日は…ゆかりごはん!ヒヤアアアアア!」

いきなり叫び出し、ドドドドバタンとトイレに駆け込んでしまった。

「なんだありゃ」

不思議に思うと

「たっくんはね、ゆかりが嫌いなの」

娘・R(13才)がニヤニヤ笑っていた。

「ゆかり、ってふりかけのゆかりか」

そういえば森川由加里っていたっけな…ショウミーショウミー…とどうでもいいことを思い出しながら、ふりかけのゆかりを頭に思い浮かべた。

僕も嫌いである。ていうかほとんど食わず嫌いに近い。僕が子供の頃、ゆかりは食べたことはおろか見たこともない。栃木には売ってなかったのだろうか。それとも母が意図的に避けていたのだろうか。だから全く知らなかった。

いつどこで、とははっきりとは覚えていないが、社会人になってから初めて見たのではないだろうか。おそらくどこかの定食屋でゆかりが置いてあるのを見て、え、これごはんにかけるやつ?にしてはなんか紫っぽくてキモい、と避けつつも興味半分にちょっとだけごはんにかけてみたらやっぱりダメだったという記憶がぼんやりとある。それ以来二度と口にしようとせず今に至っていると思う。

トイレの水がンジャーと流れ、

「はあ…」

タクがため息をつきながら出て来た。

「タク、ゆかり、嫌いなんか」

「うん。明日の給食がゆううつだよう」

ショボーンとするタク。

「ま、パパも嫌いだが頑張れや。さあ食え♪、残さないで♪、食え〜食え〜♪スーキヤキテーンプーラ♪」

マイケル・ジャクソンの「BEAT IT」をパロったアルヤン・コビックの「EAT IT」を歌いながらタクを励まし、寝かせた。

翌朝、誰よりも遅く起きるとタクが嬉しそうに

「ママがね、パパのお弁当にもゆかり入れてくれたって!」

「えー!」

「パパも頑張って食べようよ!」

「ええー!」

「パパも頑張って食べるんだな、って思うとボクも頑張れると思うんだ」

「お、おう…」

嫁め、聞いてないフリしてしっかり聞いてるんだからなー。ポジティブな気持ちになっているタクの前で、余計なことするなとか文句を言えなくなってしまったではないか。無責任に励ましていたらすんごいブーメランになって返って来たわ…。ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン、きっと♪あなたは戻って来るだろう♪。

そんな西城秀樹の歌を歌いつつ仕事をしていたら昼休み。弁当箱を開けると白飯の上にパッと降りかかっているゆかりがそこにあった。まるで紫の雨のような。まさにパープルレイン。

おそるおそる一口食べてみた。ああ…妙なすっぱさとしょっぱさ、シソの匂い…、その要素、やっぱりいらない…。普通のゴハンが食べたい…。タクもこんな気持ちで食べているのだろうか。タクよ、僕ら、コアラになれたらいいのにね…。

ユーカリ好きだから。なんちて。

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