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2007年07月10日(火) |
「アポロ通訳『こちらヒューストン』西山千さん死去95歳」←日本人に初めて「同時通訳(者)」を知らしめた方です。 |
◆記事:アポロ通訳:「こちらヒューストン」西山千さん死去95歳(毎日新聞 2007年7月12日 13時04分)
「こちらヒューストン」「すべて順調」など、人類で初めて月面着陸に成功した
米アポロ11号の実況中継の名調子で知られた同時通訳者、西山千(にしやま・せん)さんが2日、
老衰のため死去した。95歳。葬儀は近親者で済ませた。喪主は非公表。
米国ユタ州ソルトレーク市生まれ。1935年に日本国籍を取得し、当時の逓信省電気試験所勤務。
第二次大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)、在日米国大使館の各顧問を務めた。
69年、「この一歩は小さいが、人類にとっては大きな躍進だ」
というアポロ11号のアームストロング船長が月面に降りた時の第一声をNHKの中継で同時通訳し、話題を呼んだ。
73年ソニー理事に就任、のちに顧問。元日本翻訳家協会会長。
◆コメント:アポロといえば「全て順調」だ。
この記事を書いた人、若い記者ではないかと思う。
西山千氏→アポロ11号といったら、まず思いだすのは、
「こちらヒューストン」よりも、
西山氏がアポロ通訳で幾度となく訳した、
「すべて、順調」という言葉なのだ。
それは、さておき・・・。
今日は、拙日記に(敢えて「日記」と書くのは、ブログを始める前の記事だからである)、
「西山千」で検索してこられた方が、多い。
若い人はアポロ11号の中継なんぞ見ていないのだから(1969年=昭和44年の出来事だ)、
多分私と同世代以上の方だろうが、驚くほど多くの方が来られた。
それほど西山千氏の印象を鮮明に記憶しているのだろう。分かる。
◆アポロ11号まで、日本人は同時通訳(者)の存在を知らなかったのだ。
アポロ11号は、「人間が月に行く」という、夢のような話が現実となったことで、
日本でも大騒ぎだった。
そしてアポロと同じぐらい、日本人は、同時通訳という技術があること。
同時通訳者という専門職が存在する、という事実を目の当たりにして驚嘆したのである。
実際は「同時通訳者」という専門職はおらず、通訳者ならば、時と場合に応じて、
逐次通訳(consecutive interpretation)、つまり原発言者が一区切り話たところで、通訳者が
翻訳する、という方法だが、これも出来なくてはならない。
というか、逐次通訳が出来ないで、同時通訳ができるということは、あり得ない。
しかし、とにかく、当時の日本人にとって「アポロと同時通訳」は、分離できない強烈な記憶として残った。
◆NHKに「あの、英語を日本語にする機械は何というのか教えてくれ」と、問い合わせが相次いだ。
アポロ11号が打ち上げられたのは、1969年7月16日。月面に着陸したのは7月20日だった。
その間、西山千氏と國弘正雄氏がずっと宇宙センターとアポロの交信の通訳をした(させられた)。
当時の日本に、本当に同時通訳が出来る人は数名しかいなかったのである
最初、西山さん、國弘さんは画面に映らず、音声だけが放送された(今、一般的になっている形態だ)。
すると、色々な人から、NHKに
「あの、英語を即座に日本語にする機械は何という製品だ?ウチの会社でも使いたいんだ」
という、今のひとには信じられないだろうが、そういう問い合わせが殺到した。
番組担当者は当然ながら、
「機械ではありません。通訳者が英語を聞きながら同時に日本語に訳しているのです」
と答えた。ところが視聴者は、なかなか信じてくれなかったという。
「ウソを言うな。英語を聞きながら訳すなんて、出来るわけがない」
「ウソではありません。本当に人間が訳しているんです。」
「それなら、訳している人間を見せてみろ」
NHK担当者は、ムキになった。
「わかりました。今夜の放送からお見せします」
といういきさつがあり、それ以降、西山千さん達は、スタジオ内のブース(雑音を遮断するためのガラスの囲い)で
通訳させられるハメに陥った。
百聞は一見にしかず。日本中がびっくりした。ひっくり返るほど驚いた。
「日本人がなりたい職業」というアンケートだか、世論調査があり、それまでは、必ず「医者」か「弁護士」がトップだった。
アポロの年、なりたい職業ランキングの1位は何と「同時通訳者」になった(実際は簡単になれるものではないことは、
云うまでもない)。
◆美しいエピソードがある。
これは、通訳術と私という、
西山氏の著書に載っているのだが、生憎、今手許にないので、
5年前にこの本を傍に置いて書いた自分の文章の一部を用いることをご容赦願いたい。
「美しいエピソード」とは、次のとおりである。
アポロ11号騒ぎも一段落した頃、西山氏が外出の折、バスに乗った。
すると反対側の座席に座っていた、見知らぬ老婦人が自分の事を妙に真剣な顔で見つめていた。
西山氏は服にシミでもついているのかと落ち着かない気分になった。
暫くして、やおらその婦人が立ち上がり、西山氏の前に来て深々と頭を下げて、云った。
「あの、アポロで通訳をした方でしょうか?」
「はい、NHKでやりましたが・・・」
「ありがとうございました。私が生きている間に人間が月に行くなどとは夢にも思っていませんでした。
でも、貴方が通訳してくださったおかげで、全ての様子が良く分かりました。
何とお礼をいって良いか分からないほどです。本当にありがとうございました」
西山氏は感激した。
暑いスタジオで汗まみれになって毎日何時間も通訳してへとへとになった苦労を一瞬にして忘れるほどだった。
西山氏は後々まで、この時のことを思い出すと目頭が熱くなる、と「通訳術と私」に書いている。
西山氏の流暢な通訳は勿論見事だが、
この後日談はそれ以上に感動的だ。今の日本にこの老婦人のような人がいるだろうか。
西山千さん。本当にあのときは有難うございました。
ご冥福を祈ります。
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