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JIROの独断的日記
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2008年03月29日(土) 【ドラマ】「ちりとてちん」最終回への不満。

◆本(脚本)てのは、難しいものですなあ。

昨年暮れ、貫地谷しほりという役者は天才である、という確信を抱きつつあります。ココログ)でちょっと書いたが、

NHKの所謂朝ドラ、連続テレビ小説「ちりとてちん」にハマっていた。

朝は見られないから録画したり、衛星放送の夜の再放送を見たり、結局、殆ど見逃さずに見た。

こんなことは、私の人生で初めてのことである。

何故、ハマッたのかといえば、面白いからであり、何故面白いかといえば脚本が秀逸だったからである。


今日(2008年03月29日(土))、「ちりとてちん」の最終回が放送されたのだが、正直言ってがっかりした。

脚本は意外性を狙ったのだろうが、視聴者が失望するような意外性は良くない。私が一人で憤慨しているのではない。

mixiのちりとてちんコミュニティなど読んでも、ドラマの終盤から最終回にかけて、「否定派」が多いのである(集計したわけじゃないけどね)。


◆背景説明

貫地谷しほり演ずるところの和田喜代美という女の子は、福井県小浜が故郷だが、高校を卒業したのち、親の反対を押し切り大阪へ出る。

この時点では、大阪に出て何をしたいか、自分でも分かっていなかった。

当てもなくさまよっているうちに、たまたま、子どもの頃からテープで聞いて親しんできた落語「愛宕山」を実際に演じていた落語家、

徒然亭草若(つれづれていそうじゃく=渡瀬恒彦)と出会い、落語家になる、と決心をする。最初は弟子入りを断られるが、

紆余曲折を経て弟子入りを許され、徒然亭若狭(つれづれていわかさ)の芸名を貰う。



弟子入りして、早や13年。若狭は、一人前の落語家になった。

草若は病死するが、彼の弟子達が、懸命の努力の末、師匠の家を改造して、関西落語界念願の常打ち小屋(毎日落語をやっている小屋。東京では「寄席」という。

現実世界でもドラマの設定時代には本当に存在しなかった。2006年9月に「天満天神繁盛亭」が初めて出来た常打ち小屋である)「ひぐらし亭」が完成した。

さあ、これからと云うときに、徒然亭若狭(貫地谷しほり)は、結婚10年目にしてお目出度でつわりがひどく、

常打ち小屋「ひぐらし亭」オープンの日に高座に上がれなかった。



しばらくして、妊娠安定期になり、若狭は「ひぐらし亭」で、幼いころから何千回と聞いてきた「愛宕山」を見事に演じ、

拍手喝采を浴びるが、突如「私の最後の高座をご覧頂き、ありがとうございました」と引退宣言をする。

夫(夫は兄弟子の一人)にも、他の兄弟子にも誰にも事前に告げていなかった。

若狭の引退理由は、

「自分がスポットライトを浴びるのではなく、皆の世話をやく、明るい『おかあちゃん』が、本当に自分がなりたいものだと分かったから。」

だった。妊娠してそう言う気持ちになったのだという。

今日の最終回。子供を産み終わって穏やかな微笑みを浮かべる若狭(貫地谷)が映って、静かに「完」となる。


◆不満の理由

若狭は、親の反対を押し切って大阪へ行くと言い出したとき(ドラマ開始間もない、確か第2週)、

何故か、と母親(和久井映美)に訊かれ、

「お母ちゃんみたいに(皆の面倒を見るばかりの人生)なりたくないの」

と云ったのである。

しかし、落語家としてのキャリアを積んで、最終的にたどり着いた結論は、
「自分はおかあちゃんみたいに、周りを幸せにする人になりたい」

ということだった。と、一言でこのドラマは総括出来てしまう。

それはそれで完結するのだが、私は、それでは、若狭にとって「落語」は何だったのさ?といいたくなる。

皆を支える「縁の下の力持ち」も素晴らしい人生なのだ、と云うことを悟る為に、何故、落語が必要だったのか?ということだ。

今までの修業は何だったのだ?

このドラマの特徴と云われていたのは、ヒロイン像が従来と異なる、マイナス思考の娘だ、という設定である。

何に対しても消極的で、何をしても長続きせず、悲観的で、ドジで、無器用で、すぐにオロオロして、物覚えの悪い、

関西弁でいうところの「どんくさい」娘なのである。

そういう娘が、それでも、苦労に苦労を重ねて、他人より何倍も時間はかかったが、一人前の女流落語家になる。

私が期待していた展開は、その若狭の一世一代の晴れ舞台が、「ひぐらし亭」であった。というストーリーだった。

ドラマの大きな要素が落語であって、若狭は既に落語家なのに、最終回は、その落語をやめて、「おかあちゃん」になるのが、

ヒロインの選んだ道だった、というオチは竜頭蛇尾の感を免れない。


また、フィクションと現実を倒錯しているわけでは勿論ないけれど、徒然亭若狭という中堅女流落語家には、

既にファンがいる筈だ。若狭本人が、いくら他にやりたいこと(=お母ちゃん)が見つかったからといっても、

突如、「辞めます」とは、芸人の立場としては、今まで支えてくれたファンに対して失礼である。せめて、引退記念の高座を別に設けるべきだ。



兎に角、折角秀逸の脚本だったのに、今週(最終週)はヒロインの心理描写が不十分だったと思うのである。

あれほど好きだった落語を、妊娠したからと云ってそう簡単に捨てられるものではないだろう。

そして、辞めるか、辞めないか。いつもなら、クヨクヨ悩むのが、このヒロインの性格設定であるにも関わらず、

今週、「落語家→お母ちゃん」の決断は、全然躊躇が無かった(少なくとも私にはそう見えた)。

その心理の変化を、もっと緻密になぞって欲しかった。

全体としては良いドラマだったが、最後でやや裏切られた感じがして、残念だ。

mixiの「ちりとてちん」コミュなどでも侃々諤々の議論(?)が生じている。

「残念だ」と書きはしたが、視聴者、それも滅多にドラマなどというものにハマらない私まで、

このような文章を書いてしまう。つまりそれほど、視聴者を夢中にさせていたということだ。

その意味では、やはり、このドラマ(の脚本)は、総論としては秀逸なのだろう。

今日、DVD-BOX(5月発売)を、早くも予約してしまった。

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