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JIROの独断的日記
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2003年01月12日(日) ウィーンフィルのホルンとリヒテルのピアノ どちらも、日本製です。

世界に冠たる日本の製造業技術は電気製品や自動車ばかりではない。西洋発祥の楽器の製作においてすら、随分前から日本は世界のトップクラスにある。

 ウィーンフィルは毎年元日にニューイヤーコンサートをやるので(特に昨年は小沢征爾が指揮したので)、名前を知っている人は多いだろう。要するに世界最高のオーケストラである。

 世界中に上手いオーケストラはいくつもあるが、ウィーンフィルは技術的に上手いばかりではなく、その独特な響き、オーケストラ全体としての音色、が一つの大きな特色である。それを構成する要素は無数にあるだろうが、分かりやすい要因としては、オーケストラの響きに大きな影響を与える、ホルン、オーボエが、世界でウィーンフィルハーモニーにしか存在しない、ウィンナーホルン、ウィンナーオーボエという特有の楽器を使っていることが挙げられる。

 楽器と言うのは消耗品であるし、使っている間にメンテナンスが必要になることも多い。かつてのウィーンにはこうした楽器を扱う伝統職人が大勢いたのに、時代の推移とともにその数が激減してしまった。ウィーンフィルの命である、ウィンナーホルン、ウィンナーオーボエが作れなくなるところだった。そこで、なんと、ウィーンフィルから日本の楽器製作会社、ヤマハに、製作依頼が来た。日本の楽器製作者たちは現代技術の粋を駆使しながら、大変苦労して、ウィーン製楽器の音響上の特徴と、それを可能ならしめている楽器構造上の特徴を突き止めた。出来上がった楽器をウィーンフィルのホルン奏者、オーボエ奏者に試し吹きしてもらった。
彼らは、この楽器は完璧だと日本人楽器製作者たちの努力と技術を絶賛した。いまでも、ウィーンフィルのオーボエ、ホルン、そして、私の知る限り、トランペットは、日本人の手によって作られた楽器である。

 リヒテルというのは、これまた、歴史に名を残す世紀の大ピアニストであり、楽器選びには大変神経質な人であるが、あるときから、ピアノ界の王者、スタインウェイやベーゼンドルファーよりも、ヤマハに注文して作ってもらったピアノを非常に気に入り、それ以来、ずっと、演奏会ではヤマハのピアノを弾いている。

 リヒテルは世界的大家なのだが、あるとき、「私のピアノを作ってくれている人たちにお礼がしたい」といって、わざわざ、浜松のヤマハのピアノ工場にやってきて、リサイタルを開いた。このエピソードはNHKの「プロジェクトX」でも採り上げていたから、知っている人もいるだろう。
 
 ヤマハのピアノ製作者たちは、大変驚いた。リヒテルといえば、世界中の超一流オーケストラと超一流のホールで演奏する人である。その本人が、要するに工場の中の会議室を会場として演奏してくれるというのである。しかも、リヒテルは、演奏に先立ち、作業服姿で集まったピアノ職人たちに向かってこういった。

 「私は、今日ほど、緊張する演奏会はありません。なぜなら、ここにいる人々は最もピアノを愛する人たちばかりなのですから」

 だめだ。この話を書くと、泣けてくる。


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