「顔ってのは結構重要な要素だと思うわけ」 「……何が言いてぇんだよ」 亜久津が、右頬に、深くはないが浅い5センチ弱の切り傷なんてつけて帰ってきた。 喧嘩の最中、一人が刃物を取り出した時に、うっかりついてしまったそうだ。 亜久津は勝ったのだから文句を言うななどと言うけれど、俺はその言葉すらもむかついた。 「別に、ただムカつくだけ」 だから傷口に塩でも擦り込むように薬を擦り付けた。 「ッ痛ェよ!」 頬に触れていた手は、即座に亜久津に叩かれた。 俺は亜久津を睨み返した。 亜久津はひどく不機嫌そうな顔で俺を見ていたが、程なくして、ふいと顔を背けて床を睨み付け始めた。 「…………何でお前が怒るわけ?」 「お前が煩いからだろ」 「しょうがないじゃん、俺亜久津の事構いたくてしょうがないんだから」 「頼んでねぇ」 「俺がそうしたいんだよ」 「……馬鹿じゃねぇの」 「馬鹿だもん、俺、ちょっとした事でも、気になるんだもん亜久津の事」 嗚呼ダメだ。 ダメだ、ダメだ、もうだめだ。 結局亜久津に負けるのはいつだって俺だ。 「…その体は、俺の好きな亜久津が亜久津である存在証明の一つなんだよ?」 「…………顔が好きなのか?」 「うん、いや、ううん、全部好きなんだ、亜久津の事、全部、顔も、手も、仕草とか言動とか、全部、全部、全部好きなんだよ」 俺は亜久津が好きなんです 世界で誰より。
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