これのさらに続き。 -- 彼の叫び声に驚いて、千石は目をみはったがすぐに溜め息をついた。 そして彼を抱き締めると背中をぽんぽん、と優しく叩いた。 「…でも…死にそうになる事は…俺の前ではやめてくれない?」 「……ッつうか誰だてめ…離せ!」 途端に暴れ出す彼を必死で押さえる。怪我人のくせに力が強くて、手こずりながらも返事をする。 「俺はね、清純。千石清純…この寺の居候……君は?」 「……寺……?」 「うん?」 彼はその単語を聞いた途端、不思議とおとなしくなった。 「……じゃあ………護符とか貼って…あんのか…?」 「…んー……あぁ、貼ってある柱あるね……」 「ックソ…全部剥がせ!」 「どうし…」 どうして、と言いかけた千石の耳に、遠吠えが聞こえた。 同時に、聞いた事もないのに千石は、その声が狼だと直感的に思った。 だが狼だなんてこんな街中に存在するのか、否、狼は犬ではないのだ。街で暮らす狼の話なんて聞いた事もない。 狼、と言おうとした次の瞬間、外から電流が弾けたような音が聞こえた。 同時に腕の中の彼が痛そうに顔を歪め、低く呻く。 「…ッ…………!……入れない、から…全部剥がせ…!」 「…い…一ケ所だけ…じゃ、だめ…?」 何が起こっているのかさっぱりわからず狼狽え、千石はちらりと彼に視線をやった。彼は先程よりも強く、鋭い目で千石を睨んだ。 「…いいから…早くしろ!」 「わ、わかった」 そしてあわてて一番近い護符らしきものが貼ってある柱へと走り出した。 電流のようなバチバチという音と、狼の鳴き声が聞こえる事に、よけい急かされるような気分だった。 「あった!」 墨で何やら経のような物がかかれた薄い札を乱暴にベリベリと剥がす。 全部剥がれた所で、先程まで聞こえていた音がようやく聞こえなくなった事に気づき、また慌てて彼のもとへと走った。途中、廊下で滑って転びそうになったが、どうにか転ばずに走りきった。 「は、剥がしたよ?!」 あわてて部屋の中を覗けば、彼は床に倒れていて、完全に気を失っているようだった。 「……あ……」 そしてその側には、気を失った主人の顔の傷を舐める一匹の、狼がいた。 「……さっきの……もしかしてお前…か?」 主人の髪によく似た灰銀の毛色をした狼は、ふいに千石のほうを向いた。 その赤い目が千石を捕らえる。 「…………」 千石はたまらずごくり、と唾を飲んだ。 何だろうか、この、全身が粟立つような、この感覚を……恐怖と、いうのか。 目を瞑る事ができない。 身じろぎもできない。 声も出ない。 息をするのすら億劫に感じる。 暫くの間、空間は沈黙に支配された。 千石がああこのまま飲み込まれそうだ、と思った所で彼が目を覚ました。 彼は目を開いてすぐに側の狼に手をのばし、それを抱きしめ、また目を瞑った。 その表情の穏やかさに、千石は驚いた。 先程までのあの殺気立った様子は何だったと言うのか。 「…………あの、…さ……」 そして、狼の視線から逃れた千石はようやく声を出した。 -- ちなみにタイトルにいつもクエスチョンマークがついてるのは中断した時に痛いなぁ、と思ったからなんとなく。 あー…なんか今回不発な感じだ…サイトにのっける時に書きなおすか消すかもー…。 ……むー……前回のがまともだった…ああもうなんなのかこの話…。
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