スカーレットの心のつぶやき
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昨夜、娘と母が向かい合って話しこんでいた。
母が話していたのは
自分が満州に渡った頃のこと。
娘は一生懸命に聞いていた。
母は話し始める前にこんなことを言った。
「じいちゃんのために忘れよう、忘れようと思っていたら
いつの間にか忘れてしまったことが多くなった」と。
父は母が満州に居たという話を嫌った。
父は初婚、母は再婚だった。
母が満州に渡ったのはその初婚相手と一緒だったから
父としては母の満州での生活を聞きたくなかったのだと思う。
母は話を始めた。
母が満州に行ったのは満州鉄道警備隊に居た人と
結婚するためだった。
昭和16年、戦争の始まる前だった。
港へ母親が送りに来ていた時
母親の顔が涙でぐしゃぐしゃになっていたことを
今も母は忘れられないと言った。
船で大陸に渡り、満州へ。
広大な土地、田舎の方だから一軒家しか建っていない。
そんな寂しいところで暮らし始めた母の気持ちを思うと
私は胸が痛くなった。
聞いている娘は何も言わずじっと聞き入っていた。
母は美人だった。
だから、満州の田舎に居るのは勿体無い、
都会へ出たら良いと言われたと嬉しそうに話していた。
満州の地の日常があやしくなって
日本に戻ることになった。
そして結婚した相手に赤紙が来て召集。
南の島で戦死した。
最後に、母はぽつりと言った。
「私が満州へ結婚していこうと思ったのは
家が裕福でなくて嫁入り道具を母親に揃えてもらうのが辛く
満州へ行李ひとつの荷物で行けたから」
「満州で見た夕日が大きく赤く綺麗だった」
二十歳になるかならないかの頃の話は
娘にとって不思議に思えたかもしれない。
きっと娘にとって忘れることの出来ない
祖母との時間となったに違いない。
戦争を体験した人の話は貴重だ。
戦争を知らない世代の私にとって
本を読んだり映画を観たりすることからしか
知識を得ることは出来ない。
本当は戦争体験者から実際に話を聞くことこそ
真実を知ることの第一歩だと思う。
後一年半したら娘は大学生になりこの家を出る。
一人暮らしが始まる。
その一人暮らしの中で何か辛いことがあったとき、
昨夜祖母から聞いた話を思い出して
頑張ってくれたら、私の母もきっと喜ぶに違いない。
娘にとって有意義な夜になったと思う。
スカーレット
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